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恋愛脳、上等です! ポンコツ魔法使いは、天才クレイグ先生のお役に立ちたい。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
1章 最弱魔法使い、退学勧告を受けました。

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1-6 危険な特殊能力

 学園のダンジョンはあくまで学生の訓練用なので、安全が保証されている。身《み》の丈《たけ》に合わない強敵に当たったとしても、命を落とす前に外に強制転移(てんい)させられる。


 ダンジョンに問題が発生した時も、同様の措置《そち》が取られることは、事前に説明を受けていた。


 何かあった場合に緊急脱出できないとなると、ダンジョン実習は危険なものになる。ステラが禁止になるのもうなずける話だ。


「わたしには外からの魔法が効かないことは分かりましたけど……。わたしの放った魔法とどう関係があるのでしょうか? 確か、ダンジョンを壊したとおっしゃっていた気がしますけど」


「君の放つ魔法もまた、魔素を消滅させてしまうということだ」


「……ええと? ダンジョンと魔素の関係がよく分かっていないんですけど……。ダンジョンって、岩とか石ですよね?」


「確かに基礎は石だが、あのダンジョンはいくつもの魔法を重ねがけして強度を保っている。特に攻撃に対する防御は鉄壁《てっぺき》で、それこそブラック・ドラゴンが暴《あば》れようが、炎の息を吐こうが、ダンジョンが傷つくことはない。多少傷ついたとしても自動修復する」


 二百年前から百年の時を費《つい》やして、代々の学園長が最高の魔法技術を駆使《くし》して造《つく》り上げた訓練用ダンジョン。地下百階層に至《いた》るそれは、世界に二つとない珠玉《しゅぎょく》の建造物と称《たた》えられている。


 学園長として後を継いだクレイグは、祖先の偉業《いぎょう》を誇《ほこ》りに思っているのだろう。彼の語る言葉の端々(はしばし)には、そんな思いが見え隠れしていた。


「――しかし逆に言えば、魔法で造られているダンジョンは、魔素を消されてしまっては、多少の衝撃でもろく壊れる。実際、崩壊したダンジョンからは、ことごとく魔法の痕跡《こんせき》が消えていて、自動修復しなかった」


「そんな……」


「二十階層以上の崩落《ほうらく》を免《まぬが》れたのは、君の魔力が尽《つ》きたからか、君の落下がそこで止まったからか。魔素濃度も地上と同レベルまで落ちていた。要は、君が放った魔法のせいでダンジョンを形成する魔素が消滅して、崩壊に至ったという見解だ」


「わたしにそんな力があるなんて、全然自覚がないんですけど……」


 どの属性《ぞくせい》の魔法でもヘロヘロの攻撃力しかなくて、最弱の魔物すら倒せない役立たず、それがステラだったはずだ。


(なのに、魔素を消滅? ダンジョンを崩壊させる力? そんなことができるなんて、簡単に信じられるわけないって……)


「さて、ステラ・フェルトン――」


 クレイグの声が重く響いて、ステラはびくりと震えた。


「君のその特異な力は、魔物に匹敵《ひってき》するほど非常に危険なものだということに気づいているか?」


「魔物に匹敵するって……大げさすぎませんか?」


 ステラは笑おうとして、うまく表情を動かせなかった。


「人間にとって濃すぎる魔素環境は、死をもたらす危険なものだが、逆に薄すぎる環境でも、魔素欠乏症(けつぼうしょう)になって命を危《あや》うくする」


「はい、それは分かります……」


 呼吸と食事を通して得られる魔素は、人間の身体を構成する大事な成分の一つになっている。体内から完全に魔素を失うということは、死を意味するのだ。


「魔素をまき散らす魔物と、魔素を消滅できる君は、人間を殺すという意味で等しく世界にとって脅威《きょうい》になるだろう」


 クレイグの説明は授業と同じように端的で、それでいて丁寧で分かりやすい。しかしその内容は、ステラにとって死刑宣告をされているのと変わりなかった。


「そんな力を持ってしまって、これからわたしはどうなるのでしょうか……? 国の偉《えら》い人なんかに知られたら、魔物みたいに討伐《とうばつ》対象になってしまうんじゃ……」


 ステラは聞きながら背筋がぞっとして、自分の身体を抱きしめた。怖くてクレイグの顔を見られない。


「幸い、このことを知っているのは、ここにいる三人だけだ。俺から国に報告することはないし、義務もないから心配しなくていい。オズワルドに至《いた》っては、最初から頭数に入っていない。そこで、君の今後についてだが――」


 いよいよ裁定《さいてい》が下《くだ》ると思うと、ステラは一気に緊張が高まって、ごくりと喉《のど》を鳴らした。


「君が魔法を使う危険性は、きちんと理解できたか?」


「それは……はい」


 学園に入学前、ステラは魔法を使ったことがないどころか、使い方も知らなかった。入学してからは授業と課題で毎日忙しく、家で魔法を使うこともなかった。


 魔法実技の授業でも、一年生は木製の的《まと》に向かって攻撃するだけで、学生同士の模擬戦《もぎせん》のようなことはしていない。


 一度でも人間に対して魔法を使っていたら、誰かが魔素欠乏症を起こして倒れるか、最悪は命を落としていたかもしれない。これまで何事も起こらなかったことの方が奇跡に思えた。


「ならば、君にとっても世界にとっても最良の道は、君が今後一切魔法を使わないことだ」


「それは分かりますけど……そうなると学園は?」


「当然、退学してもらうことになる」


 ステラも覚悟していたとはいえ、クレイグの口からはっきり宣言されると、全身が凍《こお》りついて声も出なかった。


(退学したら、先生にはもう二度と会えなくなっちゃう……!!)

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