5-2 先生の好みって?
ステラはクレイグとともに隣のベッドに移動した。そこにはシーツがかけられているだけで誰もいない。
「このベッドはわたしの複製体のため……?」
「俺と同時に精神を移すんだ。あまり遠くに置いておくわけにもいかないだろう」
「な、なんか、ドキドキします……」
ステラは胸を押さえて、空っぽのベッドを見つめた。
「見ていてあまり気持ちのいいものではないから、離れていてもいいぞ。君の一部をもらえれば、あとは俺が造るだけだから」
「……いえ! わたし自身のことですから、先生に全部お任せするわけにはいきません。きちんと最後まで見届けます!」
「そうか?」と、クレイグはかすかに笑った。
「ならば、君の髪を少しもらうぞ」
クレイグの手がステラの耳元に伸びて、顔の横のおくれ毛をそっとすくい上げた。
彼のひんやりした指先が頬に触れて、ステラのドキドキは加速。きゅっと首をすくめてしまう。
(先生が近いよ……!!)
それも一瞬のこと、クレイグの手は離れていって、その指先には五センチほどの長さの小麦色の髪が一本つままれていた。
「……それだけで足りるんですか?」
「ああ、十分だ」
クレイグはその髪を枕の上に置くと、その上に右の手のひらをかざした。
ステラの知らない魔法陣が次々と手のひらの下に現れては消えていく。
黒く見えるほど大量の魔素がその髪に注ぎ込まれているのが、ステラの目にもはっきりと映る。とてもではないが、人間業ではない。
同時に枕の上の髪がどんどん伸びて、ステラの髪の長さほどになると、今度はその毛先に小さな白い肉のような塊が現れた。
その塊は大きくなりながら、数えきれない髪を生やしていく。
やがて、頭の上部を輪切りにしたようなものが枕に乗っているのが見えた時点で、ステラは吐き気をもよおして、うっと口元を押さえた。
(あの白っぽいの、わたしの脳ミソじゃないの……!?)
これから内臓や手足が生えてくるのかと思うと、確かに見ていて気持ちのいいものではない。
(さすがに最後まで見届けるのは無理……!!)
ステラはそれ以上直視できず、顔をそむけたまま複製体ができ上がるのを待つことにした。
*
それから二十分ほどが経って――。
「これで出来上がりだ。欠損部分はないはず」
クレイグに声をかけられて、ステラがベッドを見たところ――
「きゃあぁぁぁ」と、即座に悲鳴を上げていた。
そこには全裸の自分の身体が横たわっていたのだ。
「先生、まじまじ見ないでください……!!」
ステラは慌ててシーツを引っぺがして、その身体を包み込むと、クレイグをじろっと睨みつけた。
クレイグはうっすらと目元を赤くして、視線をそらす。
「……すまない。精神の入っていない体は人形でしかないから、あまり気にしたことがなかったんだ」
「人形っていっても、生身の女体ですよ! ……て、先生はそういうものを見慣れているということでしょうか?」
「そ、そのようなことはない!」
(……少なくとも魔族の女性は造ったことがあるはずよね?)
ステラはそばに控えていたリサにちらりと目をやった。
メイド服のエプロンであまりよく分からないが、リサの胸元のふくらみはかなりボリュームがある。思い返してみれば、エルシーも魅惑的な体つきをしていた。
対してステラの胸元は、年頃の少女としては寂しい。
「先生が好みの女性は、こういう感じなんですか?」
「誤解しないでくれ! 俺の造った魔族はそれぞれ好きな姿をとっているだけで、誓って俺がそういう体に造ったわけではない!」
いつも冷静なクレイグが、珍しく取り乱している。
もしかしたら分身の表情というものは、遠隔操作をするには動かしづらいものだったのかもしれない。
「そうなんですか?」と、ステラはリサの方に聞いてみる。
「ご主人様に喜んでいただくため、好まれる姿に変えているのは間違いございません」
「ほら、やっぱり」
「それは彼女たちの勝手な解釈で、俺の好みとは違う!」
(先生の好みって?)
ステラは聞こうとして、墓穴を掘りそうなので口を閉じることにした。
「そういうことにしておきます」と、ニコリと笑って見せた。
「とにかく――」と、クレイグはわざとらしくコホンと咳ばらいをする。
「こうして準備が整ったところで、次の段階に入っていいか?」
ステラの頭はすっと冷えた。
次の段階――ステラが殺される番だ。




