つながる
「 ・・・おれの知り合いの男が、勤め先の旦那が鬼にならずにすんだのは、ふいにあらわれた『すごい法力のお坊様』のおかげだって、ありがたがっておりましたよ」
「あれもヒコイチどのとつながるためにしたことだが、庭木のおんな三人に毎晩頼み込まれたのはほんとうだ」
ジョウカイは、いたずらがうまくいった子どものように笑みをうかべた。
その顔をみてヒコイチは懐からそれをとりだす。
「 ―― さっき、・・・マツキチが消えちまったときに、おれの手の中に残ってたもんだ」
つまんでみせた水晶の粒。
「・・・これを、ヨシスケさんから渡されてなかったら、マツキチは・・・、 乾物屋のカンジュウロウは、また、ちがう道をいったんですかねえ」
これがきっかけで、《道》がゆがんだのか?
手のひらでその粒をころがす。
坊主は困ったように湯飲みに口をつけ、うつむくようにこたえた。
「 いや。 ただ、そうさな。 ・・・その粒を、あのときマツキチがもっていなかったのなら、カワキタ屋で兄弟ともに襲われるが、それでもやはり、マツキチだけは腕か目の片方をなくして生き残り・・・、終わりは『乾物屋』のカンジュウロウではなかったかもしれぬが・・・、それでも、マツキチとしてカギフジ屋にもどり、おなじことはおきていただろう」
「 ―― 言い切りますかい?」
くやしくて、粒をにぎりこみ、ふところへおしこんだ。
「ああ。たとえなにがあったとしても、あのときあの納屋にいた黒猫は、マツキチの元にたどりつき、見聞きしたことを伝えた。 ―― これをなにゆえ言い切るかともうせばな、《あの方》が、・・・大滝に住まわる、石が、な」
「はあ?『ありがたい石』のことですかい?」
うむ、と湯飲みを置いた坊主が「わしが気づけていればよかったのだが・・・」と太い腕をくみ、ヒコイチをみた。
「 ―― ・・・いっしょに白猫を追って、さそわれるようあの納屋にむかったときに、手前に、大きな石があったのをおぼえておいでか?」と、目をむけてきた。
「石だあ?そんなもン・・・・・ あ 」
白い猫が 《あぜ道のつきあたりにある大きな石を蹴ってとび》 納屋へと消える様子が突然思い起こされる。
「 あの、白猫がとび蹴った石が、ヒコイチどのにかつぎまわってもらった、『ありがたい石』なのよ。この寺へ《おさめた》ときにきいたと思うが、あの石・・・《あの方》は、普段はとあるところの大滝にすんでいらっしゃるが、見張りの者のすきをみて、ときおり歩きまわれるのだ。 それで、あのときは、あの納屋の近くで休んでおられてな。 そこへおり悪く、あの白猫が通り、縁がつながり、さらには《あの方》が残した『力』を、逃げ延びた黒猫が受け取ってしまった。 ―― ほんとうならば、つながらなかったはずの、マツキチと《しゃべる黒猫》がつながることになり、あのマツキチはしらぬままでおわったはずのことをきき、やらぬはずだった『かたき討ち』をしてしまった。そうなるとさらに、師匠が《先読み》したことの先までつらなることとなってしまってな。こうしてヒコイチどのに、手をかりることとなったのだ。 マツキチ・・・カンジュウロウのことは、さすがに《あの方》も気にされておって、もどすようにと命じてこられた」
「『もどす』? って、のは・・・」
「うむ。まずは《縁をとりもつ者》を探し出し、《あの方》、いや、『石』と《つなげる》ことにした。つまりはヒコイチどの、あんたのことだ」
「お、おれですかい?」




