4-6 デートみたい!
翌朝、ステラはしょぼしょぼする目をこすりながら出勤した。やはりよく眠れなかった。
「おはようございまーす……」
適当にあいさつをしながら学園長室に入ると、奥のデスクには珍しくクレイグの姿があった。
「おはよう」
涼やかな声で返されて、ステラの眠気は一発で吹っ飛んでいく。
「お、おはようございます!」と応えながら、背筋がしゃきっと伸びた。
「昼休みに昨日の話の続きをしよう」
「今すぐではないんですか?」
「俺はかまわないが、オズワルドに仕事があるようだ。それを片付けてからにしてくれと言われた。休みではないから仕方がない」
クレイグがちらりと見やった先は、デスクですでに仕事を始めているオズワルドだった。
ステラは思わず目を吊り上げて――
「オズワルドさん、世界が滅亡するかもしれない時に、わたしに雑用係の仕事をさせるんですか!?」
「あいにく世界はまだ滅亡しておりませんから、学園は平常運転しなければなりません」
「そ、それはそうですけど……!!」
「あなたは間違いなく雑用係として雇われ、給料をもらっている身です。きっちり仕事をしていただきます」
ステラはすがるようにクレイグを見たが、『あきらめろ』と口が動いていた。
「分かりましたよ! そういうことなら、どんどん仕事をください。さっさと終えて、先生とお話ししますから!」
*
(おっかしいなぁ……)
ステラは学園長室に向かいながら眉根を寄せていた。
オズワルドから任される仕事を怒涛の勢いでこなしていたというのに、気づけば正午の鐘が鳴っている。
(もしかして、予定の仕事より増やされたんじゃない?)
ステラが訝しく思いながら学園長室に入ると、オズワルドが顔を上げた。
「お昼休みですね。頑張ったご褒美に、学園長が昼食を買ってきてくださるそうですよ」
「本当ですか!? やったあ!」
ステラは思わずはしゃいでしまったが、はたしてお昼をのんびり楽しむ余裕があるのだろうかと首をひねった。
そうこうしているうちに、紙袋を手にしたクレイグがふっと部屋に姿を現した。入れ替わるようにオズワルドが、「では、私は失礼します」と姿を消す。
学園長室にはクレイグと二人きり。オズワルドは気を遣ってくれたのか。
(オズワルドさん、意地悪そうで、実はいい人!?)
「適当に買ってきたが、そういえば君の好みを聞いたことがなかったな」
クレイグに興味を持ってもらえることが、これほどうれしいこととは。ステラは『ひゃあ』と歓声を上げながら悶えそうになるところ、きりっと表情を引き締めた。
「基本的に何でも好き嫌いなく食べます。お肉かお魚かと聞かれれば、お肉の方が好きです」
「そうか。気に入ってもらえるといいんだが。君も座って」
ソファを勧められて、ステラはかしこまって座った。
その向かいに腰を下ろしたクレイグは、紙袋から次々と包みを取り出している。
サンドイッチやサラダ、ジュースなどがテーブルに並んだ。どう見ても一人分にしては多い。
「もしかして、先生も一緒に食べてくださるんですか?」
「そろそろ人間に戻れるかと思うと、食事をしたくなった」
(先生と二人でランチなんて、デートみたい!)
ステラは胸の内で『ひゃあ』を連発しながら、「いただきます」と、紙に包まれたサンドイッチに手を伸ばした。
こんがり焼いた丸いパンの間には、焼いたミンチ肉と赤や緑の野菜がはさまっている。見ためもおしゃれで、おいしそうだ。
ぱくりと頬張ると、肉汁がじゅわっとしみ出てきて、甘辛いソースと一緒に口の中に広がった。
「おいしい……!! これはどちらで買ってきたんですか?」
「アルトナ王都の城下町で。昔食べて美味かったから、懐かしくなってな」
クレイグもサンドイッチを取り上げて、上品に一口かじった。おいしそうにぱっと顔を輝かせる姿が微笑ましく、きゅうっとステラの胸をわしづかみにしてくる。おかげで味が分からなくなってしまいそうだ。
(先生と一緒っていうだけで、どんなものでもおいしくなっちゃいそう……!!)
ステラは勧められるままに料理に手を伸ばして、モリモリ食べていた。確かにどれもこれもおいしい。
「わたし、王都にも行ったことがないんですけど、いろいろなものがありそうですね」
「そうだな。ここより人間も多いし、物流も盛んだから、いろいろな国の料理を扱う店も多い」
「転移魔法が使えると、ほんと、いろんなところにひとっ飛びでうらやましいです」
すっかりデート気分で食事を楽しんでいたが、テーブルの上の料理やデザートが終わる頃、クレイグが改まった様子で話を切り出した。
「そろそろ昨日の話の続きをしようか」




