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大滝の石と黒猫のはなし  作者: ぽすしち
二十六

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ヒコイチは忘れない


「 そうだ。それで『石』を背負ってもらって、この寺まで来てもらう。そして拙僧とつながってもらうためにお会いしようとしたが・・・、どうにもわしが気張りすぎたらしくてな」


 ジョウカイの太い笑い声でヒコイチの耳がうずき、ヒコイチは気を失ったときのことをおもいだし、恥ずかしくなって耳をかく。


「 ―― まあ、とにもかくにも、《あの方》とヒコイチどののつながりはできたので、わしとのつながりはその水晶にまかせた」


 ヒコイチの手にある水晶を目で指す。

 

「あいまに、母猫をヒコイチどのの長屋近くに住まわせたが、その猫が、長屋に住むチョウスケどのの『気』がひどく臭いと申す。さらには庭木になった女たちにも頼まれたので、すこしばかり厄ばらいに手をかしたのだ。 ああ、それと、あの《キョウタ》がトメヤにいた記憶はもう誰ももっておらぬが、『オオクロ』のことは皆が覚えたままであろう」



「 あの、 その《キョウタ》さんが、・・・まあ、天人さまだかなんなのかは知らねえが、トメヤにいたのはどういうわけで?見つけたのは母猫だとかいってましたが・・・」


 あのときの感触をおもいだしてなんとなく口元に手をやりきくと、それをおもしろそうにみるジョウカイがうなずいた。



「『オオクロ』が逃げぬように、トメヤにおさまることにした。なにしろ、まちなかで初めてわしに会ったとき、あいつめ、毛を逆立ててにげおってな。そのあとは用心してわしの気配をさけておったが、次に長屋の近くで母猫に出会って、《マツキチ》と《黒猫》でつりあいのとれておった『力』がおかしなぐあいになってしまった。 そこで、これいじょう面倒なことにならぬように、天人がそばであの黒猫をみはることにしたのよ。 『トメヤ』の隠居のセイベイは、マツキチにもヒコイチどのにも縁がふかいようなので、あの店を《つなぐ場所》にしたのだが、あの御仁(ごじん)、《キョウタ》の正体に薄々感づいておったようだな」



「 まあ、 あのじいさんならあるかもしれねえ」

 なにしろ、ダイキチの《お屋敷》では、あの蓮池でさまよう煙もみえたほどだ。



「あとは、もういちど、ヒコイチどのにこの寺にきてもらい、おじうえとわしにつながってもらうようにしくんだ。そうして、《カンジュウロウ》である《マツキチ》につながってもらったというわけだ。  ―― おかげで、ついてひとつになったマツキチと黒猫は離れて、ようやく、 ―― それぞれがもどりたいところにもどれた。 これに懲(こ)りて《あの方》も、もう勝手にであるくようなまねをせぬとよいのだがな」


 ジョウカイが後ろにおいた杖に手をのばし、とりあげた。


「 さて、―― ほんとうならば、これまでのこと、この坊主の顔とともに忘れ去るよう『後始末』をつけねばならぬのだが、 ―― なあ、ヒコイチさん、」

 いきなりくだけた呼び方をすると、じゃらりと、懐から水晶の数珠をとりだした。

「 ―― あんたが《乾物屋カンジュウロウ》のことを覚えてるその中に、あのカワキタ屋のことだとか、マツキチのこともいっしょに、いれておいてもらえねえかなあ?」



 『おじ』だという先のジョウカイによく似たそのくだけた口調に、ヒコイチは笑ってしまう。


「あたりめェでしょ。それとね、ジョウカイって名のとんでもねえ二人の坊主のことだって、おれは忘れたりしねえさ」



 すると坊主はひくくうなり、それはちと困る、と数珠を手にまきつけた。

「 わかっておろうが、わしらはヒトの坊主ではないゆえ、 ・・・おじうえにまたおこられるな」

 その様子は、《お師匠》にあこがれる『センネン』のままだった。



 ふいにジョウカイはたちあがり、水晶のそろった粒でできた長い数珠をまいた手を立て、あの、経のようなものをうたいはじめた。



 まだ囲炉裏端にすわったままのヒコイチの体は、なんだか軽くなってゆく。





 あのときのマツキチのように薄くなって、このまま消えてしまうのかもしれない。





  そうしたら、また、カワキタ屋の三人のきょうだいに、会えるだろうか?




 

 そう思ったとたん。










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