1-4 ダンジョン実習禁止?
「その生みの母親の名前は?」
クレイグに問われて、ステラはおもむろに顔を上げた。
「シンシア・マクニールと聞いています」
知っているのは名前だけ。『いつか迎えに来るから』と、赤子の頃に預けられて十六年、それきり行方知れずとなっている。
「シンシアの娘か……」
クレイグの声が親しげに響いて、ステラははっと彼を振り返った。
「ご存じなのですか!?」
ステラの勢いに気おされたように、クレイグは慌てた様子を見せる。
「あ、いや、昔そういう名の教師がいたと、祖父から聞いていただけだ」
「先生、嘘がヘタですか? 母について何かご存じみたいですけど」
ステラが一歩も譲らない姿勢を見せると、クレイグは降参したように息をついて、質問に答えてくれた。
「知っているのは、もう二十年近く前の話だ。働き始めて二年ほどで退職願を出してきて、姿を消したらしい。祖父も行方を調べたが、見つからなかった。後にも先にもそんな教師はいなかったから、祖父も記憶に残っていたのだろう」
「そう、ですか……」
十六年前にステラを預けに来た時が、シンシアがレジカントを訪れた最後だったのかもしれない。
(わたしを迎えに来るって約束したのに……)
「会いたいのか?」
クレイグにやさしくいたわるように聞かれて、ステラの方が驚いてしまう。
(人形のように冷たく見えても、根は温かい人なんだ……)
そんな彼につい甘えたことを言ってしまいたくなるが、ステラはかぶりを振った。
「会いに来ないということは、会えないのか、会いたいと思っていないということです。わたしの方から捜して、無理に会いに行くつもりはありません」
クレイグは興をそがれたように「そうか」とつぶやくと、静かに立ち上がった。
「話がそれたが、君の今後については改めて話をすることにしよう。明日は登校したら、学園長室に来るように」
(クレイグ先生の部屋に呼ばれた……!!)
明日もクレイグに会えるとなれば、普通なら胸が躍ってしまうところなのだが――。
学園長室に呼び出される事態というのは、学生にとって喜ばしくないことの方が多い。
(わたしの今後についてって……?)
「はい、伺うのは問題ないですけど、明日のダンジョン実習がどうなるのか……」
「ダンジョンは修復に十日ほどかかるから、その間は自習してもらうことになる」
「それならよかった――」
「とはいえ、君がダンジョン実習に戻ることはない。立ち入りも禁止だ」
突き放すようなクレイグの言葉に、ステラはぎょっと目を見開いた。
「え? わたし、実習を続けられないんですか……!?」
学園の生徒として実習ができないというのは、落第の烙印を押されたも同然。退学を言い渡されたのと変わりない。
「その話も明日にしよう。今日は疲れただろう。家に帰ってゆっくり休みなさい」
ステラが茫然としている間に、「では明日」と、クレイグはカーテンの向こうに消えた。
(ダンジョン実習禁止って……どうして?)
ステータスが低すぎて、ダンジョンに潜るにはまだ早すぎると判断されたのか。
(そ、そりゃあ、最弱のスライムすら倒せなかったんだから、当然と言われたらそれまでだけど……)
クレイグの姿を見るために学校に残り続けていたが、いよいよそれも限界なのかと思い知って、ステラはずっしりと頭が重くなるのを感じた。




