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12/30

水路を直すには、村の順番を決めなければならない

第12話です。

水を求める人々が集まり始めたリーベルで、ルカは「誰に、どの順番で水を使わせるか」を決めることになります。

「水はあります。ですが、樽二つ分は出せません」


 俺がそう言った瞬間、バーナンと名乗った男の顔が険しくなった。


 南西のハルカ村、寄合代表。

 背後には男たちが四人。荷車には空の樽が二つ。

 彼らの服は土で汚れ、靴の先は乾いて白くなっている。


 水に困っているのは、嘘ではない。


 だが、だからといって、今の中央井戸から樽二つ分を出せるわけでもなかった。


「出せない、だと?」


 バーナンは低い声で言った。


「水があるのだろう。井戸も鳴っている。こっちは家畜も畑も限界だ。少しぐらい分けてくれてもいいではないか」


「少しではありません」


 俺は荷車の樽を見た。


 木樽は古いが、容量は大きい。

 ひとつ満たすだけでも、今の中央井戸には重い。

 二つとなれば、無理に水を引き上げることになる。


「今の井戸は応急復旧中です。飲み水を少量ずつ出すことはできます。けれど、大量に汲めば制御陣に負荷が戻ります」


「制御陣だの負荷だの、難しいことを言うな」


 バーナンの後ろにいた若い男が苛立ったように言った。


「こっちは水が欲しいだけだ」


 その言葉に、俺は一瞬だけ黙った。


 水が欲しいだけ。


 たしかに、そうだ。

 喉が渇いている人間に、魔力流路や中央制御環の説明をしても意味は薄い。

 だが、説明しなければ、井戸を壊す。


 王都でも、似たようなことが何度もあった。


 今すぐ炉を回せ。

 今すぐ薬液を出せ。

 今すぐ納品しろ。


 俺が危険を説明すると、相手は決まって言った。


 難しいことを言うな、と。


 そして、事故が起きた。


「水は水です」


 俺は言った。


「けれど、井戸はただの穴ではありません。井戸を壊せば、今日の水だけでなく、明日の水も失います」


「なら、こちらは見殺しか」


 バーナンの声が鋭くなった。


 ミラが俺の袖を強く握った。

 ネリアは南畑のほうから戻ってきたところで、顔をこわばらせている。

 ガイ老人は家の戸口に立ち、黙って井戸を見ていた。


 エルシアが一歩前に出た。


「バーナン殿。飲用分は出します。ただし、樽への大量取水は許可できません」


「騎士様までそう言うのか」


「私は井戸の専門家ではありません。ですが、この村の水源管理はルカさんに一任されています」


「追放された錬金術院の男にか?」


 その言葉で、空気が少し硬くなった。


 王都からの使者セドリックが残した言葉が、まだ村に尾を引いている。

 俺が王立錬金術院を追放された人間だということは、もう隠しようがない。


 バーナンがそれを知っているなら、昼に来た老人か、道中で出会った誰かから聞いたのだろう。


「はい」


 俺は答えた。


「追放された男です」


 バーナンが少し目を細める。


「それでも、この井戸を見ているのは俺です。今、樽二つ分の水を出せば、井戸の底にある流れが傷みます。そうなれば、リーベルだけではなく、あなたの村にも水を分ける道がなくなる」


