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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第10章 調べる鳴人、疑われる彼女、ラーメンの原価

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52 まさに原価率80%の、収益なんてまるで考えていないラーメンである

 原価率80%のラーメン。

 まさに夢のラーメンといいますか、あり得ないといいますか、趣味全開といいますか。

 普通の飲食系商品の原価率は、販売価格の大体30%に設定すると言われております。

 たまに、50%と噂されると言いますか、宣伝しているらしいといいますが、そういう所も耳にはします。

 そういう所は、店がボロかったりします。そっちに回せる予算が捻出できないんでしょうね。

 なので、その数字に一応の信ぴょう性があったりするんですよね。


 80%。うん、創作ですよね。フィクションですよね。ファンタジーですよね。

「参ったな…」

 原因を探り出して、もう一週間が過ぎる。

 だが、未だに原因が判らない。

 怪しいと思える所は全てチェックし、自分なりに直接相手の会社に連絡を取ったりして確かめた。

 すべて、正当な取引であり、多分に事情がからむ所でもあるが、れんげちゃんに不審な所は認められない。

 じゃあ、いったいこれは、どうなっているんだ?

 損益計算書を、穴が空くほど眺めながら、俺は考え込んだ。

 来々軒のラーメンは、醤油、味噌、塩とも500円だ。

 なのに、一杯の原価は400円以上。

 醤油で原価390円、味噌で400円、塩だと410円になる。

 慣らして平均すると、この数字になるという計算だ。

 まさに原価率80%の、収益なんてまるで考えていないラーメンである。

 売り上げとしては、一杯500円のラーメンが毎日四百杯キッチリ出ているので、一日につき約20万円。月で500万円になる。

 しかし、原価率が80%なのだから、月の儲けは100万円。

 これは粗利益であって、さらにそこから人件費が引かれる。

 れんげちゃんに給料50万、俺のバイト代は25万。

 残りが親父の取り分。25万しかないぞ?

 親父、店の経営の事、なんにも分かっていないんだろう。

 店の改装などと親父はほざいていたが、自分の生活費ですら、アヤシイもんだぞ?

 経営状況がこんな苦しすぎる台所事情で、改装しますだなんて、まず無理だろう。


 不審と言えば、後はもう麺の仕入れ値しかない。

 だが、麺の業者に関しては、以前から長い付き合いをしている近所の小さな製麺業者である。

 他の業者はれんげちゃんが来てから変わったのだが、ここだけは昔のままだ。

 なので、調査対象には入らない。

 ただし、麺の値段は昔とは明らかに違う。

 以前は1玉15円程度の、どこにでもある普通の製麺を使っていた。

 だが、今は1玉100円の高級麺を仕入れている。

 国内産最高級小麦を使用し、鹹水、卵とも厳選に厳選を加え、職人的な技量の冴えか、最新式の製麺機でなければ醸し出せない最高の麺なので、仕入れ値が高いのは仕方がない。

 俺は、実家の周辺やバイト先でいろんなラーメンを食べてきたが、客を唸らせる麺というものは、まだ食べた事がない。

 それぞれに工夫を凝らしたり、スープに合わせたりしているので、確かに旨いのである。が、同時にそれは、最高の麺を使ってはいない事も示しているし、理屈としてもよく分かるのである。

 スープは、安い原料でも工夫と情熱次第で素晴らしく旨い物が出来る可能性がある。ちょうど、来々軒のスープのように。

 だが、手間と時間がかかり、大量に作らなければならない麺は、同じようには行かない。

 手打ちの麺は、確かに旨い。

 だが、大量には作れない。限定品となってしまう。

 そして、麺打ちになる修行もキツイし辛い。

 つまり“割りに合わない”のである。

 そういった手間隙を専門に、機械を使って行なってくれる製麺業者は、確かに安定した麺を供給してくれる。

 腕の有無は確かにあるが、原材料の仕入れも含めて、確かに「専門」の業者として地位を確立していると言えよう。

 だから、麺に関しては、多少高くついても仕方がない。

 特に、品質を最高レベルに保ちながら、毎日大量に作らなければならない麺を、信頼のおける麺打ち業者に委託する為には、多少高くつくのは当然とさえ思う。

 だから、帳簿に関しては、もう調べる所はない。

 仕方がない。このまま帳簿を見せて、あとは親父の判断を仰ぐしかない。

 親父としても、収益の少なさを変だと思うだろうが。

 もしかして、俺がごまかしているとすら疑われるかも知れないが。

 俺としては、もうどうしようもない。

 ベストの、最高の仕事をして、この結果だったのだから…

 自分なりに、そうやって割り切ると、なんだか気持ちが落ちついてきた。

 すると、なんか無性に来々軒のラーメンが食べたくなってきた。

 あのラーメンは、俺の心の原点であるとすら言い切れる、そんなラーメンなのだ。

 …そういえば最近、れんげちゃんはラーメンをまかないに作ってくれなくなったな。

 いや、俺自身、疑念が頭の中を渦巻いていたから、そんなもやもやとした気持ちを抱えて来々軒のラーメンを食べる気にはなれなかったのかもしれない。

 だけどまあ、全く収益がないという訳じゃないし。

 あれだけのお客さんが毎日通ってくれるのだ。多少の値上げは、考えてもいいだろうし。

 第一、確かに素材は全て厳選した最高級の物を使っているのだ。原価が高いのは当たり前だし、それだけに美味いのも当然である。

 …ああ、なんか無性にラーメンが恋しい。

 とはいえ、店はもう閉めちゃったし、れんげちゃんはもう寝てるだろうし。

 …しかたない、でも、なんかラーメン食べたくてしょうがないんだよな。

 一度そう思うと、どうも止まらない。

 いっそ、余所のラーメン屋にでも行ってこようか。

 うん、まあ、敵情視察というか。

 今までの、ただのラーメン好きという視点じゃなくって、ラーメン屋に勤めている従業員としての観点から食べに行くというのもいいかもしれない。

 若さに任せて、俺は身支度し始めた。

 そういえば、最近、ラーメンを食べていないなぁ。

 もう時間も遅いけど、あそこはまだやってるよなぁ。

 遠いけど、まあいいや。


 鳴人君、もう自宅にいるのに、こんな時間に、わざわざ食べに行くんだ。

 いろんな理由をつけてはいますが、やはりラーメンフリークだけの事は、ありますなぁ。

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