後編
「精々私を楽しませてくださいね?
散々と大口叩いてくださったんですから。
あとで言い訳も出来ないように、正々堂々と1対1で叩き潰してあげますわ。
皆さんも手出しは無用ですわよ」
そう言って笑うのは【ゴールデンフィンガー】乱咲ヨガルだ。
人質をとってシズクを拉致っておきながら、今更正々堂々とか笑わせてくれるぜ。
だが、その実力は本物だろう。
俺自身には他の裏美道使いのような業はないからな。
出来るのは時間稼ぎってとこか。
まぁ、精々頑張ってみますかね。
そして俺と対峙したのが【ゴールデンフィンガー】乱咲ヨガルならば、必然的に清四郎と対峙するのは【乱射乱撃】槻間久里という事になる。
「我の相手は【千変万化】貴様か。
相手にとって不足はなし!
【乱射乱撃】槻間久里参る!」
そう言い放つと、勢いよくロングコートを脱ぎ捨てる【乱射乱撃】槻間久里。
その下から現れたのは、鍛え上げられた肉体。
衣類は一切身に着けていない。
要するに全裸ってやつだ。
ガチマッチョの全裸変態とか悪夢でしかないな。
「ほう。貴様の裏美道は露出か。
悪くない。
だが、シズクには通用したのかも知れんが―――――
男である俺には効かんぞ」
そりゃそうだよな。
一般的な感性の女なら阿鼻叫喚の地獄絵図ものだろうが、超弩級の変態である清四郎にとっちゃ、扇風機の微風程度の障害にもなりゃしねー。
「ふっ。効くかどうかその身で確かめて見るが良い!」
そう言い放つと猛然と清四郎へと飛び掛かる【乱射乱撃】!
速い!
巨体に見合わぬ速度は、鍛え上げられた筋肉の賜物ってところか。
「っく!?」
それを間一髪で避ける清四郎。
勢いの付いた【乱射乱撃】はそのままモールの外壁へとぶち当たる。
【乱射乱撃】の自爆。
そう思った時だった。
【乱射乱撃】の体がゆらりと動き出し清四郎の方へと向きなおす。
あれ程豪快にぶち当たったってのに、【乱射乱撃】に肉体的なダメージはなさそうだ。
化け物かよ。
だが、驚くべきポイントはそこじゃない。
真に注目すべきは【乱射乱撃】が激突した外壁の方だ。
チンコが激突したであろう近辺にぽっかりと穴が開いてやがったんだ。
しかも一カ所じゃない。
三カ所だ。
「良くぞ躱した。
流石は【千変万化】といったところか。
我が裏美道の本質は突いて突いて突きまくる!
攻めの裏美道だ!
露出はあくまでも突きの副産物でしかない!」
かの幕末の天才剣士、沖田総司は刹那に三度の突きを繰り出したという。
奴はチンコでそれを再現して見せたというのか?
何て奴だ!
再び身構え、清四郎へと突撃する【乱射乱撃】。
その下半身が神速にぶれる。
な、何だとぅ!?
チンコ突きが三連撃では終わらないだと!?
無数のチンコ突きが清四郎の全身を打ち据えやがった!
「ぐあああああ!?」
苦痛の呻きと共に膝をつく清四郎。
「どうだ、これこそが!
我が裏美道が神髄!
超高速連撃也!」
勝ち誇ったように高らかに言い放つ【乱射乱撃】。
確かに恐るべき業だ。
こんなものを繰り出された日にゃ、並の女では受け止めきれないだろう。
裏美道界を追放されたという話も頷けるってもんだ。
一般人、いや、並の裏美道使いならここで勝負はあっただろう。
だが、清四郎は立ち上がる。
清四郎はこの程度で果てるような奴じゃない。
それは清四郎の股間を見てみれば一目瞭然だ。
何せ怒髪天を衝く勢いでいきり立っていやがるんだからな。
ちょっと分かりやすく表現するらば、ボッキンキンってやつだ。
「ほう。超高速連撃を受けてなお立ち上がるとは見事。
だが、我が超高速連撃は絶対無敵也!」
「絶対無敵?
確かに大した業である事は認めよう。
だが、絶対無敵には程遠い。
それを俺の裏美道で証明してみせよう」
力強く言い放つ清四郎。
その手には何時の間にか、一台の掃除機が。
そう、この掃除機こそが、俺達が買い出しに出ていた理由の一つだ。
清四郎の裏美道はジャクリーンと名付けられた掃除機に依存する部分が大きい。
電源のある室内ならば、圧倒的な実力を発揮するが、屋外となると格段にその能力は落ちる。
それじゃコードレスにすれば、弱点は無くなるんじゃね? 的な発想で購入してきたのがこのバッテリー式掃除機って訳だな。
名付けるならジャクリーン二式といったところか。
今の清四郎に弱点はない。
「ふ。面白い!
