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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第8章 恋のライバル、吟味する彼女、親父の過去

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36/87

36 ナベさん

 ハイ、恋のライバル、満を持して登場です。

 結構早い段階で、作品に顔を出しています。

 白河作品は、名前ありの登場人物はかなり掘り下げて描写します。だって、レギュラーだし。

 彼の今後の活躍ぶりにも、ご注目下さい。

 話をしながら、銭湯の看板が見えて来た所で。

 後ろから来た車が、俺たちを追い抜いて脇に止まった。

 宅配の車だ。

 いつも店に来ている『イーグル宅配便』じゃないか。

 こんな遅くまで、配達も大変だなあ…

 と、降りてきた運転手が、俺たちの所まで走ってきた。

「こ、こ、こんばんわっ、彰油さんっ!」

「あらぁ、ナベさんお疲れさまです」

 ナベさん?

 なんだ、そんな愛称で呼ぶほど、れんげちゃんと親しいのか?

 と思ったら、なんだ、いつも店に配達に来る兄ちゃんじゃないか。

 そう言えば、れんげちゃんの引っ越しの時、運転手と一緒にコイツがいたよな。

 時々、俺も荷物を受け取るので、なんとなく顔は覚えている。

「お、お出かけですか?」

「ええ、すぐそこの銭湯に。…もしかして、お荷物、お店に届いていますか?」

「いいい、いえ、そんなんじゃないです。…えっと、その、お風呂、ですよね」

「はい…?」

 なんだ、コイツ。

 なに言いたいんだ?

「えっと、その、そちらの、方は?」

「はい?」

 れんげちゃんも、わけが判らなそうだ。

「いやその、そ、そ、そちらの、男性、は?」

「お、俺の事?店に荷物届けて貰う時、俺、時々受け取ってない?」

「…」

 しばらく、俺の顔をマジマジと見つめる運転手。

「ああぁ!」

 …ああぁじゃないよ。

 お得意先の顔位、覚えろよ。

「なんでオマエがれんげちゃんと一緒に銭湯行くんだよ!」

「なんでって…」

 なんでアンタが怒ってんだよ。

「だいたいオマエ、ただの店の常連だったろうが!どうしてあんな店でバイトなんかしてんだっ!」

 そ、そんな事言ったって…

「あのぉ…“あんな、お店”…ですか?」

 恐る恐る、といった風に、れんげちゃん、横から口を挟む。

「あっ…い、いや、その、あの…」

 急にしどろもどろになった運転手。

「まだ、配達がありますのでっ!」

 ものすごい勢いで車まで駆けていって、配達車にあるまじき急発進で走り去って行った。

「いったい、何だったんだ…?」

「いったい、何だったんでしょうね?」

 俺たちは、期せずして綺麗な感想のハーモニーを漏らした。

 あんまり見事にハモッタので、れんげちゃんの方を振り向くと。

 彼女も俺の顔を見つめていて。

 それがあんまり可笑しくて、お互い、声を立てて笑いあった。


 れんげちゃんは、女の子の割にお風呂の時間は短い。

 だから、時間を待ち合わせても、俺は待たされた事は無かった。

 ともすると、こっちが大きく遅れる位だ。

 銭湯を出たばかりの彼女は、髪の毛をいつものお団子にはしていない。

 すっかりほどいて、後ろで軽く束ねているだけだ。

 肩ごしに揺れる髪は薄く茶色に染まっており、ちょっとクセ毛っぽいウェーブがかかっている。

 湯上がりの湯気を立てて、まるでラーメンの麺のようにも思えてくる。

 普段からあまり化粧もしないし、髪の毛にもそれほど気を使わない彼女は、だからというわけじゃないけど、自然に立ち込める仄かな良い香りを放っていた。

 小柄な彼女の頭が、ちょうど俺の肩の上くらいで揺れて歩いている。

 密かに、本当に密かにだが、俺はその香りを楽しんでいるし、この香りが好きだ。

 彼女は、俺と初めて出会った時以来、いつも自然体だった。

 自分をいつでも偽る事はなかった。

 自然に笑い、自然に泣いていた。

 だからこそ、俺はそんな彼女の本心が、よく分からなかった。

 俺自身、普段から心を偽って、心を隠して付き合おうとする連中しか知らなかったし、痛い目にも合わされてきたから。


 お前、れんげちゃんと一緒に銭湯にいくだぁ?

 何なんだよ、ふざけんなよ、調子に乗ってんじゃネエぞ!

 あのぉ、別にナベさんには、関係ないお話ですよね?

 あ、いや、その、何でも、無いです…

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