1-7 どさくさ紛れの告白
「……い、いやです。学園をやめたくありません……!!」
一人前の魔法使いになれなくてもかまわないが、クレイグに会えなくなることだけは勘弁してほしい。
クレイグはレジカント自治領の総督。下町の料理店の娘が気軽に会える相手ではない。彼が学園長で、ステラがこの学園の学生であるからこそ、こうして顔を合わせることができるのだ。その機会を奪われたくない。
ステラの必死の訴えに、クレイグは困ったように首を振った。
「そうは言っても、この学園は魔法使いを育成する場だ。魔法禁止の学生が通って何の意味がある? 時間のムダだろう。それくらいなら、将来を考えて新しい道に進んだ方がいい」
「意味ならあります……!! わたし、先生と会えなくなるのはイヤなんです。清掃係でも調理係でも、何の仕事でもかまいませんから、この学園に置いてもらうことはできませんか!?」
ステラは勢いで言ってしまって、かあっと熱くなる顔を隠すようにうつむいた。
(ど、どうしよう!? どさくさに紛れて告白しちゃったよ……!!)
クレイグにどんなあきれ顔をされているかと思うと、恥ずかしくて顔を上げられない。
しかし、一度口にしてしまった以上、見ているだけで幸せだった日々にはもう戻れない。
そうでなくても、『退学』が目の前にぶら下がっている今、胸に想いを秘めたまま学園を去る方がきっと後悔する。
しばらくたってもクレイグから何の反応もないので、ステラは恐る恐る覗き見た。
彼は手のひらで口元を覆って顔をそむけていた。垣間見える頬と耳が真っ赤に染まっている。
(これってもしかして……もしかしなくても、照れている!? 先生のこんなかわいらしい表情が見られるなんて!)
つい浮かれそうになってしまうが、こういう時にどうしていいのかさっぱり分からない。
(お断りの文句でも何でもいいので、何か言ってもらえませんか!?)
「……ああ、うん」と、少ししてクレイグはコホンと咳ばらいをすると、気を取り直したように姿勢を正した。
「もしかしてそうなのかと思っていたが、俺の変な思い込みでなくてよかったというか……とにかく、君のその感情は勘違いだ」
クレイグはいつの間にかいつもの涼しげな表情に戻っていて、きっぱり言い放った。
「はい!?」と、ステラは素っ頓狂な声を上げてしまう。
「勘違いなんかじゃありません! わたし、先生のことが好きです。初めて見た時からずっと素敵な人だと思っていました!」
ステラは勢いに任せて熱く語ってしまったが、クレイグはかなり引き気味に腰を浮かしていた。
「そ、そうか……。君の気持ちは分かったということにして……この学園で働きたいというのなら、人手の必要なところを探しておこう」
「ほんとですか!? できれば、先生のおそばか、先生のお姿を見られるところで働きたいんですけど……この際、贅沢は申しません!」
つい欲望をダダもれにしてしまったが、はっきりきっぱり告白してしまった今、ステラは恥も外聞も捨てることにした。
(ここからは先生に嫌われない程度に自己アピールして、好きになってもらう段階よ!)
ステラの気分は盛り上がる一方だったが、クレイグの方は無表情のまま。先ほどのような照れた顔は、なかなか見せてくれないらしい。
(そういうところがクールでいいんだけど!)
「君の希望は考慮しておこう。仕事が決まったら連絡する。それまでは自宅で待機しているように」
「分かりました。連絡をお待ちしています!」
「話は以上だ」
退出を促されてステラが立ち上がったところ、「ステラ・フェルトン」と扉に向かう途中で呼び止められた。
「一つ聞きそびれていた」
「はい?」と、ステラはソファに座ったままのクレイグを振り返る。
「君はどういうきっかけでこの学園に入ろうと思ったんだ? 話を聞いている限り、入学前に魔法を発動させたことはなかったはずだろう」
クレイグの言わんとすることはすぐに分かった。
魔法適性の有無は、魔法陣を描いて魔法が発動するかどうかで分かるもの。
両親や親戚の誰かが魔法使いの場合は、その方法を知っているので、子どもが小さいうちに確認される。そうでない場合は、何かの拍子に魔法を発動して魔法適性に気づく。
ステラはそのどちらにも当てはまらない。
「わたしはうちの店のお客さんに魔法適性があるって教えてもらったんです。魔法使いには憧れていたので、受験したんですけど」
「どんな客だ?」
「どんなと聞かれましても……大人の男性で、顔はよく覚えていません。三年前に一度会ったきりのお客さんでしたので」
「そうか」
レジカントは世界各地からいろいろな人が訪れる魔法学園都市なので、一度しか来ない客も多い。
しかし、ステラの人生を一変させてくれた人だったというのに、その客の顔は印象に残っていなかった。
(どこにでもいそうな顔だったからかな……?)
ステラはつい物思いにふけってしまったが、クレイグに「もう行っていいぞ」と声をかけられて、はっと我に返った。
「あ、はい、失礼します!」と、飛び出すように学園長室を後にした。




