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17/30

毒入り薬草の噂を、公開検査で潰します

第17話です。

リーベル産を名乗る偽物に対し、ルカたちは白露草と三滴印の信用を守るため、誰の目にも残る公開検査に踏み切ります。

「公開検査をします」


 そう言ったあと、南畑にいた全員がしばらく黙った。


 白露草の試験区には、朝露を含んだ葉が静かに揺れている。

 俺たちはまだ、その葉を一枚も商品として外へ出していない。

 検査票もつけていない。

 三滴印も押していない。


 それなのに、南西の町では「リーベル産」を名乗る白露草粉が出回り、それを混ぜた薬で腹を壊した者が出たという。


 噂だけなら、否定すればいい。

 だが、噂は水と違って、止めるための堰が見えない。


 だからこそ、記録がいる。

 誰が見ても、後から確認できる形の記録が。


「公開検査、ですか」


 エルシアが確認するように言った。


「はい。村の中だけで『違う』と言っても、外には届きません。リーベルの白露草がまだ畑に残っていること。検査票のないものはリーベル産ではないこと。偽物が何でできているか。できる限り、見える形で残します」


 ネリアは白露草の前に立ったまま、唇を噛んでいた。


「でも、白露草を検査するには、葉を採らないといけません。まだ試験区です。採り方を間違えれば株が弱ります」


「一枚だけです」


 俺は答えた。


「しかも、採取する前に記録します。株の数、葉の位置、採る理由、立会人。全部残す」


「……薬草師としては、嫌です」


 ネリアは小さく言った。


「ですが、必要なのもわかります」


 ミラが三滴印の入った箱を胸に抱え直した。


「リーベルのじゃないって、みんなに見せるの?」


「そうだ」


「じゃあ、わたしも見る」


「助手だからな」


「うん」


 ガンズは、昨日打ったばかりの封印杭を肩に担いだまま鼻を鳴らした。


「面倒な連中だな。草も水も、勝手に名前を盗まれるのか」


「売れる名前になった、ということです」


 ドランが封書を折り畳みながら言った。


「商人としては喜ぶところですが、今回は笑えません。信用は、作るより壊すほうが早い。リーベル産は危ない、という噂が一度広まれば、本物を出す前に市場が死にます」


「市場が死ぬ、か」


 俺は南畑の試験区を見た。


 王都では、薬品の不良は棚の中で起きた。

 ここでは、不良品がまだ存在しない商品の名前を使って外から来る。


 直す対象が、少しずつ物ではなくなっている。

 水路。

 取水順。

 検査票。

 信用。


 どれも、赤線が見えにくい。


「ドランさん」


「はい」


「偽物の現物はありますか」


「封書には、南西支部で押さえた小袋を後追い便で送ると書いてあります。早ければ明朝です」


「なら、明朝、村の入口ではなく中央井戸の前で検査します。南畑ではなく、井戸の前です」


 ネリアが目を上げた。


「どうしてですか」


「中央井戸の水を使うからです。リーベルの白露草は、この水と南畑の土で反応しています。水を変えれば結果が変わるかもしれない」


 それに、中央井戸なら人を集めやすい。

 南畑はまだ試験区だ。余計な足で踏み荒らされれば、それだけで赤線が増える。


 俺は記録帳を開いた。


『リーベル産を名乗る白露草粉の噂を確認。現時点で、リーベル村から白露草の採取、乾燥、粉末加工、出荷の記録なし。翌朝、中央井戸前にて公開検査を実施予定』


 書き終えると、エルシアがうなずいた。


「私も辺境警備隊の記録として残します。立会人は、私、ドラン、ネリア、ガンズ、ガイ老人。可能なら、外部の者も入れましょう」


「外部の者?」


「バーナンたちです。ハルカ村の代表なら、リーベルの内輪ではありません」


 なるほど。


 リーベルの者だけで検査しても、身内の証言だと言われる。

 外から水を求めてきた者が立ち会えば、記録の重みが増す。


「呼べますか」


「まだ仮水路の補修を手伝っています。声をかければ来るでしょう」


