1-8 気になる生徒(クレイグ視点)
「人が悪いですね、クレイグ先生」
ステラが部屋を出ていった後、デスクに戻るクレイグにオズワルドが揶揄するように声をかけてきた。
「何がだ?」
「『人手の必要なところ』などと言って、どうしてもったいぶるのですか?」
オズワルドは右目のモノクルをくいっと押し上げて、ニヤリと口角を上げる。
「もったいぶってなどいない」
「あの娘が適任の仕事は一つしかないというのに。しかも、先生のおそばで、先生のお姿が見られるところがご希望とくる。二つ返事で雇用すればいいではないですか」
オズワルドの言う通りではあるが、クレイグは素直に認めたくないと思ってしまう。
「動機が不純すぎるからだ。あからさまに好意を寄せてくる相手に、期待を持たせるようなことをするのは誠実さに欠けるだろう」
「期待をしていたのは、あなた様の方だったと思いますが?」
とぼけたようにつぶやくオズワルドをギッと睨みつけた。
「それは昨日までの話だ!」
ステラ・フェルトン――。
学生の大半が寝ている魔法史の授業で、いつも一番前の席を陣取っていた一年生。特別美人というわけではないが、若草色の大きな瞳がキラキラとしていて愛くるしい。
そんな目で熱のこもった視線を向けられれば、クレイグも気にならないわけにはいかなかった。冷静を装うのもひと苦労だ。
とはいえ、歳は三つしか違わないものの、ステラとは教師と生徒の間柄。恋愛関係に発展させるには、倫理的に容認できない。
卒業まで待てば、あるいは――と、ほのかに期待していたのは事実だ。
その幻想が打ち砕かれたのは、昨日のこと。
ステラがシンシアの娘だったことを知って、絶望にも近い気持ちに見舞われた。
彼女が向けてくる感情は、おそらく恋愛とは似て非なるものだろうと。
「頑ななお方ですねえ」
オズワルドはふうっとわざとらしくため息をつく。
「そもそも好意があるなしにかかわらず、誰かの思惑の上で動くのは気に入らない」
「あの娘をこの学園に導いた者、ですか」
「魔法を発動させずに、適性の有無が分かる人間を俺は知らない」
「それで、誰だと思ったのですか?」
「お前も心当たりがあるのではないか?」
「ランドルのことをおっしゃっています? でしたら、あなた様にあだなすようなことはしないでしょう。それこそ、厚意として受け取ってあげた方が良いと思いますが」
「そういうのは厚かましい好意と言うんだ」
「ご不満の数々はごもっともですが、さっさと彼女を雇ってくださいませんかね? 本当に人手が足りないのですから」
クレイグが何を言おうと、オズワルドはさらっと受け流して、自分の主張は譲らない。
長年の付き合いからそれを知っているので、クレイグの方が折れるしかない。
「分かっている」と、しぶしぶ了承した。




