122 いや、俺、悪くないよな?
確かに、れんげちゃんと免許の写真のお母さん、似ていない事もない。髪形とかは違うけど、顔の輪郭なんかそっくりだし。親子なんだから、まあ当たり前か。
それにしたって、有効期限も思いっきり切れてるじゃないか。レンタカー会社のヤツ、一体何を確認したつもりになってるんだ? れんげちゃんに見惚れてでもいたのか?
という事は、この車もどうやら正式な手続きをすっ飛ばして、自分の権限を利用して個人的に融通したという事だな?
じゃないと、こんなあからさまなミスが起こるはずもないし。
まあ、店の常連だというからチェックも気安くやってしまったんだろうし、下心が無きにしもあらず、というヤツだろう。イーグル宅配便のナベの野郎といい、れんげちゃんに近寄ってくる男共にはロクな奴がいないよな、全く。
それにしても、お母さんの免許だから娘も運転できるだろうと思い込む、彼女の神経がしれんぞ。
大体、そもそも車の運転なんかした事すらないんじゃないのか?
いくら運転しやすいオートマの軽とは言え、遊園地のゴーカートとは訳が違うだろうに。
…なんか、空気が変だ。
どうやら、そういう視線で、俺はれんげちゃんを睨み付けているらしい。
つまりは、全くもうこのバカ娘は、という視線で。
さすがにそれは判るようで、運転席で彼女はひたすら小さくなっていた。
いや、俺、悪くないよな?
わざとらしいため息をついて、彼女に助手席に移って貰う。
話を聞くと、母親の免許の住所が、今日の目的地らしい。
ナビに向かって住所を入力し、そのまま彼女にお母さんの遺品(形見)の免許証を手渡す。
俺は、左右を充分に確認して、そろそろと車を走らせ始めた。
そ。俺は正真正銘の普通自動車免許を持っている。コイツはウソじゃない。
普段、スクーターを乗り回しているのは、単に効果対費用の問題だ。アパートの脇になんとか車一台置けるスペースがあるにはあるが、今までの俺の生活で車が必要だと思った事なんか無かったし。
だからまあ、ペーパードライバーであることに変わりはないのだが、乗り回しの良いオートマの軽乗用車なので、結構、スクーターと同じ感覚で運転できる。ようはスピードさえ抑えればいいわけだし。
「ゴ、ゴメンナサイ…」
「いいよもう。俺も、しばらく運転してなかったから、そんなに上手くはないんだけどね」
「い、いえ、でもすぐに車、動かせましたし…」
「だから、もういいって」
そりゃ、免許持ってりゃ、動かす位は誰だって出来るでしょう。
それが「お母さんの免許」でなければ、ね。
「ス、スイマセン…」
どうも、柔らかく言おうと思ってはいるのだが、キツク聞こえてしまうらしい。また、俺も自然とそういう言い方をしているのかもしれないし。
なんとなく気まずい雰囲気をお互いに醸り出しつつ、俺は車を幹線道路に入れた。
「道が割と空いているから、予定通りに着くと思うよ」
「は、ハイ…」