「そんなことが、どうしてわかる」


「見えるからです」


 若い男が鼻で笑いかけた。

 だが、その笑いは最後まで続かなかった。


 ガイ老人が杖を鳴らしたからだ。


「この男の言うことは聞け」


 バーナンが眉を寄せた。


「あなたは?」


「ガイ。旧リーベルの井戸番だ」


「井戸番……」


「水を欲しがる者は、井戸の声を聞かん。桶の中身しか見ん。だが、井戸番は井戸が壊れる前の音を聞く」


 ガイ老人は中央井戸を見た。


「今の井戸は、まだ寝起きの病人みたいなものだ。歩けるようになったからといって、荷車を引かせる馬鹿はいない」


 バーナンは黙った。


 わかりやすい例えだった。

 俺の説明より、ずっといい。


 ミラが小声で言う。


「おじいちゃん、井戸のお医者さんみたい」


「昔からそうだったんだろう」


 俺も小声で返した。


 バーナンは樽を見た。

 それから、中央井戸を見た。


「では、どうしろと言う。ハルカ村にも子どもがいる。家畜もいる。畑が枯れれば冬を越せん」


 その問いは正しい。


 だからこそ、簡単に答えられなかった。


 飲み水だけなら、少量ずつ分けることはできる。

 だが、家畜と畑まで含めれば、中央井戸だけでは足りない。

 南畑の白露草も、北森の結界柱も、まだ水を必要としている。


 誰に、どれだけ、どの順番で水を使わせるか。


 それを決めなければならない。


「バーナンさん」


「何だ」


「今すぐ樽二つ分は出せません。ただし、今日中に仮水路を一本作ります」


「仮水路?」


「中央井戸の水を、井戸のすぐそばで汲ませないための水路です。井戸から少し離れた場所に受け場を作る。そこで量を測って分けます」


 エルシアが俺を見た。


「水場を分けるのですね」


「はい。井戸の縁に人が集まると、土が崩れます。捨て水も戻る。汚れた足で近づけば水質も落ちる。だから、井戸そのものは管理者だけが扱う。取水は別の場所で行う」


「それでハルカ村にも水を渡せるのか」


 バーナンが尋ねる。


「飲用分だけです。家畜用と畑用は、今は無理です」


「飲用分とは、どれだけだ」


「今日渡せるのは、小瓶十本分までです」


「少なすぎる」


「今の井戸から安全に出せる上限です」


 バーナンの後ろで、若い男が舌打ちした。


「樽を持ってきた意味がない」


「樽は水を運ぶために使えます。ただし、満たすのではなく、小瓶をまとめて入れるために使ってください」


「馬鹿にしているのか」


「していません」


 俺は中央井戸の水音を聞いた。


 ぽちゃん。

 ぽちゃん。


 間隔は安定している。

 だが、さっきよりわずかに重い。


 人が増えたせいで、井戸そのものが緊張しているわけではない。

 けれど俺には、赤線が濃くなったように見えた。


 焦ってはいけない。


「今、樽を満たせば、一日だけは助かるかもしれません」


 俺は言った。


「でも、明日からこの井戸はまた止まるかもしれない。そうなれば、リーベルもハルカ村も終わります」


 バーナンの目が揺れた。


「あなたの村のためにも、今日の樽二つは断ります」


 少しの沈黙が落ちた。


 エルシアは何も言わなかった。

 ガイ老人も黙っている。

 ミラは俺の袖を握ったまま、中央井戸を見ていた。


 やがて、バーナンが深く息を吐いた。


「仮水路を作れば、小瓶十本は出せるのだな」


「はい。ただし、水路作りに人手が必要です」


「……なるほど」


 バーナンは苦く笑った。


「水が欲しければ、働けということか」


「違います」


 俺は首を振った。


「水を長く使いたいなら、井戸を守る作業に加わってください、ということです」


 バーナンはしばらく俺を見ていた。

 それから、後ろの男たちへ振り返った。


「荷車を置け。樽も下ろせ」


「バーナンさん」


「文句を言って水が出るなら、とっくにうちの井戸は澄んでいる」


 若い男は不満そうだったが、荷車から樽を下ろした。


 これで、少なくとも争いにはならない。


 だが、ここからが本当の問題だった。


 水路を作るには、まず場所を決めなければならない。


 中央井戸からどちらへ流すか。

 どこに受け場を作るか。

