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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第16章 来々軒の常連、親父の若い頃、誰のためのラーメン

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105 ハイ。わたしのお父さんと、母です

 大好きな女の子のお部屋に、お招きされてしまった鳴人君。

 もう、ドッキドキですね。

 

 わたしも、ドキドキしてますよ。

 これから、大切な話をするので…


 いつもの古びた鉄の階段を登る音が、なぜか騒々しく聞こえる。

 一部屋離れているだけの同じアパートに住んでいるというのに、自分の部屋に帰ってきた気がしない。

 手前にあるれんげちゃんの部屋の戸のカギを彼女が開けて、いつもの朗らかな笑顔で「どうぞ、ちょっと狭いんですけど」と言われて、俺もようやく落ち着きを取り戻してきた。

 玄関の狭さは、当然だけど俺の部屋と同じ。

 ただ、ホワイトボードを張りつけて、その上からカワイイ小物を釣り下げたりと、女の子らしい清楚な飾り付けが居心地の良さを感じさせてくれる。

 だが、大きな紺色の暖簾を潜った時、俺は目の前にデンと構える大きな収納棚に頭をぶつけそうになった。

「あ、あれ…?」

 ぐるっと見回す余裕も無い。

 八畳の部屋の中央に、いかにも頑丈そうな大きな木製収納棚が3台。

 棚の中は、食材の壜詰や缶詰、袋物がぎっしりと並べられていた。

 まさにちょっとした食料庫、それもこのまま飲食店を開けそうな量と種類だ。

 おいおい。

「こっちです、どうぞ」

 声のするまま台所の方に行くと、彼女が路上でカフェでも楽しめそうな、お洒落な折り畳みの丸イスと小さなテーブルを出してくれていた。

「鳴人さんは、夜でもコーヒーとか大丈夫なんですよね?」

 洒落た喫茶店にでも置かれていたら、レトロな雰囲気がインテリアとして実にしっくりときそうな手動式コーヒーメーカー(サイフォン式だったっけ。初めて見た)の支度をしながら、彼女は心持ち弾んだ声で尋ねてくれた。

「へ、平気だけど…」

 平気じゃないのは台所の方だ。

 なにしろ、ものの見事にステンレスで壁から天井まで被われており、まるでお店の調理場さながらだ。換気扇も、大きな風除付きの特別製に交換されている。

 ガスコンロも一般家庭にあるようなものじゃなくて、来々軒においてあるような業務用の本格的なものが二つ。

 それでも折り畳みの丸テーブルをおけるだけの広さがあるのは、食器棚と冷蔵庫が見当たらないからで、多分、居間に置いてあるからなのだろう。

 ハハ、これじゃあ彼女とドウコウも無いよなあ。恐らく、奥にあるはずのもう一部屋も、似たような状況なのだろう。

 大家さんの許可、ちゃんと取っているんだろうか?

 だなんて,妙な事を考えてしまった。

「あ、あのさ、あの…?」

「ハイ?」

 小首を傾げるれんげちゃん。

 自分の部屋の状況なんて、気にもしていないようだ。

 店の飾りつけのセンスは抜群なのに、なんで自分の部屋は“倉庫”と“調理場”なんだよ…

「いつも、どこで寝てるの?」

「ハンモックを吊るして、寝袋の中で、ですけど?」

 な、なるほど、ね。

 まあ、人間立って半畳寝て一畳あれば充分だから。

 …なんてわけないだろう。普通の人間が生活する状態じゃないぞ、これは。

「わたしの部屋、オカシイ、ですか?」

「あ、いや、うん…」

 面と向かっては、さすがに言えないけど。

「スイマセン。でもわたし、物心ついた時から、ずっとこんな部屋で過ごしていましたから。この方が落ち着くんです」

 …落ち着く?

 なんか、24時間仕事漬けみたいな気がして、休まらないと思うんだけどなあ。

 でもまあ逆に、俺も彼女と一緒に仕事をしているような気分を取り戻せたから、冷静にはなれたけど。

「で、見せたいものって?」

「ハイ…」

 喫茶店並みに本格的に沸かしたコーヒーをドリップしている間に、彼女は奥の部屋でしばらく捜し物をしていた。

 持ってきてくれたのは、やや古びたアルバムだった。

「これ?」

「ええ」

 促されるままにめくってみると。

 知らないラーメン屋の前で20代前半位の若い夫婦ものが、はにかんだ表情のままで立っている写真が収められていた。

 二人とも、どこかで見たような顔だ。

 男の方は、前時代的に反り上げたパンチパーマと、鋲を打ち込んだゴツイ革ジャンで武装している。鼻が微妙に曲がっているのと、油焼けした顔色を除けば、誰だか見当なんてつかない所だが。

 女の方は、まるでれんげちゃんがそのまま年を重ねたみたいだ。色の薄い茶系の髪を頭の上でお団子にして束ねている所といい、細く切れ上がった瞳を朗らかな笑顔で包んでいる顔の輪郭といい、本当にそっくりだ。

「もしかしてこれ、親父さんと、れんげちゃんのお母さん…?」

「ハイ。わたしのお父さんと、母です」

 へえぇ…

 親父、昔はツッパッてたんだ。俺が来々軒に通っていた頃のやる気のなさそうな感じとは、全くの別人だな。カメラを睨み付ける表情は、自信に漲っている。

 ああ、そうか。今の親父、時折そんな顔を見せる事があるよなあ。

 アルバムをめくると、二人でスープの仕込みをやっている写真、若かりし頃の親父が麺を茹でている写真、奥さんが客と一緒にツーショットで写っている写真など、来々軒の様子が次々と浮かんでいった。

 昔はツッパリだった親父と、れんげちゃんにそっくりな、彼女のお母さん。

 自分の親世代にも、若かった時代があるんですよ。(当たり前ですが)


 現在、親父は41歳。

 れんげちゃんは、20歳。

 ですから、この写真は少なくとも20年以上前でなければなりませんね。

 ラーメン屋を開業してますから、何年かは経っているはず。

 …親父、10代後半には、ツッパリから足を洗って、ラーメン屋に勤めてますね。

 ノウハウは、れんげちゃんのお母さんが持っていたんでしょうけど。


 若いというか、勢いがあるというか、怖いもの知らずというか。

 辻褄は、合います。というより、これ位じゃないとね。


 書いていて、あれ、年齢設定を間違えたかと思っちゃいました。

 ドキドキ。

 

 

 

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