囲炉裏の前で待っていた
ご注意を
! 残虐な描写、言葉、など、よろしくない表現がつづきます !
「 そのヨシ兄たちの思い出ばなしをさ、おっとさんはうれしそうにきいてくれるんだ 」
「きっと、心から感謝してんだろう」
「そうかもしれねえけど・・・。 でもさ、番頭さんは、とても嫌がるんだ」
「 ・・・そりゃ、あれだろ。旦那さんのことを考えて、してほしくねえのさ。 番頭さんってのは・・・、店のことをだいいちに考えてるんだろうから、・・・・・しょうがねえよ」
喉に、なにかがつまるようだったが、どうにかそんなことを口にした。
途端に、にぎやかな町は消え、あたりが黒一色になる。
「 『しょうがねえ』? 」
真っ黒な場所で、立ちどまり、むかいあったマツキチが、ヒコイチをにらむようにみすえる。もう、十代もおわる大人の男の顔をしていた。
「 ―― 『しょうがねえ』ってのは、番頭のイキチさんが、おれをカギフジ屋にもどすため、説得できるまで帰って来るなって親父に店を出されたことか? それとも、イキチさんが、話しをきかねえヨシ兄たちに、渡した金も突き返されて頭にきたんで、宿にいあわせた浪人くずれにカワキタ屋を脅してくれって金で頼んだことか? それとも、その浪人くずれたちが脅し料でわたされた金より、カワキタ屋に渡す金ほしさに、―― 兄ちゃんたちをころしたことか? 」
「 ま、 まつきち・・・」
ヒコイチをにらむマツキチはもう、あのときのヨシスケとかわらないほどの歳になっている。
みゃあ
猫のなきごえがしたと思うと、そのマツキチの足元に、黒い猫が喉を鳴らしてすりよる。
ひょい、とひろいあげられマツキチにかかえられた黒猫は、ヒコイチをみた。
「 あ・・・ 」
・・・かんぶつや、か?いや、すこし小さいか?
『あんたが 《片付ける》 といいだろう』と、ジョウカイに言われた《乾物屋》の黒猫を、けっきょくヒコイチはみつけられなかった。
マツキチが抱いた黒猫は、あのとき納屋で白い母猫といっしょにいた、黒い子猫ということか?
ヒコイチの考えを読んだように、マツキチがゆっくりうなずく。
「 こいつからきいたんだ。 あの納屋にいた、この黒猫から。 ―― こいつのおっかあと兄妹が納屋で眠っていたら、四人組のくさい浪人どもが入ってきて地面にまいた金をかぞえながら、楽しそうにしゃべりだしたって」
『 カギフジ屋の馬鹿な番頭のおかげで、カワキタ屋に渡す金までおれたちのものだ 』『 脅し料より多い金を渡しておいて、これでカワキタ屋をうんといわせろなどと笑わせる 』『 そうよな、素直におれたちがカワキタ屋を脅してから、はいこれがカギフジ屋さんからの金でござい、などと渡すはずなかろう 』『 マツキチとかいうガキだって、あそこにいれば始末したわ 』
「 こいつのおっかあが、そいつらがふりまく血の臭さに怒って鳴いたら、刀をぬいて笑いながらふりまわしてきたってよ。 こいつだけ板の穴から逃げだしたのさ。 そんで、おれが、カギフジ屋にいくあの日の朝によ、もういなくなってたヒコイチさんの代わりに、こいつが囲炉裏の前でおれを待ってたんだ。 黒くてちいさい猫が人の言葉をはなしだしてもおれはたいして驚かなかったよ。それより、こいつが話し終えて、『それでもおまえはカギフジ屋にいくか?』ってきかれたときに、この黒猫はおれのために、言葉を出せるようになったんだっておもった。 だからおれは、こいつに『クロ』と名づけて、いっしょにカギフジ屋にいったんだ」
一匹だけ生き残った黒い子猫といっしょに、ひとり残ったマツキチが。




