↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛脳、上等です! ポンコツ魔法使いは、天才クレイグ先生のお役に立ちたい。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
5章 最凶魔法使い、幸せのためにワンチャン狙います。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/47

5-9 目覚め

「死ぬかと思ったぁ……!!」


 ステラはがばっと身を起こして、ゼェゼェと息を吐いた。


 なんだか長い夢を見ていたような気がするが、内容はあまり覚えていない。死ぬような目に遭《あ》った恐怖だけが心にこびりついている。


「お目覚めになったようで、何よりです」


 やんわりとしたきれいな女性の声が聞こえて、ステラが顔を上げると、そこには水色髪の美女――リサが立っていた。


「ここは……?」


「魔王城ですよ」


 ステラがぐるりと辺りを見回すと、そこはベッドの上で、ドーム型の結界の中だった。


「ほんとだ……」


「驚かないところを見ると、どうやら精神の移行は成功したようですね」


 リサに言われて、ステラははっと自分の身体を見下ろした。


 白いシーツに包まれているが、その下は何も着ていない。


「わたし、人間になったの……?」


 腕や脚《あし》を曲げたり伸ばしたりしたところで、今までの身体と違うところは見当たらない。違和感もない。


「少なくとも魔物や魔族特有の魔素の気配はありませんね」


「や、やったぁ……て、喜んでいいところよね? 先生は!?」


「そちらに。まだお目覚めになっておりません」


 リサが示すのは、並んで置かれたベッドの上。横たわるクレイグの複製体は、胸がかすかに上下していて呼吸をしている様子はあるが、閉じられた目はピクリとも動かない。


 これでは彼本人なのか判別できない。


「ところで、先生の本体の方はどうなったんですか?」


「ご主人様の核は親指の先ほどの大きさになって、あちらに」


 リサの視線の先は、半透明の膜《まく》の向こうにある玉座《ぎょくざ》だった。


 黒々とした靄《もや》は吸い込まれているのか、放出されているのか、その上に渦《うず》を巻いているのがかすかに見える。


「先生……!!」


 ステラがベッドを飛び降りて駆け寄ろうとすると、リサに腕をつかまれて止められた。


「この結界を出てはなりません! あなたはもう以前の身体とは違うのです。ここを出たら、瞬時に消滅します」


「そ、そうだった……!!」


 この結界内は人間が住む世界と同じ魔素濃度になっている。人間になった今のステラでは、魔王城の濃い魔素環境には耐えられない。ついさっきまで平気な顔でウロウロ歩いていたことの方が、信じられなかった。


「あなたはどうしてわたしを助けてくれるんですか?」


 リサにはてっきり嫌《きら》われていると思っていたので、彼女の行動がステラには意外だった。


「ご主人様が命を賭《か》けてまでお造《つく》りしたものを、わたしが勝手に壊すことはできませんので」


 リサは悲しそうにわずかに目を伏せた。


「先生の精神は、まだあっちにあるってことですか?」


 ステラは玉座の方を見つめながらリサに尋《たず》ねた。


「分かりません。精神を移すことに失敗したのなら、ああして失った魔素を集めて核を成長させて、いずれ魔王様として肉体を得る日が来るでしょう。人間の身体を得たあなたが生きているうちに、再び会えるかどうかは分かりませんが」


 それは百年後なのか、二百年後なのか――。


「先生、そんなのイヤです……!!」


 ステラは隣のベッドに駆け寄って、そこに横たわるクレイグの複製体を揺《ゆ》すった。


「先生、起きてください! わたしだけ人間になっても、何の意味もないんです。先生がいてくれないと……!! 二百年かけても人間になりたかったんですよね!? ちゃんとこっちの身体で目を覚ましてください……!!」