 飲み水と洗い水をどう分けるか。

 南畑への流れをどこで止めるか。

 北森側の結界柱に必要な湿りをどう保つか。


 俺は地図を広げた。


 王都を出る時に渡された古い地図だ。

 そこに、俺の記録帳から写した線を書き足していく。


 中央井戸。

 北森井戸。

 南畑井戸。

 南畑の試験区。

 北森の結界柱。

 村の入口。

 ミラとガイ老人の家。

 ロウム一家の仮住まい。


「水路は南へ流すのか」


 バーナンが地図を覗き込んだ。


「南畑へ水を流すなら、途中で取水できるだろう」


「今は南畑を優先しません」


 ネリアが驚いた顔をした。


「白露草は?」


「最低限の湿りは残します。けれど、畑全体には流しません」


「どうしてですか」


「人が飲む水より先にはできない」


 ネリアは唇を引き結んだ。

 薬草師見習いとしては、白露草を守りたいのだろう。

 俺も守りたい。


 だが、ここで畑を優先すれば、村は持たない。


「順番を決めます」


 俺は地図の余白に数字を書いた。


「一番は飲み水。リーベル村にいる人、来訪者、病人、子ども。ここは最優先です」


 ミラが真剣な顔で数字を見ている。


「二番は、煮炊きと最低限の洗浄。ただし、井戸のそばではしない。受け場で量を測ります」


 エルシアが手帳に写し始めた。


「三番は、北森の結界柱です。湿りが切れると、また魔物を呼ぶ波長に傾く可能性があります」


「魔物を呼ぶ水路なんてあるのですか」


 バーナンの後ろの若い男が顔をしかめた。


「水路ではなく、結界柱です。詳しく説明すると長くなりますが、北森側の結界はまだ応急です」


 エルシアが補足した。


「この村は昨夜、灰牙狼の群れを結界で退けています。北森側を放置すれば、ハルカ村へ向かう道も危険になります」


 バーナンの表情が変わった。


「灰牙狼を?」


「はい」


「それを先に言え」


「先に言う時間がありませんでした」


 エルシアは淡々としていた。


 俺は数字を書き続ける。


「四番が南畑の試験区。白露草を枯らさない最低量だけ。五番が家畜。六番が畑全体。七番が樽での搬出」


「樽が最後か」


 バーナンが渋い顔をした。


「最後です」


 俺はうなずいた。


「外へ運ぶ水は、井戸が安定してからです。ただし、病人や子ども用の小瓶は例外にします」


 バーナンは地図を見下ろした。


「厳しいな」


「井戸を枯らすよりはましです」


 ガイ老人が静かに笑った。


「それが水番の順番だ」


「水番の順番?」


 ミラが聞き返す。


「人、火、守り、畑、獣、外。昔の水番はそう覚えた」


「人、火、守り、畑、獣、外……」


 ミラが指を折って数える。


 俺はその言葉を記録帳に書いた。


 人。飲み水。

 火。煮炊きと洗浄。

 守り。結界柱。

 畑。薬草と作物。

 獣。家畜。

 外。搬出。


 古い言い回しだが、合理的だった。


 王都の規格表より、よほどわかりやすい。


「では、仮水路を作りましょう」


 エルシアが言った。


「どこを掘りますか」


 俺は中央井戸の東側を見た。


 そこには、雑草に隠れた浅い窪みがある。

 最初はただの雨水の流れかと思っていた。

 だが、昨日から何度か見るうちに、地面の下に薄い白線が見えていた。


 白線。

 最適化の余地。


「東へ流します」


「南ではなく?」


「はい。南へ直接流すと、南畑に負荷がかかる。北へ流すと結界柱に影響します。東には古い受け場があった可能性があります」


 ガイ老人が目を細めた。


「そういえば、昔は東の空き地に石の桶があった。子どもが水遊びをして叱られた場所だ」


「石の桶?」


「分水石だ。中央井戸から出した水を一度受けて、そこから人用と畑用に分けた。だが、水が枯れてから土をかぶった」


 やはりあった。


「そこを掘ります」


 バーナンが男たちに顎をしゃくった。


「聞いたな。東だ」


 男たちは鍬を持っていなかったが、荷車に積んでいた木べらと短い鋤を使い、土を掘り始めた。

 ロウムも足を引きずりながら手伝おうとした。


「無理をしないでください」


「水をもらって寝ているだけでは、落ち着かない」


「では、土を運ぶほうを。梁の修理は後です」