ならば我が、超高速連撃と、
貴様の掃除機!
どちらが上かはっきりさせようではないか!」
「望むところだ」
【乱射乱撃】の言葉に応じるように清四郎も掃除機を構える。
その構えは新選組の鬼の副長土方歳三が考案したという片手平突きに酷似していた。
沖田総司VS土方歳三。
新選組同士の夢の対決が、時を超え実現しようとしている。
今、俺は歴史の生き証人になる!
って、それは言い過ぎか?
うん。
言い過ぎだな。
ごめん。
先に動いたのは【乱射乱撃】。
突きによる攻めこそが己の裏美道の本質とまで言い切る男だ。
その動きには一切の迷いがない。
それを受けて勃つのは清四郎だ。
掃除機によって攻撃力にも申し分はない。
だが、清四郎の裏美道の神髄は【千変万化】の二つ名が示す通り、あらゆる状況に柔軟に対応してのけるその臨機応変さだ。
【乱射乱撃】の下半身が霞む。
そして発動する超高速連撃!
同時に清四郎も掃除機を繰り出す!
そして二人が交錯する。
次の瞬間。
俺の目に飛び込んで来たのは。
【乱射乱撃】のチンコにミラクルフィットする掃除機だった。
竿で釣るという発想はよくあるが、清四郎のやつは掃除機で竿を釣るという離れ業をやってのけやがった!
何という見事な一本釣り!
正に【千変万化】の真骨頂!
「な、なんだとおおおお!?
だが、こんなもの抜いてし――――
ぬ、抜けんだと!?」
「ふ。当たり前だ。
掃除機の吸引力は驚異の99%持続する。
一度捉えたものは決して逃さん。
性も魂も全てを掃除機に吸いつくされるが良い!」
「ぐぅうぅぅぅ。
もはやここまでかああああ!
良くぞ、我が超高速連撃打ち破った。
【千変万化】並びに掃除機よ……見事……也!」
潔く負けを認め、清四郎を称えたのち、【乱射乱撃】は力尽きるように崩れ落ちたのだった。
そして場面は俺の元へと戻る。
悠長に清四郎のバトルを解説してた間、俺はどうしていたかって?
やられてたよ。
乱咲ヨガル。
コイツすげーわ。
俺の右手が恋人も全く当たりゃしねーよ。
フルボッコならぬフルボッキってやつだよ。
「ふふふ。
繊細なる刺激による性感増幅こそが私の裏美道。
名付けて痴覚過敏。
押し寄せる快感に貴方は何時まで耐えられるかしら?」
そう。俺は別に肉体的ダメージを負わされている訳じゃない。
俺を責め苛むのは、めくるめく快感だ。
この快感を言葉に言い表すのは難しいが、あえて表現するならば。
超きもちイイ! 何も言えねー! ってところだろう。
妖艶に微笑み、そして振るわれる乱咲ヨガルの腕。
そして崩れ落ちる俺。
正直もう、俺の足腰はふにゃふにゃだ。
んでもってチンコはビンビン丸。
それでも俺は立ち上がる。
そんな俺の様子に乱咲ヨガルは、僅かに不愉快さを滲ませる。
「もういい加減に諦めたらどうですの?
【性帝】直伝の右手が恋人というのも大した事はありませんし。
しつこい男は嫌われましてよ?」
ああ。そうだろうな。
俺の裏美道にはお前等みたいなこれっていう芯となるものはないさ。
そんな俺でも、身内に手をだされりゃ怒るさ。
だから俺は勃つし、立ち上がるんだよ。
何度でも何度でも。
不死鳥の如くな。
「埒があきませんわね!
でも、それもここまでですわ。
そろそろ限界でしょう?
もう楽に―――――」
そこまで言って乱咲ヨガルの言葉が止まる。
いや、止まっただけじゃない。
カクンと膝から崩れ落ちた。
「な、何ですの?
これは……
快感!?
これはまさか……
私の痴覚過敏!?
いや、それにしてもおかしいですわ!?
