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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第15章 落ちる客足、ナベの奮闘、怒る親父

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99 ぐるぐる、ぐるぐる

 なんだよ、親父。

 別にれんげちゃんを叱らなくてもいいじゃねえかよ。

 ホント、訳が分かんねえよな。


 読者も、そう思っていそうで、コワイ…

「な、なんだよ、一体…」

 しばらく呆然としていた俺だが。

 よくよく考えてみると、別にれんげちゃんは悪くないじゃないか。

 勝手に押しかけてきたのは、ナべさんの方なんだし。

 まあ、あの人は確かに部外者で、しかも仕事上の付き合いはこれからも続くだろうから、無下に怒鳴り散らすなんて出来ないけど。

 なにも、れんげちゃんに怒鳴らなくたっていいじゃないか。

 怒るなら、俺を怒ればいいんだ。なにも、れんげちゃんを…

「れんげ、ちゃん?」

 彼女、俯いたまま、震えている。

 泣いて、いるんだ。

 …ホント、いつもは元気で明るい娘なのに。

 こういうは、泣き虫だよなあ。

「君が悪いわけじゃないんだし。後で俺の方から親父には説明しておくから」

 れんげちゃんは、俯いたままかぶりを振った。

「いえ、わたしが悪いんです。わたしが、マスターの、お父さんのお気持ちを、判っていなかったから…」

 気持ちったって、無理を言っているのは親父の方だと思うけど。

「ナベさんは、確かにきちんと麺を茹でていました。でも、あの人の麺は、来々軒の麺じゃない、です」

「そりゃまあ、確かに」

 同意してはみたけど。

 でも、少なくとも、俺の茹でる麺よりはマシだと思うぞ。

 手つきだって経験だって、今のところはクヤシイけど、彼の方が上だし。

 そんな俺の心を読んだのかどうかは判らないけど、彼女はキッパリとした口調で言い切った。

「鳴人さん、あれで構わないのでしたら、わたしが麺を茹でてますよ」

 そりゃそうだ。でも…

「だって、スープや接客は、れんげちゃんにしか出来ないでしょう?」

 確かにれんげちゃんの茹でる麺は、超一級品だよ。

 高級麺の素材を、余すところなく、いや、それよりはるかに際立たせて茹で上げているから。

 俺の実家で年末年始の間、彼女が茹でた麺の力。

 お客の反応を見れば、判るよ。

 だけど、さすがに全部こなすのは、無理だよ。

「違うんです。お店の方は、差し出がましい言い方ですけど、なんとでもなるんです。

 でも、わたしは、お父さんのようにラーメンをアイしていないから。

 だから、わたしには、あの麺を茹でる事は出来ないんです」

 アイ、また、アイか。

 なんなんだよアイって。

「鳴人さんは違います。お父さんの、来々軒のラーメンをアイしていらっしゃいます。だから、大丈夫です。というより、鳴人さんにしか、出来ません」

「そんな事言ったって、なあ…」

 ためらう俺の手を、れんげちゃんはしっかりと両手で握りしめた。

「わたし、嬉しいんです。お父さんが、鳴人さんの事をしっかりと見ていて下さってるのが。

 そして、ダメなわたしを、お父さんがあんなに真剣に叱って下さったのが。

 がんばりましょう、やりましょう!

 鳴人さんのこの手が、この指が、お父さんと同じ来々軒の味を、アイを醸しだせますように、わたしも一生懸命お手伝いしますからっ!」

 さっきまで泣いていたのに、頬に涙の後を滲ませたまま、俺の目を見つめながら微笑んでいる。

 そのまま彼女は、俺の手を掴んだまま、ゆっくりとぐるぐる回り始めた。

 俺の体も、一緒に回る。

 ぐるぐる、ぐるぐる。

 まるで、大鍋の中で麺が茹でられながら輪を描いているように。

 そんな彼女は、本当に可愛くて。

 だから、何の根拠もないんだけど。

 ぐるぐると回る彼女を支えているこの腕が、親父さんやれんげちゃんに認められているから。

 ナベさんのラーメンへの情熱や技術よりも、この腕が必要なんだと教えられているから。

 だから、俺は。

 もう、自分が麺を上手く茹でられないとは、思わない事に決めた。



                             (続く)

 ぐるぐるは、最初っからエンディングシーンとして、事前に書いておきました。

 そこに向かうように、プロットを組み立てる感じですね。

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