「わかりました」


 ネリアは南畑から布を持ってきた。

 ミラは小さな板に水の順番を書いている。


『一 ひとのみず』

『二 ひとをいかす火のみず』

『三 村をまもるみず』

『四 はたけのみず』

『五 けもののみず』

『六 そとのみず』


 字はまだ曲がっている。

 だが、さっきより強い字だった。


 俺は東の空き地に膝をつき、土を払った。


 指先に硬いものが触れる。


 石だ。


 表面の土を落とすと、浅い皿のような石が現れた。

 中心に丸い窪みがあり、そこから細い溝が三本伸びている。


 中央、南、北。


 さらに、小さな逃がし溝が東へ一本。


「分水石です」


 俺は言った。


 ガイ老人が杖をついて近づく。


「懐かしいな。まだ残っていたか」


 分水石には赤線が走っていた。

 大きな割れではない。

 溝に詰まった土と、石の角度のずれだ。


 青線は、中央の窪みから東の逃がし溝へ向かっている。


「まず、東の逃がし溝を使います」


「南と北は?」


 ネリアが尋ねる。


「まだ開けません。中央井戸が安定するまで、南と北へ直接流すのは危険です」


「白露草は」


「今朝、根元に残した湿りで今日一日は持ちます。夜に少量だけ手で与えます」


 ネリアは不満を飲み込んだ顔でうなずいた。


「わかりました。畑より人、ですね」


「はい」


 俺は小さな鑿を取り出した。


 分水石の溝に固まった土を削る。

 力を入れすぎると石を割る。

 だが、弱すぎれば詰まりは取れない。


 赤線の端に鑿を当てる。

 白い結晶が薄く混じっている。


 井戸の内壁と同じだ。


 ここにも、水脈の詰まりが残っている。


「エルシアさん。井戸から水を汲むのは、俺が合図してからにしてください」


「了解しました」


「ミラ。受け場の札を」


「はい、先生」


「先生ではない」


「じゃあ、井戸のお医者さん」


「それも違う」


 周囲が少しだけ笑った。


 笑いがある。

 それだけで、さっきまで張り詰めていた空気が少し変わった。


 俺は鑿を動かした。


 かり。


 土が剥がれる。


 かり。


 白い結晶の端が浮く。


 ぱき。


 小さな音を立てて、溝の詰まりが外れた。


 分水石の表面に、淡い青い線が走った。


 俺以外には見えないはずだ。

 だが、ガイ老人だけは何かを感じたように息を呑んだ。


「鳴ったな」


「聞こえましたか」


「石の音だ。昔の音に近い」


 俺はうなずき、中央井戸を見た。


「エルシアさん。一回目を捨てて、二回目を桶半分だけ」


 エルシアが井戸から水を汲む。

 一回目は捨てる。

 二回目を布で濾し、桶半分だけ分水石の中央へ注いだ。


 水は石の窪みに溜まり、少し揺れた。


 それから、東の逃がし溝へ細く流れた。


 ちょろ、という音がした。


 水路と呼ぶには、あまりにも細い。

 けれど、井戸の縁ではなく、離れた受け場へ水が流れた。


 ミラが両手を握った。


「流れた」


「まだ試験です」


「でも、流れた」


「はい」


 俺は認めた。


 東の受け場へ流れた水は、浅い穴に溜まった。

 そこへ小瓶を置けば、直接井戸へ近づかずに水を分けられる。


 バーナンがその水を見た。


「これで、小瓶十本か」


「今日の上限です」


「明日は?」


「井戸の音を見てから決めます」


「音を見るのか」


「聞いて、見ます」


 バーナンは変な顔をしたが、笑いはしなかった。


「わかった。小瓶十本でいい。だが、明日また来る」


「明日も同じとは限りません」


「それでも来る。こちらも人を出す。水路を掘れば水が長く使えるなら、働く者はいる」


 それは、悪い話ではなかった。


「ただし、取水の順番は守ってください」


「人、火、守り、畑、獣、外、だったな」


 ガイ老人がうなずいた。


「覚えがいい」


「水をもらう側だからな」


 バーナンは空の樽を叩いた。


「今日は小瓶を入れて帰る。樽は明日以降のために置いていく。満たす日が来たら、返してもらう」


「樽を置いていくのですか」


「荷車で持ち帰っても空だ。邪魔になる。ここで水場の目印にでも使え」


 エルシアが俺を見た。


