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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第12章 今年最後の営業日、接客って大変、来々軒の評価

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68 毒舌キツイのは、そのせいか

 話なんか、したくも無いんだけどなぁ…

 うっ、れんげちゃん、そんなに睨まないで…

 しかたがないなぁ、親父、俺にもビールをくれよ。

 ギロッと睨んでくる信金野郎、根岸。

 テメエなんか信金野郎で充分だ…

 と、調理場の方から、なんとも熱い視線を感じる。

 わ、分かったよ、れんげちゃん。この際、個人的な感情は控えますって。

「おぅおぅ、鳴人君も、一杯やるかい?」

 何も知らなさそうに、にこやかに親父が微笑んでビールを継いでくれる。

 まあいいや。どうせ向こうも飲んでるだし。

 素面じゃ、ちょっとヤッてられない気分ではあるし。

 あの時。親父に殴られた時は、結構イタかったんだからな…

 おっと、イカンイカン。感情は抑えて抑えて…

 俺はグッとビールを飲み干すと、信金野郎を、腰を据えて見つめた。

「来々軒の帳簿を付けています、五味 鳴人といいます」

「…君が?あ、いや、根岸、根岸 伸夫です」

 律儀に、俺にも名刺を渡してくれる。

「ウチのラーメン、どんな所が美味いんですか?」

 決算書を手元に残したまま、俺は奴のテリトリーに探りを入れる質問を放つ。

 いい加減な舌加減なのか、ラーメンが本当に判る奴なのかによって、対応が変わってくる。

 それ位、来々軒のラーメンの原価率、ひいては経営状況は危険なのだ。

「五味さん、自分は、今まで飲食店の融資を専門にやってきました」

 なんだ、話を逸らすのか?

 でも、この男、真剣な様子ではある。

「ご亭主にもお話しましたが、自分は、美味しい店を盛り立てる事に、社会的使命すら感じています。

 しかし、本当に長く続けて欲しい、過当な競争を生き残って欲しいと思える店は僅かです。正直、自分の見立てが狂った時も結構あるんですよ」

「例えば?」

「この味はいい、この店はいいと思って、融資を申し出て、店が改装される。

 行列ができて、繁盛し出したが、忙しくなりすぎて、手間をケチるようになる。

 味は落ちるし、目先を替えようとメニューを切り換えたのはいいけど、儲け重視の形だけの料理を出す。

 行列が出来ている位だから、お客は何も分からないまま、ずっと通ってくれるもんだとでも思ってるんでしょうかね」

「ああ、それはそうかも」

 以前に、俺も来々軒の行列ぶりを見て、同じように思ったことがあったな。

 その時は、まさか自分がここの従業員になるとは思ってもいなかったが。

「自分が客として店に行って、この味はダメだ、こんなやり方では客は離れると言っても、もう聞く耳なんて持たない。店が成功したと思い込んでるから、もう天狗になっちゃってるんでしょう。

 でも、客は正直なんですよ。味覚という官能を求める分野って、結局、形だけ整えてもきちんとした物を作らないと、やがて見限られてしまう」

 ハハ、毒舌キツイのは、そのせいか。

「結局、はやらなくなり、客足は落ちて、なんとかしなくてはと思うけど、楽に儲ける方法を知ってしまった今となっては、以前の味を取り戻す情熱も技術も失せている。

 自分にしても、この味ならと思い入れて、通いつめて、限度額一杯に融資して、店主に喜んで貰って、店も美しく改装したのに、後に残るは不良債権のヤマと筋違いのウラミツラミ。

 この前、そこの店に顔を出してみたら、剣もほろろに追い返されましてね。

 “全部キサマのせいだ!”なんて、怒鳴られましたよ」

 へえ、アンタも苦労してるんだね。まあ、仕事だからしょうがないよね。

 って、親父、こんな話で涙ぐんでるんじゃないよ!

「上司にまで、オマエは信金には向いていない、お前の考え方は間違っていると叱られるし、もう、こんな仕事、やってられるか!ってんで、やけ酒を煽りましてね。

 おっと、スイマセンねえ。じゃあ、こちらもご返杯を…

 で、ついつい、ラーメンが食いたくなって、来々軒に立ち寄らせて貰ったんですけど、なんか、ご亭主、イイ人っぽくて、ツイツイ愚痴をこぼしてしまったんですよ。まさか、あんな騒ぎになるとは思いませんでしたがね。アッハッハッハッ」

「そうかいそうかい、アンタも苦労してるんだねェ」

 こらこら、親父まで一緒に笑ってるんじゃない。

 アンタの事情なんか知ったことか。結局、俺の一人損じゃないかよ。

「で、“今の”来々軒のラーメンは、どうなんですか?店を広げても、やっていけそうだと思えるんですか、飲食店融資の“プロ”の目から見て」

 ベラベラと語ってたけど、結局、自分の失敗談って事じゃねえか。

 という皮肉を聞かせたつもりだが、上手く伝わらなかったようだ。

「スープは超一級、全国ラーメン大会に出展しても上位入選は間違いないですね。最近の傾向は、コッテリ重厚系が強くて、オリジナルラードとトンコツ煮詰めじゃないと勝ち残れないと言われているけど、このさっぱり系複合重層型スープは、その傾向を打破できる力を備えていると思います。

 メインスープは、ラーメンには珍しい牛骨がメインで、弱点となる脂身の足りなさ、味気なさを、もう1種類…トリガラだな、で、さっぱり感を保ちながら味の骨組みを強化しています。そして、隠し味のようにもう一つか二つ、スープを混ぜているでしょう。帳簿を見れば判るんですがね」

「見ないと、判りませんか?」

 鋭く睨んでやると、初めて俺の事を認めた、という風で、ちょっと顔が引いた。

 アンタも相当なラーメン通だろうけど、俺も捨てたもんじゃないんだぜ。

「ハハ、キビシイですね。自分はプロのラーメン屋じゃないからので、これ以上は判りません。魚介類と、野菜スープというのは間違いないと思いますが、中身まではなんとも。

 普通、これだけ複合にすると、味のバランスが壊れるはずですが、このスープはお互いの味がお互いを生かしあってドンブリ全体を見事に昇華させています。

 具のバランスもいいし、スープや麺に上手く合ってますね。酒のツマミに出せそうな位に味が濃いのに、ラーメンの味を損なっていない。業者が丁寧に作っている証拠でしょう。…と、それがこのオツマミですか。なるほどなるほど」

 気付けよ、それ位。

「チャーシューが、これ単品としては極めて美味しいのですが、ラーメン全体との調和、バランスを微妙に損なっているとも思えますね。サッパリとしていて、何杯でも食べられそうな味わいだからこそ、ちょっとクドク感じるんですよ。

 後は、麺、麺でしょうね。ここまで作り上げた味なんだから、麺の業者を変えるか、材質を替えて、もっと高級感を出してもイケルでしょう。まあ、今の“庶民的な”味わいを演出しているこの麺も、かなり美味しいのですが」

 へえ、まあ、一応の舌は、持っているわけだ。

 味の評価は、大体俺と同じだな。

 いけ好かない野郎だけど、とりあえずは、合格だと思う。

 最終的に俺が決めるわけじゃないけど、話は、進めていいと思う。

 

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