2-2 全属性持ちの才能
正午の鐘が鳴る頃には、ステラはゼェゼェと息を切らしながら学園長室に戻ることになった。
「お昼休みですから、食事に行っていいですよ。二時間後に戻ってきてください。職員として学生と同じカフェテリアを使えます」
汗だくのステラに対して、オズワルドは涼しげな顔だ。
「オズワルドさんはカフェテリアに行かないんですか?」
「私は外で食事をするので、お一人でどうぞ」
「そうなんですね。では、行ってきます」
ステラは言い置いて、一階の回廊に囲まれた中庭にあるカフェテリアへ下りていった。
今日からダンジョン実習が再開したとのことで、カフェテリアは閑散とした雰囲気だ。
今までは料理を受け取るカウンターに学生の大行列ができていて、食べたい料理が品切れだったことも一度や二度ではなかった。
空いている席を探すのもひと苦労で、午後の授業に遅れそうになったこともあった。
職員たちがここで食事をしていることにも気づけなかった。
今日は午前中に学内を巡り歩いていたおかげで、大半の職員の顔が分かる。
(……あ、もしかしてそれもあって、オズワルドさんに仕事を振られていたのかな)
行く先々で、『ステラ・フェルトンです。今日からオズワルドさんの雑用係として働くことになりました』と、あいさつしまくっていたのだ。
他の職員たちへの紹介も兼ねた雑用だったと思えば、納得できる。
(オズワルドさん、有能な人なのかも?)
ステラが料理を受け取って空いている席に向かっていると、「ステラさん」と声がかかった。
きょろきょろ見回すと、少し離れた席で一年の学年主任メリッサ・レヴィンスが笑顔で手を振っていた。
「よかったら、一緒に食べない?」
「はい、それではお邪魔します」
ステラはトレイをテーブルに置いて、メリッサの向かいに腰を下ろした。
メリッサは結婚して子どもができるまで、アルトナ王国軍の対魔物戦闘部隊に所属していた魔導師。炎魔法のエキスパートで、前線で活躍していたらしい。
女性にしては短めの赤毛に引き締まった身体、精悍な顔立ちといい、どちらかというと魔法使いより戦士のような印象を受ける。
一年生の魔法実技の授業を受け持っていたので、ステラもよく知っている教師の一人だ。
「急に退学することになって、どうしているのかと思っていたんだけど、この学園で働くことになったんですってね。他の先生たちから聞いたわ」
「はい、おかげさまですぐに働き口が見つかってよかったです」
退学した経緯をどうやって説明しようかと思っていたが、その辺りはクレイグがきちんと計らってくれていた。
今や、緊急脱出用の転移魔法がステラにだけ効かなかったという事実は、関係者の記憶から消去されている。
『スライム一匹倒すことのできない己の弱さに、魔法使いになることを断念した』と、誰も疑っていない。
クレイグが使ったのは軽い暗示のような魔法とのこと。中には思い出す人もいるかもしれないが、記憶違いで済まされるだろうとのことだ。
おかげで、魔素を消滅させてしまうというステラの危険な特殊能力を公にせずに済んだ。
ステラが働き始めるにはそういう下準備もあって、自宅待機してもらっていたのだと、オズワルドが教えてくれた。
(クレイグ先生、やっぱりすごい人です……!!)
「この学園に残ったということは、やっぱり魔法使いになることに未練があるんじゃないの?」
「いえ、それはきっぱりあきらめました。学園で働きたかったのは、他の理由がありまして……」
さすがにクレイグ目当てで雇ってもらったという話は、恥ずかしくてしづらい。何となくメリッサには見破られているような気もするが、突っ込んで質問されることはなかった。
「でも、残念だわ。全属性を使えるなんて、勇者ヘイデンの直系子孫にしか現れない逸材なのに。時間をかけて能力値を上げていけば、それこそ勇者パーティに入って、魔王討伐も夢ではなかったのかもしれないのよ?」
メリッサは名残り惜しそうにため息をつく。
彼女は入学試験官の一人で、ステラの入学を後押ししてくれた人だった。
能力値はどれも低いものの、全属性――水・炎・風・地・光・闇――の魔法に適性を示したステラに、可能性を見出してくれたのだ。
そうでなければ、ステラがこの学園に入学することはなかった。
そんなメリッサの期待を裏切って退学してしまったことは、今さらながら申し訳なく思う。
「わたしが生きている間に魔王が復活するかも分かりませんし、勇者パーティなんて、わたしには遠い遠い世界の話で――」
ステラはどんな顔をしていいのか分からず、あやふやに笑ってみせた。