右手が恋人とやらは完全に防いでいた筈なのに!」
そのまさかだよ。
ようやく効いてくれたか。
もうダメかと思ったぜ。
乱咲ヨガル。
確かにあんたは俺の右手が恋人は完全にシャットアウトしていたさ。
でもな。
俺の本命は、左手も恋人だったりするんだよ。
確かに俺の裏美道には芯となるものはない。
それは認めるしかない。
その代わり俺の手は少しばかり器用なのさ。
掃除機だろうが、電マだろうが、それなりに使い熟せちゃったりするんだよ。
勿論、あんたの痴覚過敏だってな。
目の前にお手本がいるんだ。
それ程、難しい事じゃなかったさ。
「そ、そんな。
嘘よ!
私の痴覚過敏がそんな簡単に扱える筈は!?」
崩れ落ちたまま後ずさる乱咲ヨガル。
完全に足腰が立っていない。
その全身は快楽に蝕まれている事だろうよ。
ひたすらに磨きかけてきた自分だけの業が、あっさりと見様見真似で再現されちまったら、錯乱もしちまうってもんだろう。
乱咲ヨガルの後ずさりは何かにぶつかって止められる。
怯えた表情で乱咲ヨガルが振り向いた先には。
「愛野シズク!?」
「ふん。タケルにしては上出来よ。
褒めてあげても良いわ!」
そう。俺の目的は最初から乱咲ヨガルを倒す事じゃない。
俺は最初に言った筈だぜ?
シズクはまだ負けちゃいないってな。
俺の役目はあくまでも時間稼ぎってやつだ。
それもシズクが復活するまでの時間稼ぎ。
痴覚過敏はただのおまけだな。
それにしても、この女はもう少し素直に感謝を言えないもんかね。
しおらしいシズクってのは、シズクじゃないか。
もう、俺は充分に役目は果たしただろ?
後は任せたぜ【デンマスター】さんよ。
「あんたは安心して死んでなさい。
止めは私が刺すわ。
あんた達が準備したこの新兵器で」
いや、死なないけどな。
むしろ気持ち良過ぎて足腰たたないだけだし。
そしてシズクの手に握られていたのは。
それは電マというにはあまりにも大きすぎた。
大きく、長くそして大震動すぎた。
それは正に生コンクリート打設用バイブレーター(バッテリー型)だった。
おっと何かがうっかり乗り移りそうになっちまったぜ。
俺と清四郎が買い出しに行っていたもう一つの理由がこれだ。
清四郎の掃除機と同様にシズクの電マも屋外で使うには電源という欠点がある。
それを穴埋めするどころか、パワーアップを狙ったのがこの生コンクリート打設用バイブレーター(バッテリー型)だったりする訳だ。
毎度毎度生コンクリート打設用バイブレーター(バッテリー型)って言うのも面倒臭いな。
略して生バイブで良いか?
良いよな。
んで、この生バイブ、勿論性能においても家庭用の電マとは一線を画す訳だ。
個人的な感覚でいうなら軽く10倍くらいは破壊力ありそうだよ。
そんなものをシズクに持たせた日にゃ、結果は火を見るよりも明らかな訳で。
「じょ、冗談よね?
そんなモノ使わないわよね?」
乱咲ヨガルは、もう完全に涙目だ。
まぁ、痴覚過敏で全身が敏感になってるところに生バイブなんて兵器を見せつけられりゃ、心も折れるってもんだよなぁ。
でもな。
散々人質をとってシズクを嬲っておいて、自分だけ許して貰えるだなんて都合の良い話は、ある訳ないだろ?
大人しく生バイブに蹂躙されるんだな。
そしてシズクは動き出す。
「ちょっと! 無理!
今は本当に無理なの!
貴方たち私を助けなさいよ!
早く! 今すぐに!」
乱咲ヨガルが、半狂乱状態で取り巻き連中へと助けを求めて視線を送ってみれば。
その視線の先には既に誰も居ない。
さっきまでの狂乱ぶりが嘘のようにポカンと口を開けて呆ける乱咲ヨガル。
残念だったな。
そいつらならとっくに逃げたぞ。
良い仲間を持って幸せだな。
幸せのしわ寄せってやつを思う存分に味わってくれ。
さっきお前が俺に寄越した台詞をそのまま返してやるぜ。
いい加減に諦めろってな。
「ひっ。ひぃぃ。
いや、やめて。
いっやあああああああああああああああ!」
日も傾き、夕日に赤く染められた閉鎖されたショッピングモールに、お嬢様の悲鳴が響き渡ったのだった。
こうして今回の騒動は無事に一件落着しましたとさ。
最後まで読んでくれてありがとーん!
また何処かでお会いしましょう!