 エルシアはそう言って、すぐに村の入口へ向かった。


 夜になっても、俺は眠れなかった。


 南畑の試験区を見回り、三滴印の箱を確認し、検査票の枚数を記録する。

 ミラは途中までついてきたが、ガイ老人に言われて眠った。

 ネリアは白露草の前で何度もしゃがみ込み、葉先の状態を見ていた。


「ルカさん」


 彼女が小さく言う。


「もし、偽物のせいで白露草が危ない草だと思われたら、どうなりますか」


「売れなくなります」


「それだけですか」


 俺は答えられなかった。


 それだけではない。


 白露草は、まだ一列しかまともに戻っていない。

 リーベル村の価値は、外の人間にとってはまだ噂でしかない。

 その噂が「高品質」ではなく「毒入り」になれば、商人も薬草師も近寄らなくなる。


 それだけなら、まだいい。


 最悪の場合、村そのものが危険地帯として扱われる。

 井戸水も、薬草畑も、検査票も、まとめて疑われる。


「危険なものだと判断されれば、調査名目で畑を押さえられるかもしれません」


 俺が言うと、ネリアは顔を強張らせた。


「王都の薬商会が、それを狙っていると?」


「まだ断言できません」


 断言するには証拠が足りない。

 俺が見ている赤線は、事実ではあっても、他人には見えない。


 だから、明日の検査で見える形にする。


 翌朝、中央井戸の前には、思ったより多くの人が集まった。


 リーベルの者。

 ハルカ村のバーナンと、取水作業を手伝っていた男たち。

 ドランの荷馬車についてきた商人見習い。

 水を求めて滞在していた旅人が二人。


 全部で二十人ほど。

 廃村だった頃を思えば、多すぎるくらいだ。


 中央井戸は、今日も細く水音を立てている。


 ぽちゃん。

 ぽちゃん。


 俺は井戸の前に、木の台を置いた。

 その上に、白い皿を三枚、透明な小瓶を三つ、三滴印の箱、検査票の束、封印用の紐を並べる。


 ガンズが腕を組んだ。


「なんだか裁きの場みてえだな」


「裁くわけではありません」


「じゃあ何だ」


「確認します」


 俺は答えた。


「噂と現物の差を」


 少し遅れて、南の道から小さな荷馬が入ってきた。

 昨日の配達人だ。

 彼は布に包まれた小袋を両手で持っていた。


「南西支部からです。途中で開けるなって言われました」


 ドランが受け取り、封を確かめる。


「商人ギルド南西支部の封蝋。破られていません」


 エルシアが手帳に書く。


「時刻、立会人、封蝋の状態を記録します」


 俺はうなずき、全員に見えるように小袋を台の上へ置いた。


 小袋には、粗い紙札が結ばれている。


『リーベル産白露草粉』


 その文字の下に、三滴印に似せた三つの丸が描かれていた。

 だが、本物とは違う。


 本物の三滴印は、ミラが木片に彫ったものをガンズが補強した。三つの滴は少し不揃いで、右下の滴だけ先が細い。

 目の前の印は、丸が三つ並んでいるだけだった。


「似てない」


 ミラが小さく言った。


「うちの印、もっとへた」


「そこは誇るところなのか」


 ガンズがぼそりと言ったが、ミラは真剣だった。


「でも、違う。これは三滴印じゃない」


「それも記録します」


 俺は検査票の束を開いた。


「まず第一の確認です。リーベル村から外へ出した検査票は、ドランさんに渡した試験取引用の写しのみ。白露草粉に対する検査票は存在しません」


 ドランが頷く。


「商人ギルドに提出したのも、白露草試験株の状態確認票です。採取品の検査票ではありません」


 エルシアが記録する。


 次に、ネリアが南畑から持ってきた木札を出した。

 試験区の株数、葉の状態、昨日の夕方の確認記録が書かれている。


「第二の確認です。白露草試験区の株は、今朝まで全て畑に残っています。これから検査のために一枚だけ葉を採ります。採取前、立会人全員で確認してください」


 全員を南畑へ連れていくことはできない。

 だから、ネリアとエルシア、バーナン、ドランが代表して確認に向かった。


 戻ってきた時、ネリアの手には小さな葉が一枚だけあった。

 切り口には湿った布が巻かれ、株を傷めないよう処置してある。


