120 ごめんくださーい、お隣さんでーす
一段落ついての、店の定休日。
今日は、一日中寝ていようと思っていたのだが。
朝から、俺は可愛らしいノックの音で目を覚まされた。
「ごめんくださーい、お隣さんでーす」
女の子の声。
って言っても、ロクな知り合いのいない俺に、こんな優しいイタズラを仕掛けてくれるのは、彼女しかいない。
「ちょっと待ってて」
いくら何でも、下着姿では出られない。
ラーメン屋修行のお蔭かどうかは判らないが、すっかり素早くなってしまった身支度を整えて、俺は玄関を開ける。
「おはようございます、突然スイマセン」
ジーンズに革ジャン。
普段はお団子にしている髪を解いて、今日はポニーテールに結い直している。
いつもの店での感じとは、全然違うれんげちゃん。
オフ姿の彼女も、また別の可愛らしさがあって、いいよなぁ。
「いや、別に…まあ、上がって」
うわずりそうな声をなんとか抑えて、平静さを装う。
「スイマセーン」
ちょっとウキウキとしたハイトーン。いつも元気だけど、今日はかなりご機嫌の様子だ。
ホント、どうしたんだろ?
いや、来てくれるのはいつでも大歓迎だし、こんな風に気軽に部屋を尋ねてくれるのは、俺を信用してくれている証しなんだから嬉しい限りだけど、さ。
でもまあ、まだ、そんな間柄って訳でも、無い事もないけど、有る事も、無いような…
いやでも、まあ、用事があるから来るわけで、無いから来ないというのはそれも少し寂しいわけで…
「どうしたんですか?」
勝手知ったる我が家みたいに俺の布団を畳みながら、不思議そうな顔で俺を見るれんげちゃん。
って、オイオイ、どうして俺の部屋のおさんどんを始めちゃうわけ?
いや、嬉しいけど、とっても嬉しいんだけど、でもまあ、まだ、そんな間柄ってわけでも…無いことのないような、あるような…
「鳴人さん、今日は何かご予定あります?」
手を休めずに動かしながら、背中越しに尋ねてくるれんげちゃん。
もう、一家の主婦然として、冷蔵庫まで開けてるし。
「い、いや、一日、寝てるつもりだったけど…」
苦にはならないとはいえ、慣れない仕事続きで、結構疲れてもいるし。
いや、親父さんやれんげちゃんと一緒にラーメンを作るのは、とても楽しいんだけどね。
だから、幾らでも頑張れるよ、というのは、まあ、言い過ぎだけど、さ。
でも、いつかはきっと、君のために君を納得させられるようなラーメンを作れようになりたいし。
だから、仕事が辛いとは出来ないとかは、なるべく言いたくないし、言わないようにも心掛けている。
けど…なんで?
「じゃあ、今日はわたしに付き合って下さいませんか?」
「え? いいけど…どこ行くの?」
「そうと決まれば、さ、早く支度支度!」
やけに楽しそうに、れんげちゃんは朝御飯の支度を始めた。




