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幻獣調査団事件簿~その依頼、マジでオレがやるの? 最強ナイトキラーと幻獣ジェンザーの件~  作者: ザイン=エル
第四章 伯爵令嬢と魔獣ケルベロス

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第十八話 走れポメち

 ノクトとフィーネがローゼンフェルト伯爵家に通うようになってから、もう一週間が経過していた。


「ポメち、しばらく休憩だ」

 ノクトは、小さな魔獣ケルベロスに告げる。


 彼は日々ポメちとの信頼関係を強固なものにするため、おもちゃを使って遊んでやったり、躾をしてうまくいくごとに褒美を食べさせたり、寝そべって触れ合うことで自分の匂いを覚えさせたり──ありとあらゆることを、時間をかけて試した。


 どの施策にもしっかりと手応えがあり、元々からポメちはノクトのことを気に入っていたが、彼の丁寧な扱いによって、絆はより強いものになっていった。


 今日も、アリアとフィーネは楽しそうにお茶をしている。

 あの二人もすっかり仲良くなったようで、ノクトは微笑ましい目でそれを横目で見ていた。


「お前の飼い主は、オレの連れと友達になったみたいだぞ」

 そう言いつつ、ノクトは床に腰をおろす。休憩しながら学ぼうと思って持ってきた、小さな魔獣用のハンドブックを腰のポーチから取り出した。


 しっかりした装丁の本を持ち運ぶのは大変だが、こういったコンパクトなハンドブックであれば、現場でも確認しやすい。


 ノクトはハンドブックを開いて、目線を動かして読み進める。

 ポメちは、遊んでくれないのかな……、とノクトの膝に乗り上げて、ハッハッと舌を出して息をしている。


「……今は休憩中だ。お前も何か飲んだり、休憩をしなさい」


 それを聞いて、理解はしているけれども拒否しているように──ポメちは三つの頭でハッハッハッと嬉しそうな呼吸を繰り返している。


「……」


 そのつぶらな瞳を三つセットにして、そんなに期待された目で見られると……


 ノクトはハンドブックをしまい、急に立ち上がった。


「来い、ポメち!」


 ノクトは急に走り出した。テラスを抜けて中庭へ。そしてお茶をしている二人の方へ向けて叫ぶ。


「すみませんお嬢様、中庭お借りします!」


 アリアは、はーいと返事をしたものの、本人にそれが届いたかはわからなかった。

 ポメちは尻尾を千切れんばかりに振り、跳ね回り、ノクトについて走った。


「ポメち、追いかけっこだ。オレに追いつけるかな!」


『キャン!』


「いくぞ、走れポメち!」


 漆黒の人影と魔獣ケルベロスは、全力の追いかけっこを楽しんでいるようだった。

 お茶会をしている二人はそれを見て、微笑ましい顔で眩しそうに眺めていた。


「あー、なんかノクト先輩ってそういうとこあるなあ」

 フィーネは新人研修の時を思い出していた。あの時は、どうやらノクトは魔獣グリフォンの背に乗せてもらったらしい。戻ってきた時の彼の顔は、忘れられない。なんだか少年のように、嬉しそうで、キラキラしていた。


「フィーネ、ずるい。ノクトさんとの思い出がいっぱいあるんだ」


 ここ一週間で、アリアとフィーネの間柄は良い感じに砕け、本当の意味で友達になっていた。


「えへー。まあでも正直……新人研修と、お酒の席と、今のこの仕事しかないから、アリアとそんなに変わらないよ」


「でも色んな経験ができて、外の世界を生きられて、いいなあ。なんだか伯爵令嬢ってつまんないなぁ」


 フィーネはハッとする。これはあまり良くない流れだ。伯爵令嬢に外の世界の楽しさを吹き込み、結果としてそそのかして、もしいずれ出奔でもする原因になったら、それこそ──ノクトが言っていた『堕ちた白き鷹の物語』に──


「……大丈夫、二人がお父様の怒りを買うようなこと、絶対にないようにするから。安心して、私が大人しくしてたら大丈夫だから」


 察して、賢いアリアは言う。

 最初は綺麗なお屋敷に住めて、素敵なドレスを着られて、伯爵令嬢って素敵だなあと呑気に思っていた。しかし、家督に雁字搦めで、そこに自分の意思などなく人生ごと縛られる──とてつもなく大変なんだと、心から思った。


「ただいま戻りました」


 中庭のほうから声をかけられた。全力追いかけっこをしてきたノクトが戻ってきた。

 ポメちは、ノクトの制服の中にぎっしりと収まって、ふわふわの白い顔を胸元から三つ出していた──


 ノクトの胸元から生えたポメラニアン✕3。

 さすがにフィーネとアリアは面白すぎて吹き出してしまった。


「ぽ、ポメち、なんでそんな狭いところに入って……」

「ノクト先輩、真顔で、それは、面白すぎますよ」


 ノクトは二人に笑われて不満そうに言う。

「ていうか、仕方がないだろ……ポメちがここに入らないと戻らないとか、なんかごねるから…………あ」


 ノクトはつい、伯爵令嬢に対する敬語を忘れてしまった。そして、やらかしたというような、非常に渋い顔をした。


 彼の様子は、二人のさらなる笑いを誘い、ついには──ノクト自身も、諦めたように吹き出して笑ってしまった。


 契約の終わりが近づいていた。



──第四章 ナイトキラーと魔獣ケルベロス・完


第五章へ続く


【第四章あとがき】

 『第四章 伯爵令嬢と魔獣ケルベロス』をご覧いただきありがとうございます!

伯爵令嬢を登場させ、何かかわいらしいほんわかとした章にしようと思い、このようになりました。ポメち好評のようで筆者は嬉しいです。

 第五章からダークファンタジーが牙を剥いて襲い掛かってくるかもしれないので、ポメちのかわいさで是非癒されておいてください。


 本作は【火・木・金・土】の基本週4か、【月・火・木・金・土】週5ほど、夕方更新の連載予定となっております。

 もし面白かったらフォローや♡、☆評価いただけますと、今後のモチベになりますので是非是非おねがいいたします!

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