 涙があふれてきて止まらない。ステラは涙声で「お願いします」、「目を覚ましてください」と、何度も繰《く》り返した。


 時が動き始めたクレイグの身体は、魔族だった時よりもずっと温かい。なのに、何の反応も返してもらえない。そこに精神がなければ、どこまでいっても人形でしかないのだ。


「先生、目を開いて、何か話してください……!!」


 ステラがクレイグの上に突《つ》っ伏《ぷ》した時、彼の身体がかすかに動いたような気がした。


 トントンと二の腕を軽く叩かれる。


 ステラが怖々(こわごわ)目を開くと、涙でかすむ視界の中で、クレイグがゆっくりと身体を起こすところだった。


「ステラ、俺が分かるのか?」


 ステラは涙でボロボロになっているだろう顔を上げた。


「せ、先生……? そんな当たり前なこと、聞かないでください……!!」


「よかった。君の精神まで殺してしまったのではないかと、心配していたんだ」


 この上なくきれいに微笑《ほほえ》むクレイグの顔を見て、ステラの涙はぽろぽろと止めどなく頬《ほお》を伝って落ちた。


「先生こそ……!!」


 言いたいことはたくさんある気がしたが、言葉にならなかった。


「目が覚めたら、何よりもまず告白の返事をしようと思っていた」


「……え? はい? 告白の返事?」


 この状況でいきなり何を言い出すのかと、ステラはぽかんと口を開けてしまう。


「ステラ、俺も君が好きだ」


 クレイグは真剣な表情で両手を伸ばしてくると、ステラの頬をはさんで流れる涙を親指でそっとぬぐってくれた。


 その手が熱いくらいに感じられて、彼が生きている人間だと意識せずにはいられない。


(今、先生がわたしのことを好きって言ってくれた……?)


 空耳《そらみみ》かと思ってしまう。まだ夢の続きを見ているのではないかと。


「――返事が遅くなってすまなかった。何度でも言おう。君を愛している」


 そのままステラの顔は引き寄せられて、彼の唇にまっすぐ突進していた。


 温かくてやわらかな唇の感触――。


 ステラはキスをしていることにようやく気づいて、思考は完全停止。一拍《いっぱく》遅れてから、ばっと身を引いて口元を覆《おお》っていた。


(う、うそ……!! 先生がキスしてくれた!?)


 ステラの目に入ってくるのは、一目《ひとめ》ぼれした時と寸分《すんぶん》変わらない麗しい顔と、そしてきれいな筋肉をまとう裸の上半身――。


 ステラの体中の血が頭に向かって駆け上《のぼ》って、鼻血を出してしまうかと思った。


「先生、まずは何か着ていただけませんか……!? 目のやり場に困るといいますか……」


「……それを言うなら、君の方だ」


 クレイグは顔どころか耳まで茹《ゆだ》ったように真っ赤にして、ふいと顔をそむける。


「……はい? わたしの方?」


 ステラが首を傾《かし》げながら自分を見下ろすと――身体に巻き付けていたはずのシーツが消えていた。


「きゃあぁぁぁ! 見ないでください!」


 ステラは全裸の自分の身体を抱きしめて、その場にしゃがみこんでいた。




*




 その後、クレイグの命令でリサが二人の服を用意してくれた。どちらも魔王城に来る時に着ていたもの。


 クレイグに殺された時に穴が空《あ》いたはずのステラのチュニックは、ほころび一つなく修復されていた。血の染《し》み一つ残っていない。


「魔族のメイドさんって、すごいんですね」


 ステラの褒《ほ》め言葉に、リサはまんざらでもなさそうな顔でフンと鼻を鳴らした。


「人間ごときと比べられては困ります」


 身支度を終えたところで、クレイグがステラの死んだ後に起こったことを語ってくれた。


 しかし、正直なところ、彼の言葉はステラの耳を素通りするばかり。二人とも人間として復活した時点で、それまでの過程は半《なか》ばどうでもよくなっている。


 それよりも、クレイグが好きだと言ってくれたことの方が、ステラにとっては重要だった。


(だって、だって、これからは先生と恋人同士なのよ!)


 ついに初恋が実ったのだ。片思いが報《むく》われたのだ。


 クレイグの顔を見るたびに、ステラの頭はほんわかととろけてしまって、顔がぐずぐず崩れるのを止められなかった。


(ああ、こんな幸せな日が来るなんて……!!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。