まいにちまいにち
ひきつづき、よろしくない表現多し。。。。。
「 ・・・毎日、親父と番頭の顔をみるたび、おもったよ。 ―― こいつらが、よけいなことをしなきゃあ、兄ちゃんたちは生きていたのに・・・ 」
マツキチの低い声にこたえるよう、抱えた黒猫もミャウウと鳴いた。
ヒコイチの首筋がすこしざわつき、あわてて声をかける。
「だ、 だけど、なあ、その浪人たちは、もうこの世には、」
「 浪人たちがどこにいようが、しったこっちゃねえよ。この世のどこにも、にいちゃんとねえちゃんがいねえってことが、おれには一大事なんだ。 『しょうがねえ』 じゃあ、すまされねえのさ」
微笑んで猫を抱くマツキチの、穏やかといえるほどのその声音に、ヒコイチの肌があわだった。
やわらかなものいいなのに、その奥に溜まった真っ黒な《モノ》が、しみだして、いまにもマツキチをつきやぶりそうだ。
「 だ、めだ・・・ マツキチ・・・」
こわくって、ヒコイチはすぐそこに立つマツキチに、触れられない。
マツキチはまたわらうように口にした。
「 ―― おれア、まいにちまいにち、経をよむように、念じたよ」
猫をなでるマツキチの手に、じんわりとマツキチの中からしみでた《モノ》が、障子紙に薄墨をたらしたようなシミをつくった。
「 まいにちまいにち、まいにちまいにち、まいにち ずっと、 ―― 親父と番頭が、 にいちゃんたちと同じくらい、苦しんで死ぬように、 って、念じ続けたさ」
じわり じわり
微笑むマツキチの口元にも、シミがひろがる。
「 やめろ! そんなことヨシスケさんたちゃ、望んじゃいねえ」
「おれが望んだ。 おれが、ずうっと、 ただ、それだけな」
手と顔にでてきたシミが、どんどんとひろがり、色を濃くしてゆく。
「おい、そんな、そんなこと、 ―― 」
しみがひろがり、どんどんと黒くなってゆく笑い顔を前に、ヒコイチは言葉が続かない。
マツキチはまだ、《わらって》いる。
「『そんなこと』したってしょうがねえって?」
「そ、そうだ。そんなこと《念じ》たって、」
あいての出した言葉にすがろうとしたら、それを待っていたような、くずれるような笑い顔をみせられた。
「 そうなんだよ、ヒコさん、そうだそうだ、そうなんだよ 」
襲われた寒気にからだが震えて声がつまってしまったヒコイチに、うれしそうにうなずきかける《シミにおおわれた男》は、猫をなでてわらいつづけた。
「 そうなんだよ。そう。 ―― なあ、ヒコさん、その通りだ。《念じ》たってしょうがねえさ。 おれも、そこで、―― よオオやく気づいた」
マツキチは笑っている。
だがそれは、カワキタ屋でみたのとは、おなじようでいてまったくちがう手触りがしそうなものだ。
むかいあうその顔は、マツキチの中からにじみでた黒い《モノ》におおいつくされ、もう、人の色をしていない。
うぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ
寒気が背をかけぬけた。
「 ―― おれア、もお、 『念じてる』だけじゃあ、―― まてなくなったさ」
ばしんっ、と、マツキチの顔を突きやぶり、中から、なにか『まっくろなもの』がはじけとんだ音がして、 ヒコイチはこわくなって目をとじてしまった。
耳鳴りのような、耳鳴りではない音がする。
ごおごお、と耳元を風がすぎるように、きいたことがあるような音からききたくもない音までが、まざってゆがんでからまって、それが風になったようにヒコイチのからだにまとわりつき、ほんとうに風のなかにほうりこまれたようなようにからだがこすられて、その風がどんどんと熱いものになってゆき、熱くって痛くって、
―― がまんできずに目をあけた。