「検査用に、外側の葉を一枚採りました。株は残っています」


 ネリアの声は硬い。

 薬草師としては、本当に嫌なのだろう。


 俺は葉を白い皿に置いた。


 【修正眼】を使う。


 本物の白露草の葉には、細い白線が通っている。

 赤線はない。

 葉脈の奥に、中央井戸の青い流れと似た淡い線が見える。


 だが、それを言っても仕方がない。

 俺だけが見える結果では、公開検査にならない。


「ここからは、誰でも見える反応を使います」


 俺は中央井戸の水を小瓶に汲み、皿に数滴落とした。


 白露草の葉先が、水に触れる。


 十数える間に、葉の周りに薄い白い輪が浮かんだ。

 濁りではない。

 光の角度で見える、朝露の膜のような輪だ。


「白露草は、リーベルの水に触れると白い膜を作ります。ネリアさん、これは薬草師の知識で説明できますか」


 ネリアは皿を覗き込んだ。


「白露草は、水の魔力を葉の表面に留めます。普通の井戸水でも薄く反応しますが、これは強いです。葉が生きている証拠です」


「では、半分を潰します」


 ネリアがわずかに眉を寄せたが、黙ってうなずいた。


 俺は小さな乳棒で、葉の半分だけを軽く潰した。

 それを別の皿に移し、同じ量の井戸水を落とす。


 粉ではない。

 ただ、細かくした葉だ。


 今度も、薄い白い膜ができた。

 わずかに緑の香りが広がる。

 苦い匂いはない。


「これを、リーベルの白露草の反応として記録します」


 エルシアがうなずく。

 バーナンも、腕を組んだまま皿を見ていた。


「次に、偽の粉です」


 ドランが小袋を開けた。


 中から出てきたのは、灰色がかった粉だった。

 白露草という名から想像する色ではない。

 乾いた土のような匂いがする。


 俺には、粉の中に赤い筋が見えた。


 混ざっている。

 何かが、後から混ぜられている。


 俺はその粉を、三枚目の皿にごく少量だけ出した。


「誰も触らないでください。匂いも近くで吸わないように」


 ミラが一歩下がる。


 俺は中央井戸の水を落とした。


 反応は、すぐに出た。


 白い膜はできない。

 かわりに、灰色の粉が沈み、皿の底に黒い線を引いた。

 水面には、茶色い油のようなものが薄く広がる。


 見ていた者たちがざわめいた。


「白くならない」


 ミラが言う。


「それだけではありません」


 ネリアが顔を近づけすぎないようにしながら、皿を見た。


「これ、白露草じゃありません。たぶん、黒苦葉が混じっています」


「黒苦葉?」


 バーナンが聞き返す。


「安い苦味草です。少量なら胃薬に使うこともあります。でも、乾燥が悪いものを混ぜると腹を壊します。白露草とはまったく別物です」


「毒なのか」


「毒草ではありません。ただし、量と状態を間違えれば毒と同じです」


 ネリアの声は震えていた。


「それを白露草として売ったなら、薬草師への侮辱です」


 俺は皿の端を見た。


 赤線は黒苦葉だけではない。

 粉の粒の中に、細かな白い結晶が混じっている。


 南畑の土でも、白露草の乾燥粉でもない。


「この白い粒は、乾燥剤かもしれません。粉を白く見せるために混ぜた可能性があります」


 ドランの顔が険しくなった。


「つまり、白露草ではない草に、白く見せる粉を混ぜて、リーベル産を名乗った」


「現時点で言えるのは、リーベルの白露草とは反応が違うこと。リーベルの検査票がないこと。三滴印が偽物であること。この三つです」


 俺は言い切りすぎないようにした。


 王都で嫌というほど学んだ。

 事実以上のことを書けば、そこを突かれる。

 逆に、事実だけを積み上げれば、消されにくい。


 エルシアが声を張った。


「辺境警備隊の立会記録として残します。現在確認できた事実は、以下です」


 彼女は手帳を開く。


「一つ。リーベル村は白露草粉を出荷していない。二つ。現物に正規の三滴印および検査票はない。三つ。現物はリーベル村の白露草と異なる反応を示した。四つ。薬草師見習いネリアの所見では、黒苦葉と思われる別種が混入している」


