3-4 特殊能力の使い道
「先生、すごいです。尊敬します!」
ステラが心のままに言葉にすると、クレイグはばつが悪そうにこめかみを指先でかいた。
「君が思うほど純粋な目的ばかりではなくて、俺の個人的な事情も入っているからな……」
「先生の事情ですか?」
「魔物を討伐する、ひいては魔王を倒すという大義名分がないと、強い魔法使いは育てられないだろう?」
確かに各国で魔物による被害があるおかげで、魔法学園の卒業生は軍で活躍できる。魔法使いとして、より強くなることで、職に就いた時の待遇も変わる。
魔物も、いずれ復活する魔王もいなかったら、『強くなって何をするの?』にしかならない。ダンジョン実習も魔物を倒して遊ぶだけのものになってしまう。
最悪は、クレイグの懸念通り、強い魔法使いの力は、人間を殺すための兵器として戦争に使われてしまうかもしれない。
「先生はご自分を倒してくれる『勇者』が必要なんですから、一石二鳥ということじゃないですか」
「――と俺もそう考えていたんだが、暗黒時代に比べると、どうやっても今の世界は平和すぎた。危機感がなければ、『魔導師』以上を目指す切羽詰まった理由もなくなる。そうそううまくいくような話ではなかったということだ」
「それでも、先生は世界を危機に陥れてまで、ご自分の目的を果たそうとはしなかったんですよね?」
「ああ。さすがの俺も、これ以上世界の魔素濃度を上げて、人類を滅亡の危機に追いやることはしたくなかった」
それはクレイグが魔族の体であっても、精神は人間である証拠。自分の目的のために、他人を粗末に扱ったりしない。それはやさしい人間の心がなせる業だ。
(やっぱり、先生はわたしの好きになった人です……!!)
「――もっとも、暗黒時代の魔王でも、俺が現れるまで二百年の歳月を費やした。俺もあと何年待てばいいのか、半ばあきらめかけていたんだが……ここへきて、魔素そのものを消せる君という存在が現れた」
クレイグの真摯な眼差しがステラの目に注がれて、図らずも胸がドキリとしてしまう。
「わたし、ですか……?」
「君の能力で俺の魔素を限界まで削ってもらえれば、精神移行魔法を使えるようになると思う」
「先生が二百年かけても、人間に戻るために頑張ってきたことです。わたしでお力になれるのなら、ぜひ協力させていただきます!」
ステラはためらいなく宣言したが、クレイグは表情を曇らせた。
「可能性は可能性であって、絶対とは言い切れないんだ」
「何か問題でも?」
「君は普通の魔法使いと同様に、体外の魔素を取り込んで魔法を発動する。その魔法が魔素を消滅させるという特異性を持っている。理論上、君が俺を魔法で攻撃すれば、俺の魔素は減らせる」
「そうですね」
「そこで問題になるのは、君があくまで魔法使いという人間であることだ。周囲の魔素を魔法に変換する時には、体内の魔素を失う。回復するためには食事か魔法薬が必要になる。魔法理論の授業で習ったと思うが」
「はい、もちろん知っています」
人間の身体を維持するために必要な魔素の量――『基本魔素量』は、おおよそ身長と体重、性別で決まる。
食事で取り入れられる魔素から基本魔素量を引いた魔素を動力として、魔法使いは大気から取り込んだ魔素を魔法に変換する。
それを『魔力』と呼んで、魔法使いによってその最大値『魔力量』が違う。
魔素はたとえ過剰に摂取しても、魔力量を越えて体内に蓄積することはできずに、排泄されてしまうもの。
逆に魔力量を超える大きな魔法を一度に放ってしまうと、身体の維持に必要な魔素も使うことになって、魔素欠乏症に陥る。
「君がダンジョンを壊した時に気を失ったところを見ると、魔力には限りがあるのだろう」
「わたしの魔力量、学年でも最少ですから……」
ステラはしょぼんと頭を落としたが、クレイグはさえぎるように手を上げた。
「その数値はあまり気にしなくていい」
「でも……」
「俺が思うに、君の特殊能力は取り込んだ魔素を体内で変質させる種類のものだろう。そのせいで、魔力量や他の能力値を測っても、普通の魔素が極端に低く表示されるんだと思う」
「つまり、普通じゃない魔素だったら、それなりの量を魔法として使えると?」
「おそらく。ダンジョンを崩壊させたところを見ても、Aクラスレベルの魔力量は最低限持っていると思うが」
「ひゃあ……て、それは喜んでいいのか、悪いのか……」
結局のところ、魔素を消滅させることはできても、まともな魔法を使えないことには変わりない。それどころか魔力量が多いとなると、世界を滅ぼす危険人物として、余計に拍車がかかってしまう。
「要は君が俺を攻撃しても、俺の魔素を減らすには限度があるということだ。俺の膨大な魔素を少しくらい削ったところで、俺の方は周囲の魔素を取り込んですぐに回復してしまう。下手をすれば、君の方が魔素欠乏症になって、命の危険にさらされる」
「それってつまり、わたしの魔力量は先生のものに比べたら微々《びび》たるものということで……」
「それがどの程度か、君の力を改めて検証したいと思っている」
「それはかまいませんけど――」
どうやって? と首を傾げるステラは、クレイグに連れられて城の外に出ていた。




