座布団には金の粒
身をのり出してまんじゅうをつかんだヒコイチを、《元締め》はうれしそうにみて、何度もうなずき、いやいや、とまたうちけした。
「 『石』のはなしを持ってきなさったのは、年寄の小さなお坊様でなくて、身身体が大きくて、ヒコさんよりは上だろうが、まあ、若いお坊様よ」言って、はねた髭の先をつまむ。「ここにあの『石』を、片腕で抱えてきなさった」
「かたうでェ?」
思わず疑うような声になる。
「子どもを抱えるようにしてな。名乗りもせず身なりも怪しげだったが、まあ、話してみたら、こりゃ断れねえ、と。 それで、ひきうけた」
「なんでえ。じゃあ、脅されたのか」
ヒコイチのばかにした言葉に、いやいや、と笑い、「からだがなあ、」とヒコイチの財布に手をのばす。
「 ―― そのお坊様とむかいあったとたん、体がゆうことをきかなくなった。だがな、怖くも嫌でもねえ。逆になんだか、感じたこともねえ澄んだこころもちになってなあ。 最後はこっちが頭をさげて、きっちり『石』をお届けしますと、うけあってた」
うなずきながら財布の中からきらりと光る粒を取り出し、透かし見る。
「 ・・・それって、もしや、その坊さんの声って・・・、頭にゴンと響かなかったか?」
あのときのしびれを思いだし、まんじゅうをほおばるヒコイチは耳をさすった。
「そりゃなかったが、いい声だった」
《元締め》は、つまんだ水晶を自分の懐にしまい込む。「 そんで顔をあげたら、座布団の上にいくつも金の粒が残ってるだけで、お坊様の姿はなかった。戸を開け閉めする音もしなかったんで不思議に思ったが、よくヒコさんから聞く話になんだか似ていたからな、こりゃあまさしく、ヒコさんにやってもらうしかねえだろうと思ってな」
「なんでエそりゃ」
力なく文句を言ってはみたものの、どこかで納得はした。首の裏がおちつかないあの感覚を、思い出す。
「いや、おれもながいこといろんな商売をしてきたが、あんなおひとに会ったのは初めてよ。どうやらヒコさんのおかげでもって、おれの名もこの世じゃねえところにまで、知れ渡ったのかもしれねえなあ」
「冗談じゃねえ。この世で商売するだけで手一杯だぜ。おれア、こんなおかしな仕事二度とひきうけねえからな」
お茶でまんじゅうをながしこんだヒコイチは立ち上がった。
「まあまあ、そんないかりなさんな。こんな水晶、めったにおがめねぇぞ」
《元締め》は水晶をしまった懐をたたきながら、ヒコイチの財布を返す。
「 ――だいたいな、たとえどんなあいてで正体がわからなくとも、金子をくれりゃあ、お客さまにかわりはねえさ」
ヒコイチを見上げる福々しい顔は、めずらしく本当に笑っているようだった。
財布を《元締め》の手から奪い、「六日すぎたら来る」と言い置き出た。『五日』といわれたのをくやしまぎれに『六日』というぐらいでしか、気が晴らせない。
《元締め》のこの家は近くの集落からは離れた山あいにある。家の裏手からすぐに、くぬぎなどがしげった山になるが、家の前はすこしだけひらけていて、すこしだけ陽があたる小さな畑がある。ここでとれた野菜を、村の人たちと別のものに交換し、薬草などの知恵で病人をみてやることもあるようで、集落から孤立せずに、『山のホテエ』さん、などとよばれて親しまれているようだ。あやしい《元締め》の人柄を信用しているのは、ヒコイチだけではないらしい。
空をみあげれば灰をまいたような色だがなんだか暑い。梅雨時らしく肌が湿気るようなこもった暑さなので、元締めがあんなに汗をかいていたのもわかる。
今年の梅雨は、寒かったり暑かったり、おかしなもんだ、と襟をひろげ、思い出したように財布を開き中をみれば、思った通り、元締めに取られたはずの水晶と、いままで受け取ったこともないほどの賃金が入っていた。あの《元締め》は、金をカネに変える独自のツテがあるらしいのをヒコイチは前に世話になったので知っているが、石のことをたのみ、金を置いて行ったというその『坊さん』も、そのことを知っていたのだろうか?
「・・・それにしても、いったいいつ入れやがったんだ?」
元締めが《テヅマ》だというこの早業の仕掛けも、いまだに見破れない。
正体がわからねえっていうことなら、『坊さん』も《元締め》もいっしょか・・・
あきらめたように息をつき、着物の襟をなおして歩き出した。




