45 うわぁ、さすがに速いですね
仕分けと仕訳。
この辺も、簿記を習っている人とシロウトでは、全然違います。
ラーメン作りに特化したれんげちゃんと、シロウトの鳴人君位に、違うんです。
という事を、表現したかったんです。
パソコンの横の空いたスペースに、一昨年の伝票を仕訳していく。
枚数が少ないので、簡単に終わる。
ただ、れんげちゃんの“仕分け”に結構ミスがあったので、自分でやり直したけど。(簿記として“仕訳”する場合は、項目ごとに分けるのが常識なんだよね)
「うわぁ、さすがに速いですね」
れんげちゃん、目を丸くして俺に見とれている。
いや、コツというか、きちんと習っていれば、そう難しいもんじゃない。
まして、たいした売り上げや取引があったわけじゃないし。
れんげちゃんの来々軒での仕事ぶりに比べたら、こんな事なんでもないよ。
「…わたしの仕分け、間違いありました?」
「ハハ、大丈夫だよ」
“仕分け”と“仕訳”の区別がつかないわりには、頑張った方だよ。
軽く笑って流すと、俺は入力作業を始めた。
会計ソフトのいい所は、仕訳入力さえしてしまえば、面倒な決算書や元帳を一発で出力してくれる所だ。
俺の実家では誰もパソコンを扱えないでいたし、そもそも機械を使おうなんて発想すら無かったから、全部手書きで記帳していたけど。
俺の右手がテンキーとカーソルを流れるように動き、左手が伝票の束をドンドンめくっていくのを、彼女、惚れ惚れと眺めている。
まあ、悪い、気は、しない。
うん、悪くは、無いけど。
でも、ちょっと、気恥ずかしい、かな。
「…れんげちゃん、そろそろ、お腹、空かない?」
「あっ、そうですね。わたし、なにか作りますねっ!」
パタパタと台所に行くと、しばらくして包丁のリズミカルな音が聞こえてきた。
キーボードを叩く音と。
包丁が具材を刻む音と。
ああ、なんか、いいなあ…
うーん、残業を家に持ち込んだ夫と、それを労って美味しい料理をこさえる妻。
まるで、新婚家庭みたいだよなぁ…
なんて、調子に乗ってくると、俺の場合、仕事がはかどるらしい。
一昨年、去年の分と、簡単に捌いてしまった。
問題は今年。それも、繁盛し始めた下半期の分だよな。
「あのぉ、お昼ご飯、出来ましたけど…?」
「うん、ちゃぶ台だすよ」
俺は、入力を切り上げると、小さなちゃぶ台を取りに立ち上がった。
包丁がまな板を叩く音と。
伝票をめくりながらキーボードを叩く音が重なる。
なんか、いいなぁ…
さすがに、調子に乗りすぎだろ。
いいじゃないかよ、妄想する位さぁ。
だって本人が俺の部屋にいて、メシ作ってくれてるんだぜ?
これこそ、来々軒繁盛記ってものだろ?
…いや、さすがにチガウゾ。




