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恋愛脳、上等です! ポンコツ魔法使いは、天才クレイグ先生のお役に立ちたい。  作者: 糀野アオ@『落ち毒』発売中
5章 最凶魔法使い、幸せのためにワンチャン狙います。

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5-5 最後の命令(クレイグ視点)

 クレイグは配下の魔族たちを呼んだ。


「リサはすでにここに」


 この大広間の隅《すみ》に控《ひか》えていたリサが、さっと近くまでやってきて片ひざをつく。


「エルシー、参上いたしましたよぉ!」


 その隣にエルシーが姿を現す。


「私は忙しいのですが、何のご用でしょうか?」


 姿を現したオズワルドは、不満を隠すことなく、モノクルをくいっと上げながら片ひざをつく。


「右に同じー。スルベージからの使者と会談している最中だったんだけど?」


 総督《そうとく》代理のカーティスも頬《ほお》をふくらませて、童顔を余計に幼く見せている。


「全員、よく聞け。俺からの最後の命令だ。俺の周囲に結界を張って、魔素の流れを遮断《しゃだん》しろ」


 それは三百年前、ヘイデンがこの部屋に入った時に魔王が取ったのと同じ方法。


 ヘイデンは逃げられない檻《おり》に入れられたと感じたが、実際は魔王の無限にも近い魔素を有限にするためのものだった。


 そうでなければ、攻撃をしようが、防御しようが、失った魔素は外部からどんどん補充《ほじゅう》されてしまう。戦いは永遠に終わることはない。


 魔素を消滅させられるステラが相手となると、それこそ世界中の魔素が完全に消えてしまうかもしれない。


 これは『魔王』という存在だけを滅《めっ》するためには、必要な措置《そち》なのだ。


 魔王は自身の魔法で結界を張ったが、クレイグからすれば、かなり危《あや》うい方法だったと思う。


 魔王は攻撃をするたびに、受けるたびに、体を形《かたち》作《づく》る魔素を粒子として大気中に散らしていった。しかし、ステラのような異例の存在がいない以上、結界内にある魔素の絶対量は変わらない。一部は再び魔王の核に吸い寄せられて、体を復活させてしまう。


 長い長い時間を経《へ》てヘイデンは魔王の魔素を削《けず》っていったが、どの段階で結界が失われるのか、ある意味賭(か)けだったと思う。


 魔王が精神を入れ替える魔法を発動するまでに結界を維持する力をすでに失っていたら、一瞬にして力を取り戻してしまうところだった。


 しかし、魔王はヘイデンたち、討伐隊《とうばつたい》を強化するために配下の魔族を捨《す》て駒《ごま》にして、結界のために使うことはしなかった。


 クレイグにはまだ配下の魔族が残っている。彼らに任《まか》せることで、確実に最後の瞬間まで結界を維持《いじ》させるつもりだ。


「最後のご命令、ですか」

「ご主人様、本気なのですね……」

「ついにこの日が来ちゃったかぁ」


 リサとエルシーは悲しそうに顔を歪《ゆが》めて、カーティスはあきらめたようにため息をつく。


 オズワルドは何か物言いたげな顔をしていたが、「御意《ぎょい》」とひと言だけ返してきた。


「俺はここで消えて人間に戻る。お前たちが仕《つか》えるにふさわしい者ではなくなる。数百年のうちには新たな魔王が復活するだろう。お前たちは次の魔王に仕えろ。それまでこの城はくれてやる。それを不服とするのなら、今ここで俺が滅してやる」


 四人の魔族は片ひざをついたまま、各々考えることがあるのか、つかの間《ま》黙り込んだ。


「私は学園での仕事がありますので、あなた様の下僕《げぼく》ではなく、学園長の秘書としてこのまま生きてまいります」


 真っ先に口を開いたのはオズワルドだった。


「それを言うなら僕だって、総督代理の仕事が山積みなんだけど? 今ここで辞《や》めたら、ご主人様が困るでしょ。人間に仕える気はないけど、総督閣下(かっか)には従うよ」


 カーティスもおどけたように続ける。


「エルシー、死ぬのは怖いから、殺すのだけは勘弁《かんべん》してほしいです!」


 ステラと戦って一度死の淵《ふち》を見たエルシーは、両手を握り合わせて懇願《こんがん》する。


「リサはどうする?」


 最後まで悩んだ様子で口を開かなかったリサに、クレイグは問いかけた。


「わ、わたしはどうしてよいのか分かりません……!! ご主人様が死ねとおっしゃるのなら、喜んでこの身を捧《ささ》げるのですが……」


「そうか。ならば、今は俺の命令に従え。その後はお前の好きにしろ。人間になった俺に不満があるというのなら、正面切って戦ってやる」


「……かしこまりました」と、リサは不承《ふしょう》不承《ぶしょう》ながらうなずいた。


「では全員、四方《しほう》に散れ! 防御魔法を発動。俺が解除と命じるまで死守しろ!」


 四人の魔族が四方向に分かれていく。


 命令通りに各々魔法陣を描《えが》いて、クレイグの体を包み込む結界を作り出した。


 クレイグに流れ込む魔素がぴたりと止まった。


 魔族四人で作り上げたドーム型の結界は、黒光りするほどたっぷりと魔素が練《ね》りこまれて、厚みも十分にある。多少の損傷《そんしょう》ならば、結界の外にある魔素で修復可能な強度はあるはずだ。


 同時にクレイグの方は手を掲《かか》げて、複製体にかけていた時間停止魔法を解除した。これでいつでも精神を移すことができる。


(さあ、準備は整った)


 クレイグは右手にあるステラの核の封印のほころびに左手をかざして、自分の有《ゆう》する魔素をありったけ注《そそ》ぎ始めた。


「ステラ、俺の魔素を奪いつくせ!」


 封印のほころびに向かって、黒い靄《もや》がどんどん吸い込まれていく。


 このほころびがなかったら、このような手は使えなかった。封印が完璧な状態では、外からの魔素を受け付けない。逆に封印が解けていたら、今頃世界から魔素は失われて、自分を含めて生きとし生けるものはすべて死んでいた。


 これを好機と言わず、何と言うのか。


 ステラの核に吸い込まれた魔素は、てっきりそのまま消滅させられるものとばかり思っていたのだが――。

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