111 今の自分にできる精一杯の
あれから1週間後。
信金野郎、根岸との約束の日が、ついにやってきた。
俺が親父さんと同じように麺をゆでられるかどうか、審判の日、というわけだ。
審判は少し大げさかもしれないが、根岸と親父さんとの意地の張り合いがどっちに傾くか、ということになる。
俺の中では、五分五分だよなあ、とは、思う。
自信があるのか無いのか、あいまいだなと思わないわけでもないが。
気持ちの問題というのは、少なくとも俺みたいな人間にとっては割と大切な事の様だ。
俺は、親父さんのようには麺を茹でられない。
というか、イーグル配送便のナベの方が、俺なんかよりはるかに上手く麺を茹でられる。
それをいうなら、れんげちゃんには一生かなわないだろう。
でも。
親父さんが、俺の茹でた麺にはアイがある、自分が守ってきた味だというのなら。
その辺のことは、俺が考える話じゃないのだと割り切ることに決めた。
あと、これが大きいと思う。親父さんの茹で方を真似るのを、止めた。
つまり、味が同じなら問題はないし、親父さん自身が、自分の真似は出来ないと言っているのだから。
俺は俺のやり方で麺を茹でればいい。そう決めた。
味は、多分だが、常連として来々軒に通っていた自分の舌が覚えている。
今までの、麺の茹で方はさっぱり分からなかった俺とは違う。自分で言うのもなんだが、高価な食材を散々ダメにしてきたが、その分、真剣に練習した。
だから、自分なりの茹で方でいい。
問題は、どうやってアイのあるラーメンを作るか、だ。
親父さんは、奥さんのためにアイのあるラーメンを作ってきた。
じゃあ、俺は、誰のためにアイのあるラーメンを作るんだろう。
そりゃ、もちろん、れんげちゃんのために、だろう。
でも、れんげちゃんは俺なんかが作ったラーメンを受け入れてくれるんだろうか。
いやいや、あんなに一生懸命、俺に仕事を、ラーメンを教えてくれたれんげちゃんなんだ。全くダメということは無いはずだ。
今の自分にできる精一杯の、アイのあるラーメンを作れれば、それでいいじゃないか…




