魂どうし
二十三、
「またきやがった!」
カンジュウロウはとびのくようにヒコイチの後ろにかくれる。
「 あれ? あんたは・・・」
身構えたヒコイチは肩の力をぬいた。
その男の顔は忘れなどしないし、見間違えようもない。
「はい。トメヤのキョウタでございます」
ほほえんでかるく頭をさげるのに、うしろにひっついた年寄りが、うう、と震えるような声をだす。
ヒコイチはまったく寒気を感じていない。
「おい、乾物屋、おめえ猫になってから、キョウタさんには何度も会ってるだろうよ」
トメヤで世話になっているのだから。
「あ、会ってるっていうかよ、その、」
「みつけたから、トメヤにいったのです」
にこりと口にしたキョウタがこわいものでもあるかのように、カンジュウロウは身をすくませる。
「『みつけた』って? ・・・じゃあ、あんた、乾物屋をさがして?」
だから、《こんなところ》に出てきたのか。
「いいえ。正しくいえば、さがしてみつけたのは『母親』ですが」
ミャアウ
返事のような鳴き声がしてキョウタの足元から白い猫が顔をだす。
「あれ、そいつは・・」
長屋に出入りする白猫か、それとも ―― あの、黒猫の母猫か。
白猫を抱き上げたキョウタが、ずい、と一歩出る。ヒコイチの着物をつかむ乾物屋が、ずず、とさがる。
「さあ、マツキチ。 はやくあのこを返しなさい」
やさしいが有無をいわせないキョウタの言葉に、年寄りは「いや、そのなあ、おれもまさかと思ったのよ」などと、いいわけのようなことを口にしはじめる。
「 ―― ほらよ、おれは死んでも地獄にいくしかねえから、どうするかと思ったらな、これがびっくり、地獄は地獄でも、あの、―― カギフジ屋が燃えてる場所にしか、いけねえんだよ。 ずっと、ずうーっと。家が燃えて、みんな逃げている中で、若いおれがなにしてるかを、何度も何度もみることになった。親父と番頭が、どんなふうに死んでいったかを、何度もなあ・・・。 で、ある日な、そこで、『クロ』に会ったのよ。おどろいた。なにしろクロはあんときにはもう、死んでいなかったはずだ。なのに、燃えてる家の中でばったり会ってなあ・・。『おう、ひさしぶりじゃあねえか』なんて、むこうが先に声かけてきたもんで、おれも『よう、どうしてた?』なんてこたえたら、・・・」
「 《魂》どうしがついて一つになって、 現世にもどったのですね?」
キョウタがおおきな息をつき、白猫を足元におろし、腕をくんだ。




