旧リーベル村、再開拓村として認められる
第10話です。
王都からの干渉を受け、ルカたちは旧リーベル村をただの放棄村として扱わせないために動き始めます。
セドリック・ロウの馬が村の入口から消えたあとも、旧リーベル村にはしばらく誰の声もなかった。
中央井戸の水音だけが、壊れた家々の間に落ちている。
ぽちゃん。
ぽちゃん。
その音は、昨日より少しだけ強い。
だが、安心できるほど安定しているわけではない。
井戸の奥には、まだ赤線が残っている。
南畑の白露草は芽吹いたばかりだ。
北森の結界柱は、封印紐で応急的に押さえているだけだ。
王都の使者を追い返したからといって、何かが解決したわけではなかった。
「ルカさん」
エルシアが、井戸の縁から少し離れた場所で手帳を閉じた。
「今日中に、この村の現況記録をまとめます」
「現況記録、ですか」
「はい。旧リーベル村を、ただの放棄村として扱わせないための書類です」
放棄村。
セドリックが言った言葉が、まだ耳の奥に残っている。
王都の台帳上では、旧リーベル村は十年前に水源を失い、住民に捨てられた村だ。
ならば、水源も薬草畑も古い設備も、所有者不明の放棄資産として扱われる可能性がある。
俺には、井戸の詰まりは見える。
結界柱の傾きも見える。
薬草畑の魔力流路のズレも見える。
だが、台帳の上に引かれた線は見えない。
見えないものは、俺一人では直せない。
「何が必要ですか」
「居住者の証言。水源の存在。復旧作業の記録。防衛設備の状態。薬草畑の有用性。それから、現地で継続して管理できる者がいるという証明です」
「管理できる者」
エルシアの視線が、俺に向いた。
「あなたです」
「俺は、王立錬金術院から追放された開拓補助員です」
「だからこそ、です。あなたは王都に戻らず、現地の水源管理を継続すると明言しました。中央井戸、南畑、北森境界。どれも、あなたの記録がなければ現状を説明できません」
「俺の記録を、公式書類に使うんですか」
「使います。そうしなければ、王都の人間が別の記録を作ります」
その言葉に、背筋が少し冷えた。
記録を作る。
記録を消す。
記録を持ち去る。
王都で何度も見たことだ。
第七循環輪の警告報告書も、提出印を消された。
ガイ老人の井戸番記録も、十年前に王都の調査員が持ち去ったまま戻っていない。
記録がなければ、なかったことにされる。
なら、今度は残すしかない。
「わかりました」
俺は記録帳を開いた。
「中央井戸から始めます。水量はまだ少ないですが、飲用可能な範囲です。勝手な取水は禁止。白い結晶の剥離箇所は三箇所。完全復旧には、内壁の制御陣を傷つけずに詰まりを除く必要があります」
「ゆっくりで構いません。私が書式に直します」
「では、まず水質から」
俺は井戸から水を汲んだ。
即席の桶は、昨日より少し重く感じる。
水量が増えたのか、桶の布当てが湿って重くなったのか、どちらもあり得る。
桶を井戸の縁に置き、小型魔石灯の光を水面に当てた。
赤線はほとんど見えない。
ただし、底に白い粒がいくつか沈んでいる。
制御陣に付着していた結晶の欠片だ。
「飲めます。ただし、濾したほうがいい。今後三日は、最初に汲んだ水を捨てて、二回目以降を使うべきです」
ミラが隣で真剣にうなずいた。
「最初の水は捨てる。二回目から。勝手に飲まない」
「よく覚えています」
「助手だから」
ミラは胸を張った。
その顔には、最初に会った時の乾いた弱々しさが少しずつ薄れている。
水だけで人はすぐに元気になるわけではない。
けれど、今日も飲める水があるという事実は、それだけで人の背筋を伸ばすらしい。
ガイ老人は、井戸のそばの椅子に腰かけていた。
エルシアが無理に立たせまいとして、壊れた家から椅子を運んだのだ。
「ガイさん。中央井戸の証言をお願いします」
「わしの記憶でいいのか」
