5-3 二度目の告白!
三百年前、勇者ヘイデンが魔王と戦った魔王城の謁見の間――。
ステラはそこで、新たな魔王とも呼べるクレイグに対峙していた。
「先生、こんな魔素の塊のような敵と、よく戦う気になりましたね……」
ステラのひざがカクカク震えるのは、相手が怖いからというより、これから殺されるという事実のせいだ。
その恐怖を紛らわせたくて、つい関係のないことを話してしまう。
「その前に魔族五人とやり合ったからな。仲間を全員失って……ここまで来たら、独りでも戦うしかないと思っただけだ」
世界のために魔王と戦ったのは、間違いなく目の前の人だったのだと思う。死ぬ気で魔王に立ち向かった彼は、やはり賞賛に値する。
「勇気ありますね。さすが勇者様です」
「そんな風に言ってくれるのは君だけだ。ありがとう」
クレイグはかすかに目を伏せて、うれしそうに微笑んだ。
「ちなみに……わたしをどうやって殺すのか、聞いてもよろしいでしょうか? 物理的に、とおっしゃっていましたけど……」
「君の胸に手を突っ込んで、核を取り出すつもりだ」
クレイグは右手を掲げて見せる。その指先がわきわき動いているのを見て、ステラは青ざめた。
「そ、それはまた痛そうな方法で……。剣でさくっと貫くとかではダメなのでしょうか?」
「人間の急所の一つが心臓だ。そこを武器で狙うとなると、核も傷つけて君の精神が欠損する危険がある。即死させるなら首を落とすという方法もあるが、これは俺があまりやりたくない」
「わたし、先生の趣味がよく分かりません……!! 素手で胸をえぐる方がお好みなんですか!?」
ステラは目を剥いて、クレイグを睨んでいた。
「言っておくが、俺は魔物を数えきれないほど倒してきたが、人間を殺したことはない。こう見えて怖くて震えている」
(そういえば、先生は最初からこの方法は気が進まないって言っていたっけ)
それでも『やりましょう』と言ったのは、ステラの方だった。
クレイグの表情はいつもと変わらず、感情が読み取りづらい。心の中にある恐怖を必死に隠して冷静さを装っているのかと思うと、ステラはふっと気が緩んでくすりと笑っていた。
「先生がそういう人でよかったです」
「痛いのがイヤだというのなら、眠り薬を使うか? 寝ている間にすべて済ませられる」
眠ってしまえば、この恐怖を忘れて死を迎えることができる。もしも失敗に終わっても、それまで。成功したら、ステラは先ほど造った複製体になって目を覚ます。
一瞬、その方が楽でいいかと思ったが――
「いいえ、それはお断りします。最後の最後の瞬間まで、先生のお顔を見ていたいので」
ステラを殺すことに怯えるクレイグにだけ、この苦行を押し付けるわけにはいかないと思った。
「そうか」と、クレイグは少し残念そうにつぶやいて、一歩一歩近づいてきた。
(先生はわたしが眠っていた方がよかったのかな……)
クレイグにひどい死に顔は見せたくないが、ステラの方は大好きな彼を見つめながら死んでゆける。
(これがわたしの待っていた『ワンチャン』なんだから……!!)
「すまない、ステラ」
まるでこれからキスをするかのように、ステラはやさしく腰を抱き寄せられた。
鼻と鼻が触れそうなほどに間近に迫ったクレイグの顔。最高に幸せな瞬間だった。
欲を言えば、その麗しい顔を険しくしかめず、やさしく微笑んでほしかったが――。
「先生、大好きです」
ステラが笑みを浮かべてささやいたと同時に、左胸に激しい痛みが駆け抜けていった。




