4-7 賭けのような計画
いよいよかと、ステラもごくりと息をのんで姿勢を正した。
「完璧な計画ができたんですか?」
「いろいろ考えたが、必ずしも成功するとは限らない。ほとんど賭けのようなものだ。それでも君はその可能性に賭けるのか」
「それは――?」
「君を殺さなければならない」
予想外の言葉に、ステラの頭の中は一瞬真っ白になった。聞き間違いだったのではないかと疑いたくなる。
「……そ、それはどういう意味ですか?」
「言葉通り、君の人間としての生を奪う。君に魔法は効かないから、物理的に殺すことになる」
(物理的って……首をはねるとか、刺殺とか絞殺とか……?)
ステラはぞくりと寒気を覚えながら、乾いた笑いをもらしていた。
「そうですよね……。そもそもわたしがこの世に生きていることが間違っているんですから、お母さんの封印が解ける前に殺してしまう方が早いですよね」
「誤解しないでくれ。俺の推測が正しければ、おそらく君を殺したところで、死ぬのは人間としての肉体だけだ。君の核を破壊しない限り、君の精神はこの世から失われることはないと判断する」
「ええと、つまり……?」
「残された核に魔素を注げば、君を魔族として復活させられる可能性があるということだ」
「わたしが魔族に? なら、逆に肉体じゃなくて核を破壊すれば、わたしはただの人間になれるっていうことですか?」
「理論的にはそうなる。ただ、それはすでにランドルが試したことで、魔法の効かない君にはうまくいかなかった。シンシアも封印ができただけで、破壊まではできなかった」
「それは魔法が効かなかっただけで、物理的に破壊すれば何とかなるということでは?」
「ランドルに聞いたところ、君の核は心臓の近くにあるそうだ。物理的に壊そうとすれば、君の心臓も傷つけて同時に殺すことになる」
「魔物みたいな核がこの辺りに……?」
ステラは無意識のうちに胸を押さえていた。
生まれて十六年、付き合ってきた身体にそのような異物があるとはまだ信じられない。半魔だと分かってからも、家族や他の人間との差異を感じたことはなかった。
ただ、他の魔法使いより魔素に対して鈍感だっただけだ。
「だから、一度君の肉体を殺して、核を取り出そうと思っている」
「取り出して、何をするんですか?」
「もちろん俺の魔素を奪ってもらう。君の核の封印にはすでにほころびができている。そのほころびが俺の魔素を取り込んで、消滅させてくれるはずだ」
「それが目的なら、わたしから核を取り出さなくても、先生が今のわたしを思いっきり攻撃すれば済む話じゃないですか?」
「それでは人間に戻れるのは俺だけで、君は何も変わらないだろう。人間に戻った俺が、今ほどの力を使えるとは楽観視できない。君が世界を滅ぼしていくのを見ていることしかできなくなる」
「そ、それもそうですね……。でも、わたしがただの核? 魔素の結晶になった後はどうなるんですか?」
「あらかじめ、君の肉体を複製しておくつもりだ」
「先生の精神を移すための肉体のように?」
「そうだ」と、クレイグは真剣な表情でうなずく。
「俺の魔素が限界まで削られて、精神を移せる状態になった時、君の核を破壊する。それから、君と俺、用意した肉体へ精神を同時に移す。これがうまくいけば、二人とも人間になれるはずだ。失敗すれば――」
「やりましょう!」と、ステラはクレイグの言葉をさえぎって、彼の迷いを無視した。
「だって、このままだったら、お母さんの時を止めていても、わたしは魔素を消滅させ続けてしまうんですよね? いつ世界から魔素が完全に消えるか分かりません。先生が人間に戻れたとしても、望んだ長生きはできないかもしれません」
「だが……」
「わたしは世界を滅ぼすことなんて望んでいないんです。みんなの幸せがかかっているなら、この策に賭けてみる価値はあります!」
両手の拳を握りしめるステラに、クレイグは少しあきれたように、けれどうれしそうに微笑んだ。
「みんなの幸せのために、か。君のそういう人間らしいところが、俺にはまぶしいな」