「はい。十年前の井戸番記録は持ち去られています。ですが、井戸番本人の証言は残せます」
ガイ老人は、しばらく井戸の底を見つめた。
「中央井戸は、昔から村の命だった。水だけではない。井戸底には青い根のような光があった。あれが消えた時、わしは村長に言った。井戸がおかしい、と」
エルシアが手帳に書きつける。
「それは十年前ですか」
「ああ。光が消えて三日後、水量が落ちた。一月後には北森井戸。半年後には南畑井戸。順番は覚えている」
「王都の調査員にも話したのですね」
「話した。だが、自然に枯れたと書かれた」
「わかりました」
エルシアの筆先が止まった。
その横顔は、いつもより硬い。
騎士として怒っているのか。
辺境の村を軽視された人間として怒っているのか。
その両方かもしれない。
「次は南畑です」
俺たちは南畑へ向かった。
試験区の前には、昨日立てた札がまだ残っている。
『試験区。水やり禁止。採取禁止。ルカ確認前に触らない』
その横で、ネリアがしゃがみ込んでいた。
彼女は白露草の芽を見つめながら、薄い木片に細かく記録をつけている。
「ネリアさん」
「はい。触っていません。水もやっていません。朝露だけです」
「状態は」
「昨日より葉が一枚増えています。葉先の白い露も消えていません。普通の白露草なら、移植後や水脈変化のあとに一度しおれるはずですが、この株は逆に魔力を吸い上げています」
俺は試験区の土に手を近づけた。
赤線はない。
昨日あったねじれは、南畑井戸跡へ向かって細く流れ始めている。
ただし、畑全体ではない。
あくまで、試験区の一列だけだ。
「畑全体を戻したわけではありません。中央井戸からの流れが南畑へ届いた影響で、試験区だけが反応しています。南畑井戸を確認するまでは、拡張は危険です」
「でも、有用な薬草が出たことは事実ですね」
エルシアが確認する。
ネリアは迷いなくうなずいた。
「はい。薬草師見習いとして証言します。白露草は、王都でも高値で扱われます。ただし、この状態で採取すると畑を傷めます。今は保存より観察を優先すべきです」
「記録に入れます」
エルシアが書く。
ネリアは少しだけ不安そうに言った。
「あの、私の証言で足りますか。私はまだ正式な薬草師ではありません」
「足ります」
エルシアが即答した。
「正式な薬草師でなくても、現地で観察している者の記録には意味があります。王都の机で書かれた空白の報告書より、ここで泥を見ているあなたの記録のほうが、今は価値があります」
ネリアは目を瞬かせた。
「……ありがとうございます」
王都では、同じような言葉を聞けなかったのだろう。
俺には、少しだけわかる。
記録は、誰が書いたかで価値が変わると言われる。
だが本当は、何を見て、何を残したかのほうが大事なはずだ。
少なくとも、この村ではそうしたい。
次に、北森境界へ向かった。
三本の結界柱は、朝の光の中で静かに立っていた。
左柱はわずかに傾いたまま。
中央柱には、黒い根を押さえた封印紐が巻かれている。
右柱は比較的安定しているが、地面の下に細い赤線が残っていた。
「ここは防衛設備として書けますか」
エルシアに問われ、俺は少し考えた。
「書けます。ただし、完全な防衛設備ではありません。昨日の灰牙狼は、結界柱の誘引波を止めたことで帰りました。今の状態は、魔物を強く退けるというより、呼び寄せない状態です」
「それでも、村の境界設備として機能している」
「応急的には」
「では、応急稼働中と書きます」
エルシアは、俺の言い方に慣れてきたらしい。
危険を小さく言わず、成果も大きく言いすぎない。
王都では嫌がられた言い方だ。
ここでは、報告の土台になっている。
「ルカさん」
「はい」
「あなたの記録は、少し面倒です」
「よく言われます」
「ですが、嘘が少ない」
その評価は、俺には少し慣れなかった。
