70 そうするのが当然、という顔で
エピソード・エンディング。
濃厚な中身だったんで、短いけど、ここだけカット。
デザートみたいなもんです。
店は、三日まで休みと親父が決めた。確か、去年もそんな感じだったと思う。
で、年末年始の間を、親父は実家で過ごすのだそうだ。
顔が、なんか引きつっていたのは、気のせいじゃない。
親父、実家とはあまり仲が良くない、というより、付き合っていないらしい。
それが、なにしに帰るのかなんて、野暮な事は聞くものじゃない。
同じように、親父も俺に、年末年始はどうするのか、なんて聞かなかった。
そう、野暮な事は聞くものじゃないのだ。
例え、アルバイトの分際で店の保証人になってくれと頼む事が仁義に反していようがなかろうが、とにかく頼むだけ頼んでみるのが本当の筋というものだ。
俺も、実家とはあまり仲が宜しくない。
まあ、滑り止めでようやく受かった大学を、二年半も休講していたのだ。
そんないい加減な息子と仲良くしろったって、中々できるものじゃない。
まして、ウチの親はそんなに人間が出来てない。
だから、どうせダメ元のつもりで、ちょっと顔だけでも出してみようかとは思っていたのだ。
まあ、大学に再び通い始めた報告もかねていけば、機嫌の一つも取れるかも知れない。
そう思って、帰省客でほぼ満員のJRに乗っているのだ。
ただ、隣の席にれんげちゃんが座っているのは、やはり仁義にも義理にも道理にも反しているし、筋も通っていないと思うのだが…
でも、彼女はそうするのが当然、という顔で、俺を見てにっこりと微笑む。
まあ、確かに親父とは血の繋がりが無い以上、そっちの実家には顔を出しづらいのは判る。
判るんだけど、なんで俺の方なの?
いや、別に、嫌だとかなんとか言ってるんじゃないんだ。
その、あの、誤解を恐れずに言えば、誤解されてしまうだろうということで。
えっと、だから、年若い男女が実家に揃って顔を出しに行くという事は、日本の伝統的風習という観点からしてネエ…
なんて、言えなかった。
そんな事、顔から火が出るくらい恥ずかしくって、れんげちゃんに説明できなかった。
いや、説明したくなかった。
常識で、判ってくれると思いたかった
その上で、彼女は俺についてくるのだと思いたかった。
…いや、れんげちゃん、世間知らずな所があるから、そんな事、思いもしないんだろうな。
まあ、いいや。
俺の家族が、もうイヤと言うほど、れんげちゃんにその辺の事教えてくれるだろうし。
そんな俺の思いを知ってか知らずか。
れんげちゃんは、美味しそうに駅弁を頬張っていた。
(続く)
鳴人君、年末年始は実家に帰省。
そして、なぜかれんげちゃんも、同行。
年頃の青年が、女の子を連れて、実家に帰省。
うん、そういう話ですよね。
ですよね?
次章、風雲急を告げる!…のか?




