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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第9章 手伝う彼女、教える鳴人、来々軒の帳簿

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48 彼女、本当に、純真で純粋なんだ

 彼女との抱擁の余韻も冷めないまま、アレコレ考える鳴人君。

 色々と忙しいんだけど、うん、俺、来々軒に貢献できてるよなぁ。

 そして、考えは巡って、またれんげちゃんの事を…


 うぅん、若いって、イイなぁ!

 明日の開店の支度があるという事で、れんげちゃんは帰っていった。

 帰ったといっても、お店で晩御飯を用意してくれるという話だけど。

 なんでも、親父さんも夕方には店に顔を出すということで、一緒にご飯にしようという事になっているようだ。

 だから、俺は店の手伝いよりも簿記の方を仕上げた方がいいとか言っていた。

 親娘で、そういう話でもしていたんだろう。

 いっそ、一緒に住めばいいのに。

 別に仲が悪そうでも、ないんだけどな。

 ただ、れんげちゃんと親父の苗字が違っていたという所が、多分二人を隔てているのかもしれない。

 店でも“マスター”、“彰油さん”としか呼びあわないし。

 まあ、多分、俺には計り知れない色々な事情というものがあるのだろう。

 …まったく、お互い、もっと素直になった方がいいと思うんだけどね。

 俺と、れんげちゃんのように…

 俺と、れんげちゃん?

 ハハ、さっきの泣き顔のれんげちゃん、可愛かったよなあ…

 彼女、本当に、純真で純粋なんだ。

 あんな伝票貼り一つにしても、一生懸命にやろうとして。

 でもそれが、かえって俺の手を煩わせている事に気付いて。

 それで、急に泣き出したんだろうな。

 ハハハ、まるでお母さんのお手伝いをしているつもりの小さな子供が、かえって邪魔してしまった時みたいだ。

 …でも、体は、しっかり、大人だったよなあ。

 大きくて柔らかい胸。

 抱きしめる腕の力の強さ。

 小柄なのに、きりっと締まった腰…

 あああ、れんげちゃん、いいよなあ…

 ピイィィイィィ!

 俺の妄想に対する警告音のように、プリンターが高らかに音を上げた。

 …紙詰まりだった。

 この、中古品が!

 俺は腹立ち紛れにバシッと殴ってやった。


 ようやく印刷の終わった決算書を取り出す。

「どれどれ…」

 一昨年と、去年の分は…まあ、こんなもんでしょ。

 家賃の安さと親父の取り分の少なさで。

 まあ、なんとか赤字にはならないといった所だ。

 普通のラーメン屋なら「こんな手間かけて、これだけの稼ぎなら止めた方がマシ」となるけど。

 親父にも、ラーメン屋としての意地が、ほんのチョッピリ残っていたんだろう。

 他に出来る事がないとも、言ってたしな。

 …こうして見ると、ほとんど毎日のように通っていた俺の存在って、かなり売り上げに貢献している。

 大学にも通わずに、ただバイトして、ぼけらっと過ごしていた俺でも、来々軒を支える役割は果たしていたんだなあ…

 それに比べて、今の俺の変わりようは!

 …ちょっとの間、感傷に浸ってしまった。

 気を取り直して、今年の決算書(まだ今期は終わってないけど、どうせ残り二週間もないし)に目を通す。

 れんげちゃんが来る前は、別に変わらないんだよな。

 問題は、彼女が来た月から…

 あれ?

 赤字?

 赤字、になってら。

 入力、間違えたか?

 俺は慌てて元帳の方を調べる。

 仕訳項目ごとにまとめてある帳簿なら、入力ミスは一発で分かるはずだ。

 …ミスは、無いな。だいたい、入力はれんげちゃんにさせないで、俺が全部やったんだし。

 どういうことだ?

 よくよく目を通すと、売り上げに比べて仕入れの金額が急に多くなっている。

 それも、現金でのやりとりじゃなくて、“掛け”(ツケのこと)扱いだ。

 まあ、翌月からは、売り上げの方も伸びてきて、黒字に戻っているのだが。

 仕入れ先が掛け払いを認めるのは、つまり信用や実績があるからだ。

 だからこそ、面倒な現金払いを後回しにする事を認めてもいるのだ。

 当時の来々軒に、そんな信用も余裕もあるはずが無いのだが。

 まあ、仕入れの量が、個人商店程度という事もあるのだろうが。

 それでも、いや、だからこそ、普通はそういう事は認めないものなのだが。


 そして、十二月の途中までで、今年分の全収益を示す損益計算書に目を通した時。

「あれぇ?!」

 昨年、一昨年の来々軒とはさすがに違うが、収益があまりに少なすぎる。

 まさに、普通のラーメン屋なら「こんな手間かけて、これだけの稼ぎなら止めた方がマシ」状態である。

 俺は、目を皿のようにして、入力ミスがないか、調べ直した。

 スクラップブックに張りつけた伝票とコンピューターに入力したデータを、始めから照合しなおした。

 コンコン…

「鳴人さん?」

 俺の部屋のドアが、規則正しい音でノックされ、れんげちゃんが顔を覗かせた。

「あのぉ、ご飯、出来ましたけど…」

「ゴメン、今、忙しい」

 俺は、後ろも見ずに手だけ上げた。

「…もしかして、わたしの、せい…」

 うわっと!

「違う違う、絶対に違うからッ!」

 俺は大慌てで振り返ると、スクラップブックを放り出しながられんげちゃんの元に駆けずりよった。

 頼むから、もう俺の前で泣かないでくれ!

 い、いや、泣いちゃだめだっていうんじゃなくって…

 そういう、君の悲しそうな顔を見た時、俺、どうしていいか判らなくって…

「え?え?」

 そんな俺の様子に、彼女の方がびっくりしたようだ。

 …なんだ、別に泣きそうなわけじゃないのか。

「…マスターも来られてますし、晩御飯、冷めちゃいますし…」

「…分かった。今日は切り上げるよ」


 データをセーブして、片づけながら、俺は内心複雑な境地だった。

 まだ最後まで終わってないけど、俺の入力にミスは殆ど無いはずだ。

 あれだけの売り上げがありながら、収益がほとんど無いだなんて…

 これだけ、みんな頑張って働いているのに…

 

 こういう場合。

 色々、考えられる要素は、あるんだ。

 その中には、税務署の怖い人たちが考えるような事もあって。

 さらには、警察沙汰になりそうな要素ですら、あり得ない話じゃなくって。

 …参ったなあ、親父に、なんて言えばいいんだろう。


 少しでも“足し”になればと思って始めた帳簿付けが、こんなに俺を苦しめるだなんて、あの時は思ってもいなかったのに。



                             (続く)


 あれ、会計、なんか間違えたか?

 なんで「こんな手間かけて、これだけの稼ぎなら止めた方がマシ」状態なんだ?

 嘘だ、オカシイだろう?!


 この章では収まらなかったんで、次の章に持ち越します。

 いや、こんなに長くなるとは思ってなかったんです。

 内容も濃い割には地味なので、鳴人君とれんげちゃんに頑張って貰って…

 いや、彼らは勝手に動いてくれるんで、背中を押す必要はないんですが。

 …だから長くなるの、か。

 

 

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