「嘘を書かないだけです」
「それが難しい場所もあります」
エルシアは北の森を見た。
「王都のように」
俺は返事をしなかった。
代わりに、結界柱の根元へ手を置いた。
赤線はまだある。
だが、昨日より薄い。
北森井戸へ向かう流路も、かすかに見え始めている。
中央井戸。
南畑。
北森境界。
別々に見えていたものが、少しずつつながっていく。
旧リーベル村は、ただの集落ではなかった。
井戸と畑と結界が、水と魔力を分け合っていた。
それを誰かが止めた。
あるいは、どこかへ引いた。
まだ証拠は足りない。
だが、自然に枯れた村ではないという確信だけは強くなっていた。
昼過ぎ、エルシアは報告書をまとめ終えた。
紙は三枚になった。
一枚目は、居住者と現地状況。
ガイ老人とミラが村に残っていること。
ルカ・オルメインが辺境開拓補助任務地で水源管理を継続していること。
ネリアが薬草師見習いとして南畑を観察していること。
二枚目は、水源と設備。
中央井戸の水量回復。
南畑の白露草。
北森境界の結界柱。
いずれも応急状態で、放置すれば再び失われること。
三枚目は、王立錬金術院からの干渉。
セドリック・ロウが王都出頭と記録帳持参を求めたこと。
命令書に現地引き継ぎも安全確保も記されていなかったこと。
放棄村の管理権確認を示唆したこと。
エルシアはその三枚に署名した。
「辺境警備隊の巡回報告として、北東詰所へ送ります」
「今からですか」
「はい」
「村の見張りは」
「私が行くのではありません」
エルシアが村の入口へ目を向ける。
そこには、彼女の馬がつながれていた。
だが、その横にもう一人、革鎧を着た若い兵が立っている。
いつの間に来たのかと驚いていると、エルシアが言った。
「朝のうちに、巡回路の合図石を使いました。近くの見回りが来ています」
「合図石?」
「辺境警備隊の連絡用です。村から半里ほど南にあります。壊れていなかったので助かりました」
「それも、後で見たほうがよさそうですね」
「あなたは今、見るものを増やさないでください」
「はい」
若い兵は報告書を受け取り、短く敬礼した。
「北東詰所まで、早馬で届けます」
エルシアがうなずく。
「詰所長に伝えてください。旧リーベル村は、放棄村ではありません。水源復旧中の有人村です。王都側からの接収や人員移動がある場合、辺境警備隊の立ち会いを求める、と」
「了解しました」
若い兵は馬に乗り、南の道へ駆けていった。
蹄の音が遠ざかる。
王都の使者が去った時とは、違う音だった。
あの時は、村から何かが奪われそうな音に聞こえた。
今の音は、村の存在を外へ運んでいく音に聞こえた。
報告書を送ったあと、俺たちは村の入口へ向かった。
入口の木札は、半分腐っていた。
刻まれている文字は、かろうじて読める。
『リーベル村』
だが、王都の台帳では、ここに「旧」がつく。
旧リーベル村。
放棄村。
水源枯渇により廃村。
ガイ老人は木札を見上げ、静かに言った。
「昔は、もっと立派な札だった」
「直しますか」
俺が尋ねると、ガイ老人は首を横に振った。
「今は、直すな」
「なぜです」
「古い札は、村がここにあった証だ。腐っていても、捨てるには早い」
俺はうなずいた。
捨てるには早い。
それは、村そのものにも言える言葉だった。
ミラが、古い札の下に小さな板を持ってきた。
どこから見つけたのか、薄い板に炭で文字を書いている。
『水、あります。勝手に飲まないで』
俺は思わず見下ろした。
「これは」
「だめ?」
「いえ。重要です」
「助手だから」
「そうでしたね」
ミラはその板を入口の横に立てかけた。
少し不格好だ。
文字も曲がっている。
だが、たぶん今の村に一番必要な札だった。
ネリアも、南畑から戻ってきて小さな板を差し出した。
『白露草試験区。採取禁止』
「こちらも立てます」
