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恋愛脳、上等です! ポンコツ魔法使いは、天才クレイグ先生のお役に立ちたい。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
2章 リタイア魔法使い、先生のおそばで働きたい。

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2-1 退学後の働き口

「いらっしゃいませ! 二名様ですね。お席はこちらでお願いします!」


 ステラは汗だくになりながら、テーブルの間を飛び回っていた。


 ステラの養父母が営《いとな》む料理店『香味亭《こうみてい》』は、正午を過ぎると常時満席になる。


 客層は近くの魔法研究所や魔道具《まどうぐ》工房《こうぼう》で働いている人が多く、みんなさっさと食べてはせわしなく仕事に戻っていく。


 客の回転が速いので、働く方も忙しい。


 空《あ》いている席に客を案内して、注文を取って、料理を運ぶ。会計をして、テーブルを片付けて、新しい客を迎え入れる。


 この半年、カーヴェル魔法学園に通っていたことが夢だったのではないかと思うほど、ステラには見慣れた光景に慣れた仕事だ。




 *




 ステラが学園を退学したことは、学園長室を訪《おとず》れたその日の夜には、養父母のブルーノとローザに報告した。


 もともと魔法使いとしての才能のなさに、学園をやめようかと悩んでいたのだ。


「魔法使いには向いていないって言われちゃって」


 当たらずといえども遠からずの言い訳をすることに、ステラの胸が痛むこともなかった。


「――あ、でも、学園で仕事の口が見つかるかもしれないから、心配しないで。家には迷惑かけないつもりだから」


 慌《あわ》てて付け加えるステラに、養父母は慰《なぐさ》めるように笑顔を向けてくれた。


「気にすんな。才能があっても、人には向き不向きがあるからな。まだ若いんだし、他にやりたいことができるかもしれないさ」

「そうよ。慌てて探さなくても、うちで働いてくれる分には助かるんだし」


「うん、ありがとう。仕事が決まるまでは、ここで働かせてもらうね」


 自宅待機を命じられたステラは、学園に行くわけにもいかず、その翌日から店の仕事に入ることになったのだ。




 *




 あれから十日――。


 ダンジョンの修復もそろそろ終わって実習が再開する頃だが、学園からは今のところ何の連絡もない。


 昼に夜に店で忙しく働いている間は忘れているのに、休憩時間や夜ベッドに入ってふとした瞬間、『今日も連絡がなかった』と気づく。


 そのたびに不安に襲《おそ》われて、落ち込んでしまう。


 クレイグが忙しくてステラの雇用《こよう》について忘れているのなら、そのうち思い出してくれるのを待てばいい。


 しかし、人手が足りているということになったら、この話はなかったことになってしまう。


 それどころか、変に告白したせいで、迷惑に思われたかもしれない。


 あの時は興奮していて深く考えなかったが、好意を持たれて困る相手をわざわざ身近に置くようなことはしない気がする。


(このまま連絡が来なかったら……フラれたってことで、あきらめるしかないのかな)


 その日の午後の休憩時間も、ステラは店の裏口に置いてある酒樽《さかだる》に腰かけて、そんなことをぼんやり考えていた。


 ふと目の前に小さな白い魔法陣が現れたかと思うと、そこからひらひらと紙が舞い降りてきて、ステラのひざの上にふわりと落ちた。


(転移《てんい》魔法《まほう》……!?)


 真っ先に目に入ってくるのは、カーヴェル魔法学園の紋章が浮かぶ紺色の封蝋《ふうろう》――学園から届いたステラ宛《あて》の封書だった。


 ステラは急いで封を切って、中の手紙を取り出した。


 そこには仕事が決まったこと、明日の朝から出勤することなど、事務的な内容が簡潔に書かれていた。


 サインはクレイグのもの。いかにも彼らしいそっけない文面だ。


(先生直筆(じきひつ)のお手紙、一生ものの宝ものにします……!!)


 ステラは手紙をぎゅっと抱きしめながら、店の中に飛び込んだ。


「お父さん、お母さん、仕事が決まったよ!」






 その翌日――。


 ステラの出勤時間は、学生が登校するより一時間早い。


 手紙には出勤したら直接学園長室に来るように書いてあったので、そのまま南の管理塔の五階に向かう。


(手紙にはどんな仕事か書いていなかったけど……何の仕事でもいいなんて言っちゃったせい?)


 それでも十日ぶりにクレイグに会えると思うと、階段を上る足取りも軽くなる。


 はやる気持ちを抑《おさ》えつつ学園長室の扉をノックしたが、今回はクレイグの返事は聞こえなかった。


「失礼します」と中に入ると、そこにいたのは秘書のオズワルドだけだった。


(先生は出勤前? わたし、早く来すぎた?)


 ステラのそんな疑問が顔に出ていたのか、オズワルドに「本日、学園長はいらっしゃいません」と言われた。


「あ、そうですか……」


「そうあからさまにがっかりした顔をしなくても」


 オズワルドの灰色の瞳が好奇に輝いているように見えて、ステラは居心地が悪い。


(この人、何気《なにげ》にわたしの告白を聞いていたんだった……!!)


「す、すみません……!!」


 ステラは真っ赤になって、ぺこりと頭を下げた。


「改めまして、学園長秘書のオズワルドです。ステラさんには今日から私の雑用係として働いてもらいます」


「学園長秘書の雑用係ですか……」


(クレイグ先生の雑用係だったら、もっとそばにいられる時間があったかもしれないのに……ニアミス?)


 そんなことを思わずにはいられないが、それでもかなりの高確率でクレイグの姿を見られる職に就《つ》けたのだ。


 これから学園長室に出入りするようになれば、言葉を交わすこともあるだろう。カフェテリアの料理人や学内の清掃員などに比べたら、よほどクレイグに近い仕事になる。


(これはもう、ご褒美《ほうび》みたいな仕事よね!?)


「なにか不満でも?」


「いえ、しっかり務めさせていただきます!」


「待遇《たいぐう》などは後ほど説明するとして、早速《さっそく》仕事をしてもらいましょう」


 そこから始まったステラの仕事は、浮かれている余裕もないほど忙しいものだった。


 実家の料理店の比ではない。とにかく学園の構内は広く、四つの塔を上り下り、あっちへこっちへ走り回らなくてはならない。


 書類を届けたり、逆に書類を回収したり。

 どこどこにある何それを持ってこい、返してこい。

 他の職員に呼ばれれば、ステラが行って事情を聞いてオズワルドに報告。


 学園長室に戻るたびに、次から次へと仕事を頼まれる。


(オズワルドさん、めちゃくちゃコキ使う……!!)


 まさしく『雑用係』だった。

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