 周囲が静かになった。


 バーナンが皿を見て、低く言った。


「俺はハルカ村の人間だ。リーベルの身内じゃない。その俺が見ても、こいつは別物だ」


 その一言で、空気が少し変わった。


 外部の者の証言。

 それが必要だった。


 ドランは小袋の紙札を裏返した。


「販売元の印があります」


 俺は近づく。


 紙札の裏に、薄い青色の小さな印が押されていた。


 ロア薬材店。


 聞き覚えのない名前だ。


 だが、ドランは知っているらしく、口元を歪めた。


「王都薬商会の下請けです」


 エルシアの筆が止まった。


「確かですか」


「商人として知っています。ただし、ここで断定するには追加確認が必要です」


「では、そう書きます。販売元印にロア薬材店。王都薬商会との関係については要確認」


 俺はうなずいた。


 断定しない。

 だが、消さない。


 それが記録だ。


「ドランさん、この小袋と粉は保管できますか」


「商人ギルドへ提出する前に、写しの記録を作ります。現物は封印して、辺境警備隊の立会印をもらったほうがいいでしょう」


「封印杭を使うか」


 ガンズが言った。


「木箱に入れて、釘を二本。抜いたら跡が残るように打つ。釘も俺が打つ。同じ形の釘は、まだ村にしかない」


「お願いします」


 ミラが三滴印の箱を開けた。


「これにも押す?」


「押します。ただし、検査済みという意味ではなく、封印記録として」


「封印記録」


 ミラは慎重に言葉を繰り返した。


 俺は木札に書いた。


『偽リーベル産白露草粉と称する小袋。公開検査後、封印保管。三滴印は封印確認用。リーベル産証明ではない』


 ミラはその木札に、三滴印を押した。


 三つの不揃いな滴が、くっきり残る。


 偽物の印とは、やはりまったく違った。


 検査が終わると、集まっていた者たちは少しずつ散っていった。


 だが、ざわめきは消えない。


「リーベルの草じゃなかった」

「偽の印だったらしい」

「毒入りって話は、あの粉のことか」

「じゃあ本物は、まだ畑にあるんだな」


 噂は止まらない。


 ただ、向きが少し変わった。


 危険な白露草の噂ではなく、リーベルの名を盗んだ偽物の噂へ。


 それで十分ではない。

 だが、最初の堰にはなる。


 ネリアは、南畑へ戻る前に俺の前で立ち止まった。


「ありがとうございました」


「礼を言われるほどのことはしていません」


「してくれました」


 彼女は強く言った。


「薬草は、育てるだけでは守れないんですね。名前も、検査も、記録も守らないといけない」


「俺も今日、そう思いました」


 ネリアは少しだけ笑った。


「では、私は本物を守ります。試験区の白露草を、偽物に負けないくらい良い薬草にします」


「お願いします」


 彼女は南畑へ駆けていった。


 エルシアは、手帳の最後に何かを書き込んでいた。


「告発状を作ります」


「告発状?」


「今回の件は、ただの噂ではありません。偽の産地表示、偽印、薬害の疑いがあります。辺境警備隊から商人ギルドと王都へ照会を出します」


「王都へ」


 その言葉に、胸の奥が少し重くなる。


 王都。

 王立錬金術院。

 バルド院長。

 薬品庫の記録。

 消された報告書。


 俺が逃げてきた場所ではない。

 追放された場所だ。


 だが、リーベルの名前を汚されたなら、黙っているわけにはいかない。


「必要な記録は写します」


「助かります」


 ドランも荷馬車のそばで封書を書いていた。


「商人ギルド南西支部にも送ります。今日の公開検査の結果と、ロア薬材店の印の確認。これで、少なくとも南西では偽物を止められるはずです」


「王都薬商会はどう動きますか」


「面白くは思わないでしょうね」


 ドランは苦い顔で笑った。