「お願いします」
エルシアはそれを見て、短く息を吐いた。
「村らしくなってきましたね」
「札が増えただけです」
「村は、そういうものです。誰かが何かを守るために、決まりを立てる場所です」
決まり。
記録。
札。
報告書。
王都では、俺を縛るものだった。
ここでは、村を守るものになるのかもしれない。
夕方近くになって、南の道から馬の音が聞こえた。
朝の若い兵が戻ってきた。
馬は汗をかいている。
兵の手には、折り畳まれた文書があった。
エルシアが受け取る。
文書の下には、辺境警備隊北東詰所の封印が押されていた。
エルシアは一度だけ内容を確認し、俺たちへ向き直った。
「北東詰所長の臨時命令です」
ミラが俺の袖を掴んだ。
ガイ老人は椅子から立とうとして、ネリアに止められた。
エルシアは文書を読み上げた。
「旧リーベル村について、居住者、水源、薬草畑、境界設備の存在を確認。正式な代官審査までの間、同地を再開拓準備村として臨時保全対象に指定する。水源、薬草畑、旧式設備について、現地管理者の許可なき接収、破壊、持ち出しを禁ずる」
俺は息を止めた。
再開拓準備村。
完全な認定ではない。
正式な村として復帰したわけでもない。
代官の審査も、追加の調査も必要になる。
だが、放棄村ではなくなった。
少なくとも、今日この時点で、王都の錬金術院が勝手に水源や記録を持ち去ることはできない。
「現地管理者は」
エルシアが続きを読む。
「辺境開拓補助任務者、ルカ・オルメインを暫定水源管理者とする。辺境警備隊エルシア・グランツは、巡回監視を継続すること」
ミラがぱっと俺を見上げた。
「お兄さん、井戸番?」
「暫定です」
「ざんてい?」
「今だけ、という意味です」
ガイ老人が笑った。
「今だけでも十分だ。十年、誰も井戸番を名乗れなかったんだ」
俺は文書を見た。
そこに俺の名前がある。
王都の処分書では、事故の責任者として書かれた名前。
辺境開拓補助任務者として、追放先を示すために書かれた名前。
その同じ名前が、今度は水源管理者として書かれている。
胸の奥に、妙な重さが落ちた。
嬉しい、とは少し違う。
誇らしい、というほど大きくもない。
責任だ。
井戸が鳴っている限り、俺はその音を聞かなければならない。
水が戻った限り、勝手に飲ませてはいけない。
薬草が芽吹いた限り、採り尽くされないようにしなければならない。
結界柱が動いた限り、もう一度魔物を呼ばないようにしなければならない。
「ルカさん」
エルシアが文書を差し出した。
「受けますか」
形式的な問いだったのかもしれない。
だが、俺には必要な問いだった。
王都では、俺の仕事はいつも命じられたものだった。
測れ。
記録しろ。
黙れ。
止めるな。
責任を取れ。
出ていけ。
ここで初めて、受けるかどうかを問われている。
俺は中央井戸を見た。
ぽちゃん。
水音が返ってくる。
南畑の白露草が、夕方の光の中で淡く白く光っている。
北森の結界柱には、封印紐が揺れている。
ミラは俺の袖を掴んでいる。
ガイ老人は、椅子に座ったまま井戸の音を聞いている。
ネリアは薬草の記録板を抱えている。
エルシアは、文書を差し出したまま待っている。
王都へ戻らない理由は、もう言葉にした。
なら、次はここに残る理由を、記録に残すべきだ。
「受けます」
俺は文書を受け取った。
「ただし、現状は応急です。中央井戸の完全復旧、北森井戸の確認、南畑井戸の調査、結界柱の再固定、どれも必要です。俺一人では間に合いません」
「それも書きます」
エルシアが言った。
「再開拓村には、人手が必要ですから」
その言葉に、ネリアが小さく笑った。
「つまり、私はまだ残ってもいいということですね」
「残ってください。白露草は、ネリアさんが見てくれたほうがいい」
「はい」
ミラが手を上げた。
「助手も残る」
