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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第16章 来々軒の常連、親父の若い頃、誰のためのラーメン

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108 こうして自分のまぬけな顔を鏡で見るような気軽さで

 あまりにも眠れなかった夜を過ごし、俺は出勤の支度を簡単に済ませる。

 と言っても、二階から下の店にいくだけだから、準備も何もない。流し台兼用の洗い場(いや、逆か)でヒゲを剃って顔を洗い、歯を磨いて調理服を着込んで、それでおしまい。

 鏡の向こうの俺の顔は、ちょっと腫れぼったい気がするが、まあ、事故みたいなものだし。

 結局、警察にはなんだかんだと、一時間程、厄介になっていた。細かい所まで根掘り葉掘り聞かれるのには参ったが、最近、この手のストーカー事件が多発しているので、過敏になっている、というより、慎重に捜査しているという事なんだろう。俺たちにとってはいい迷惑だが。

 このままではラチが開かないので、最後には親父さんを夜中に電話で起こして、電話で身元確認を済ませる事で、ようやく開放してもらった。

 警察の連中、やる事が回りくどいんだよ。まあ、端からみていれば、確かに俺は女の子を追いかけ廻していた(しかも、喘ぎながら、だよなあ…)ストーカー、というよりは変質者にしか見えなかったんだろうし。

 いや、それはいいんだ、別に。誤解なんだし。

 問題なのは、こうして自分のまぬけな顔を鏡で見るような気軽さで、れんげちゃんとは顔を合わせづらい、というだけの話で。

 なんだかんだ言って、結局、俺…“告白”しちゃった訳で。

 しかも、これからもほとんど毎日、顔を合わせるわけだし。

 いや、普段から一緒に働いているからこそ、彼女の人となりを好きになった訳なんだから、そんなに深刻になっても仕方がない事なんだし。

 大体、女の子と付き合うのは別に初めてという訳では無いんだ、けど…

 こういうのって、中々慣れないもんだよなあ…

 こんな事を鏡の前で、一人でブツブツ呟いているのは、全く自分でもアホくさいと思う。幾ら店が暇だからって、無駄な時間を過ごしている場合じゃないんだし。

 覚悟を決めて、部屋を出て、店に向かう。

「あ、鳴人さん、おはようございます」

「おお、鳴人君、昨日は大立ち回りだったみたいだネェ」

 げっ、こんな時間に親父が来てやがる。れんげちゃんと口裏を合わせたり、心の準備をしておくつもりだったのに。

 肝心のれんげちゃんの方といえば、普段通りの愛想の良い笑顔だ。

 こういう時は女の子の方が度胸が据わるというのは、俺の経験上、間違ってはいない。

「親父さん、昨日はすいませんでした」

「なあに、いいヨいいヨ。若いうちは警察を相手にする位の元気がなくっちゃネエ」

 そ、そんなに面白そうに、ニヤニヤと笑わなくったっていいじゃないか。

 こっちだって別に、好きで捕まった訳じゃない、只の警察の誤解なんだってば。

 でもまあ、れんげちゃんのアルバムに写っていた若い頃の親父は、確かに警察だろうがなんだろうが、突っ張り通してしまいそうな迫力があったからな。警察とガチンコやっても平気とか思うのは、当時からなのかもしれない。

「鳴人君、今日からあっしも、麺の仕込みをやるからネ」

 ああ、なんだ。俺たちを心配して、早めに店にきたという訳じゃないのか。

 実の娘との事じゃないにしても、やはり叱られるかもしれないな、とは、覚悟していたんだけど。

「もう、腕の方はいいんですか?」

「いや、まだあんまり動かせないけどネ。あまり怠けていると、カンが取り戻せなくなるからネェ。鳴人君と交代でやれば、そんなに負担にはならないと思ってネ」

 確かに、調理台はそんなに広くないので、交代でやるしかない。

 じゃあ、掃除を済ませた後で、れんげちゃんのスープの仕込みでも手伝うか…

「あ、鳴人くんは、あっしの手伝いをして欲しいんだヨ。ほら、まだ腕が万全というわけでも無いしネ」

「は、はい…」

 ちらっとれんげちゃんの様子を伺ったけど、彼女はさりげなく了解の合図をくれた。

 まあ、仕込みの量はそんなにあるわけじゃないし、今の俺の能力で彼女を手伝える事は、実はあんまり無いんだし。

「鳴人くん、冷蔵庫から麺を出しておくれ」

「はいっ!」

 そのまま俺は、普段通りの麺の下ごしらえの準備を始めた。

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