「受け場の境界標に使えますね」


「はい。水場と通路を分けられます」


 俺は記録帳に書き込んだ。


『東分水石を発見。中央井戸からの仮取水路として使用可能。南北流路は未開放。東逃がし溝のみ試験通水。取水順を設定。人、火、守り、畑、獣、外』


 最後に、もう一行足す。


『水路を直すには、水量ではなく順番を先に決める必要あり』


 書き終えた時、中央井戸の音がした。


 ぽちゃん。

 ぽちゃん。


 さっきより、少しだけ軽い。


 井戸の周りから人が離れ、分水石へ水を移したことで、負荷が下がったのかもしれない。

 少なくとも、赤線は濃くなっていない。


 成功だ。


 ただし、小さな成功だ。


 樽二つは満たせなかった。

 ハルカ村の畑も家畜も救えていない。

 南畑の白露草も、北森の結界柱も、まだ応急状態のままだ。


 だが、今日決めた順番は、明日以降の水を守る。


 バーナンたちは小瓶十本を布で包み、樽の中に並べた。

 空の樽は一つ、村に置いていくことになった。

 もう一つは荷車に戻す。


 帰り際、バーナンが俺に言った。


「追放された男だと聞いていた」


「事実です」


「王都は見る目がないな」


 俺はすぐには答えられなかった。


 その言葉は、褒め言葉なのだろう。

 だが、まだ素直には受け取れない。


「井戸を見ているだけです」


「それができる者が少ない」


 バーナンはそう言って、荷車を押した。


 ハルカ村の男たちが南の道へ消えると、リーベル村には夕方の風が戻った。


 ミラが分水石の横に立てた札を見上げている。


『水のじゅんばんをまもる』


 その下に、小さく六つの言葉。


 ひと。

 火。

 まもり。

 はたけ。

 けもの。

 そと。


「お兄さん」


「何だ」


「これ、村の決まり?」


「仮の決まりだ」


「仮って、あとで変わる?」


「井戸がもっと良くなれば、変わる。人が増えれば、また変える。守るために変える」


 ミラはうなずいた。


「じゃあ、書き直せるように、裏は空けておく」


「それはいい判断だ」


 ミラは得意そうに笑った。


 その横で、エルシアが手帳を閉じた。


「ルカさん。今日の記録は、巡回報告にも写します」


「取水順もですか」


「はい。再開拓準備村として、最初の水管理規則になります」


 水管理規則。


 王都の書類で見れば、小さな項目にすぎないだろう。

 だが、この村では命を分ける順番だ。


 俺は中央井戸を見た。


 ぽちゃん。

 ぽちゃん。


 そして、東の分水石から細く流れる水を見た。


 井戸の水は、ようやく村の中を流れ始めた。

 ただし、好き勝手にではない。


 順番を持って。

 記録を持って。

 守る者を持って。


 日が沈む直前、ガイ老人が分水石を見て言った。


「これで水路は生き返り始めた。だが、石だけでは持たんぞ」


「わかっています」


 分水石の東溝には、まだ細い赤線が残っている。

 仮水路としては使える。

 だが、村の人数が増えれば、土の水路ではすぐに崩れる。


 水路管が必要だ。

 同じ形で交換できる部品が必要だ。

 結界柱にも、南畑にも、いずれ同じことが起きる。


 直すだけでは足りない。

 直し続けられる形にしなければならない。


 俺は記録帳の最後に、次の項目を書いた。


『水路部品の規格化を検討。木、石、鉄のいずれか。村内に加工可能な職人が必要』


 書き終えた時、中央井戸の底で青い光が一度だけ揺れた。


 まるで、新しい順番を認めるように。


 リーベル村に、水路が戻った。


 まだ細く、仮の流れでしかない。

 それでもその流れは、廃村だった場所を、少しだけ村に近づけていた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

第12話では、リーベル村が初めて「水の順番」を決めました。井戸を直すだけでは村は守れず、使い方まで整える必要がある、という回です。

次回、第13話「鍛冶屋ガンズと規格部品」。仮水路を維持するため、ルカは同じ形で交換できる部品を作ろうとします。

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