「リーベル村は、まだ何も大きく売っていません。ですが、信用を守るために公開検査をして、偽造を潰した。これは商人から見ると厄介です」


「厄介?」


「騙しにくい相手、ということです」


 ガンズが笑った。


「いいじゃねえか。騙しにくい村」


「商売相手としては良い村です。敵に回すと面倒な村です」


 ドランの言葉に、ミラが胸を張った。


「面倒な村でいい」


「たぶん、そういう村のほうが長く残ります」


 俺は中央井戸を見た。


 ぽちゃん。

 ぽちゃん。


 水音は変わらない。


 今日、俺たちが直したのは井戸ではない。

 畑でもない。

 水路でもない。


 リーベルの名前についた、最初の傷だ。


 完全に消えたわけではない。

 だが、傷口を広げる前に押さえることはできた。


 俺は記録帳を開く。


『公開検査実施。リーベル村より白露草粉の出荷記録なし。偽三滴印を確認。偽物粉末はリーベル白露草と異なる水反応を示す。黒苦葉と思われる別種混入。販売元印、ロア薬材店。王都薬商会との関係、要確認。現物封印保管。告発状作成予定』


 書き終えたところで、視界の端に細い赤線が見えた。


 井戸ではない。

 畑でもない。


 ドランが持ってきた商人ギルド宛の別便封筒、その封蝋の端だった。


 俺は目を細める。


「ドランさん。その封筒、いつ届きましたか」


「今朝、小袋と一緒に」


「封蝋を開ける前に、見せてください」


 ドランはすぐに封筒を差し出した。


 赤線は封蝋ではなく、紙の折り目に走っている。

 誰かが一度開け、また閉じた跡だ。


「……これ、途中で開けられています」


 ドランの顔から表情が消えた。


「確かですか」


「紙の繊維がずれています。封蝋は新しく見えますが、折り目が二重になっている」


 エルシアが封筒を受け取り、慎重に見た。


「封書の内容を読まれた可能性がある、ということですね」


「はい」


 つまり、南西支部からリーベル村へ偽物の現物が送られたことを、途中で誰かが知った。


 偶然ではない。


 リーベルの名前を盗んだ者は、偽物を出して終わりではない。

 こちらの反応も見ている。


 中央井戸の水音が、急に遠く聞こえた。


 ぽちゃん。

 ぽちゃん。


 エルシアは封筒を閉じ、低い声で言った。


「ルカさん。告発状は急ぎます。ですが、それとは別に、村の物資管理も見直しましょう」


「物資管理?」


「偽造に失敗した相手は、次に取引を止めに来るかもしれません。薬草、検査票、規格部品。どれかを作れなくする形で」


 ガンズが舌打ちした。


「鉄材を絞られると、木樋の留め金が打てねえぞ」


 その言葉で、次に直すべき赤線が見えた気がした。


 リーベル一番枠。

 封印杭。

 仮水路の留め金。

 検査票の保管箱。


 村を守るために必要なものは、少しずつ鉄に頼り始めている。


 もし王都側がそこを止めれば、村の修正は止まる。


 俺は記録帳に、もう一行を書き足した。


『鉄材在庫、確認。村内で代替製造可能か調査』


 噂は、公開検査で潰せた。


 だが、赤線は消えたわけではない。

 形を変えて、次の場所へ伸びている。


 俺は中央井戸の水音を聞いた。


 ぽちゃん。

 ぽちゃん。


 その音を止めないために、今度は水でも薬草でもなく、鉄を見なければならない。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

第17話では、リーベル産を名乗る偽物を公開検査で否定し、白露草と三滴印の信用を守る回になりました。

次回、第18話「鉄が来ないなら、古い炉を直せばいい」。偽造騒動の次は、村の修復に必要な鉄材と部品の問題が表に出ます。

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