「助手は元から住民です」
「じゃあ、一番強い」
ミラが得意そうに言うと、ガイ老人が低く笑った。
「ああ。この村では、住んでいる者が一番強い」
その言葉は、妙にまっすぐ胸に入ってきた。
王都では、肩書きが強かった。
勲章が強かった。
院長印が強かった。
ここでは、井戸の音を聞いている者が強い。
水を待っていた者が強い。
残っていた者が強い。
なら、この村はまだ弱くない。
俺たちは、古い村札の下に新しい板を打ちつけた。
板には、エルシアが丁寧な字で書いた。
『リーベル再開拓準備村』
正式な村名ではない。
まだ仮だ。
だが、王都の台帳にある「放棄村」よりは、ずっと正しい名前だった。
ミラはその板を見上げて、何度も口の中で読んでいた。
「リーベル、さいかいたく、じゅんびむら」
「長いですね」
「うん。でも、旧ってついてない」
俺はその言葉で、初めて気づいた。
旧リーベル村。
ずっとそう呼んでいた。
資料にも、命令書にも、俺の記録帳にもそう書いていた。
だが、ミラにとってここは、最初からリーベル村だった。
旧ではない。
捨てられた場所でもない。
待っていた場所だ。
「これからは、リーベル村と書きます」
俺がそう言うと、ミラは満足そうにうなずいた。
中央井戸の水音がした。
ぽちゃん。
ぽちゃん。
その音は、村の奥まで届いている。
水が戻った。
薬草が芽吹いた。
結界が一晩持った。
商人が価値を認めた。
王都の使者を断った。
そして今日、放棄村だった場所は、再開拓準備村として認められた。
もちろん、問題は増えている。
王都は諦めないだろう。
水源の管理権も、薬草畑の価値も、古い結界柱も、記録帳も、欲しがる者は出てくる。
それでも、今日は一つだけ確かだった。
この村は、もう紙の上でも完全な廃村ではない。
俺は記録帳を開き、今日の最後に書いた。
『旧リーベル村、再開拓準備村として臨時保全指定。暫定水源管理者として、中央井戸、南畑、北森境界の記録を継続する。以後、村名記録はリーベル村とする』
書き終えると、インクが乾くまで待った。
それから、記録帳を閉じる。
王都では、俺の記録は邪魔だった。
ここでは、村がここにある証になる。
そう思った時、遠く離れた王都で、別の記録石が赤く光っていたことを、俺はまだ知らなかった。
王立錬金術院地下。
第一錬金炉管理室。
そこは、王都の浄水結界に魔力を送る中枢設備の一つだった。
分厚い石壁の奥で、巨大な炉心が低く唸り続けている。
壁に並ぶ圧力計のうち、一つが、ゆっくりと下がった。
北東基準流路。
その文字が刻まれた古い計器だった。
「主任、圧が落ちています」
若い技官が声を上げる。
主任技官ヘルムは、台帳から顔を上げた。
「どこの圧だ」
「北東基準流路です。数値が、昨日から少しずつ下がっています」
「許容範囲内だろう」
「いえ、下限を割りました」
その瞬間、管理盤の警告石が赤く光った。
甲高い音が、地下室に響く。
第一錬金炉の低い唸りが、一拍だけ乱れた。
ヘルムの顔色が変わる。
「第一錬金炉、下層循環を確認しろ!」
技官たちが走る。
だが、誰も気づいていなかった。
管理盤の端に、古びた小さな刻印があることに。
その刻印の下に、かすれて読みにくい文字が残っていることに。
リーベル基準井。
その文字の上で、赤い警告石が、もう一度強く光った。
そして、王都の第一錬金炉で、下層循環輪が止まった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
第10話で、リーベル村はひとまず放棄村ではなくなりました。ですが、村に価値が戻ったことで、人も問題も集まり始めます。
次回、第11話「水が戻った村には、人も問題も戻ってくる」。再開拓準備村となったリーベルに、新しい来訪者と新しい課題がやって来ます。




