名を継ぐ
目をとめてくださった方、おつきあいくださっているかた、ありがとうございます!
もう、すぐ、おわりますので。。。。。
二十六、
長い杖は、坊主の後ろによこたわっている。
囲炉裏には鉄瓶がさがり、炭がうっすらと赤い。
庵にはいるまえにのぞいた竹垣のむこうには花はなく枯れた草しかなかったが、水が湧く池のまわりにだけ、生えたばかりのような草がみえた。
もしかしたらここには、これから春がくるのかもしれない。
暗い本堂を出て、ヒコイチが『ありがたい石』を届け、そののちにジョウカイとむかいあったあの庵に移り、ヘビの住職にわたされたのと同じ白磁の器で、鉄瓶の中身を飲めとつがれた。
『ジョウカイ』となのるセンネンも、あのときのジョウカイとおなじように胡坐をあかき、おのれで湯飲みのくちいっぱいまで注いだそれにくちをつける。
「 ―― うむ。やはりヒコイチどのは、ここの水をうまい酒にかえよる」
いっきに湯飲みを干したセンネンは、あのときのジョウカイよりは若そうだ。
『 身体が大きくて、ヒコさんよりはうえだろうが、まあ若いお坊様よ 』
「なるほど。 ―― ってえと、うちの《元締め》に石をもちこんだ《お坊さん》ってのは・・・、」
「拙僧よ。 まずは、《あの方》と、いや、あの『石』とヒコさんとを、つなげねばならなかったのでな」
顔をしかめたヒコイチに、坊主は大きな手をひろげ、「あいや、ともかくさきに謝る」と膝をそろえてすわりなおし、「もうしわけない。こちらで勝手なてはずをととのえた」と頭をさげた。
「 なんでエ、もうあのときには、あんたの思惑にはまってたってわけか・・・。 なら、そっちのいう『てはず』ってのを聞かせてもらおうじゃねえか」
いつものように、《寒気がするふしぎ》にまきこまれたはずなのに、いつもとちがって、ヒコイチはこの場におのれがいるのはあたりまえだと感じている。
むかいの坊主は首をのばしてみあげるヒコイチに困ったように眉をさげてみせた。
「ううむ、 では、 ―― まずは、なぜ拙僧が『師匠』の名を名乗っているかと言うと、『ジョウカイ』を継いだからだ」
「おじうえの名を継いだってことですかい?」
ヒコイチが聞くと、ジョウカイはすこし驚いた顔で、「血縁だとぞんじておられたか?」と足をまたくずす。
「 いや、ジョウカイさま・・・、 先のジョウカイさまに、『後始末』を、みせてもらったんですよ」
納屋に現れた黒い影のようなセンネンを思い出す。
「 ああ・・・、そうか。 ―― あのとき・・・。めずらしくおじうえに、名でよばれたな」
あぐらをかいた坊主は、『あのとき』を思い出すよううすくわらった。
『 ノリヤス、おまえ念をこめて相手を切ったな? 』
「 あのひとは、母方のおじでな。 『ジョウカイ』という坊主を代々ついでおる家なのだ。もちろん、ふつうの坊主ではない」
では、その《坊主》をついだあなた様も?とは、ヒコイチはきかない。
『 きっと名のあるお方にちがいねえと思うんだ。なにしろ、あんなすごい法力をもってるんだし 』
きかずに、 ―― ただ、チョウスケのかんじいった声をおもいだす。




