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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第17章 鳴人のもてなし、親父の復帰、両親の来訪

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112 きちんと結果を見に来ますからね

 相変わらず、客入りが薄かった来々軒だが、仕込みを調整しているので、麵やスープ、具材が大きく余ることは、もうない。

 それはそれで寂しいと思うのだが、もう、そういうことにこだわるのは止めている。

 

 そして、営業終了の夜。

 示し合わせていたのか、待ち合わせなのか。

 信金野郎、根岸と、イーグル配送便の、ナベさんが、一緒に店にやって来た。

「さ、どんな修行をして来たのか知りませんが、麺を茹でて頂きましょう」

 なんでお前が威張ってるんだ?

 ただの食い逃げ野郎のくせに。

「謝るなら、今の内だぜ?」

 だからナベよ、お前は何の関係も無いだろう?

 そんな風に幾ら煽られたって、俺は俺のできる事をヤルだけだ。

 いつも通り、お湯が煮えたぎった大きな寸胴鍋に、人数分の麺を投入していく。

 麺の様子を見つつ、手はドンブリを並べて、塩味の調味スープを入れていく。

 そこで、手を止める。

 まだ、少しだけ、早い。

 ふと目を上げて、信金野郎やナベが俺を睨んでいるのを確認する。

 その横で、れんげちゃんや親父さんが、俺を見つめている。

 ふと、息を吐き、肩の力を抜いた。

 一旦、鍋の底に沈んでいった麺が、浮かび上がるそぶりを見せた時。

 メインスープをドンブリに注いでいく。

 これは、焦らなくてもいいけど、手早く行う必要がある。

 人数分を注ぎ終えたタイミングで、大鍋の表面で、麺の花が開いていった時(れんげちゃん、うまいことを言うと思う。最初はさっぱり分からなかったけど)、平ザルで、そこから掬い取るように麺を揚げた。

 湯切りは、派手じゃなくていい。手首のステップを利かせて、素早く、そして丁寧に2回振る。

 チャッ、チャッ…

 程よく固まった麺を、平ザルから滑り込ませるようにドンブリの中へ。

 一杯目、二杯目…

 次々に浮かんでくる麺を掬い上げては、ドンブリの中に流し込んでいく。

 今回は、麺の茹で方を見るだけだから、具は入れない。

「ヘイ、塩ラーメン四丁、お待ちッ!」

 手が止まり、自然に声が出た。

 そのまま、根岸さんやナベさんを見つめる。

 今、この時、彼らは俺の客になった。

 親父やれんげちゃんも、俺の客だ。

 客は、ラーメンで、もてなさなければならない。

 それが、来々軒の、ラーメンというものだから。

 根岸が、れんげちゃんの運ぶドンブリを手に取って、何やら眺めまわしている。

 いいから、早く食えよ。もったい付けるなよ。

 ナベさんも、なぜか俺を睨みつけたまま、食べようとしない。

 いいから、お前も早く食えよ。

 親父さん、出されたラーメンを、何のためらいもなく啜り始めた。

 その横で、れんげちゃんも一緒に啜り始める。

 二人で見つめ合い、頷き合う。

 その様子を見つめていた根岸、ようやく、麺を啜り始めた。

 ナベさんも、同じように食べ始める。

 4人が麺を啜る音が、客のいない静かな店内に、静かに響いていた。

 プハァ…

 満足した、完食した声を、音を。

 俺は、久しぶりに聞いた気がする。

 俺の、俺自身の、来々軒のラーメン。

 客のためじゃない、俺のための、俺しか出来ない、来々軒のラーメン。

 ただ。

 これで、いいのか、親父?

 これは、親父の、アイのあるラーメンじゃ、ないんだぞ?

「鳴人君。君は、あっしが見込んだだけの男だヨ」

「鳴人さん、これは、来々軒のラーメンです…」

 そう言ってくれるのは、分かってる。

 ずっと、そうやって俺の事を励ましてくれた二人だから。

 でも、本当に納得させなければならないのは、根岸やナベさんの方なんだ。

 親父の作るラーメンの味が好きで、通ってくれていたお客さんたち。

 この人たちを納得させるだけの腕を、気持ちを、アイを、俺は持っていないという自覚は、ある。

 それでも、俺はここのラーメンが好きだから。

 来々軒のラーメンが大好きだから。

 こうして、平ザルを振るっているんだ。

「腕を上げたね、鳴人君」

 根岸が、俺をじっと見つめて、そんな事を言い出した。

「お前、何をやったんだ?」

 ナベさんが、お前インチキしてるだろうとでも言いたげな顔で、俺を睨みつける。

 でもまあ、とりあえずは納得してくれたみたいでは、あるな。

 いや、言いたい事は判る。

 その気持ちはよく分かるんだ。

 俺も、麺茹でがそこまで上手くなったという自覚は、無い。

 ただ、自分なりに茹でているだけ、自分のタイミングで茹でているだけの話だからな。

「ただ、これを営業中に同じペース、同じ味で出し続けられるかは、別の話ですよ」

 根岸、今度は親父をじっと見る。

「はん、鳴人君はあっしが見込んだ男だゾ? 出来るに決まってるだろ」

「分かりました。試験は半分合格ですが、もう少し様子を見させて貰いますよ」

 おいおい、なんか根岸、勝手に話をまとめてるぞ。

「様子って?」

「以前のような行列とは言いませんが、昼夜の営業で合計四百杯、きっちり捌けるようでしたら、無利子無担保で一千万、お貸しいたしましょう。捌ける量が減るという事は、返済ができないというようなものですからね」

「ああ、いいとも。賭けはもう勝ったも同然だからネ」

 何で親父、勝ち誇った顔してるんだ?

 対照的に、悔しそうな根岸。これって、負け惜しみレベルなのか?

「きちんと結果を見に来ますからね」

 捨て台詞を残して、根岸とナベは帰っていった。

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