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憧れの人
私が先輩を始めて見たのは、事務所のライブだった。
その時の先輩は、漫才師だった。
先輩は、アイドルのように可愛かった。
でも、先輩は誰よりも凄かった。
私も、先輩みたいになれるかな。
そう思った私は、家族に無理を言い、期間限定で芸人になった。
芸人は、楽しかった。
芸人は、辛かった。
沢山の出会いがあった。
そして最後に、大好きな先輩と漫才ができた。
「終わっちゃいましたねぇ…」
「終わった…ね」
明かりの消えた劇場を眺め、二人で呟いた。
漫才は、最高の出来だった。
最後に野坂が引退挨拶をすると、涙ぐむ彼女のファンの姿もあった。
そして、僕宛のアンケートには『もう一度漫才が見れて嬉しかったです』と書いてくれた人もいた。
「先輩」
「何?」
「また、先輩に会いに来てもいいですか?」
もちろん、一人のファンとしてですけど、と野坂は笑った。
「…好きにしなよ」
つられて僕も笑った。




