クロイコネコハ
二十一、
クロイ コネコ ハ ――
「 ―― あの黒いのは、 おれがつれていった 」
声に振り返ると、そこには、わかれたときより少し大きくなったマツキチがいた。
「 ま、・・・マツキチ・・・」
「よお。ひさしぶりだな。ヒコイチさん」
こえもすこし大人びている。
「お、おう」
気づけば、あの納屋も、ジョウカイたちもなくなって、陽のあるどこかのまち中を、二人で並んで歩いていた。
にぎやかなまちなかを連れ立って歩いているというのに、ヒコイチには足を動かしている感覚はない。にぎやかだというのにあたりの人の声ははっきりときこえず、なんのにおいもせず、あたりのようすをよくみようとしても、にじんだようにぼやけてしまい、なにもはっきりと見えない。
「どうだよ、ヒコイチさん。 ―― みちがえただろう?」
横を歩くマツキチは胸をそらせ、上等な着物の襟を、つい、とつまんでみせた。背丈がヒコイチの肩ほどまで伸びているが、顔はまだこどものものだ。
「なんでエ、着物のことか?まあ。たしかに、似合ってらアな」
マツキチらしいその様子に、ヒコイチは安堵してわらう。
「商売人はまず身なりからだってな。あれから、おっとうの店に入って、いちから商売を覚えたんだ」
そう言いながら横を歩くマツキチが、すうっと、筆ではらったように、 ―― すこし、大きくなる。
「 ・・・親父さんとは、どうだい?」
ヒコイチは立ちどまりたかったが、足の動きがとまらない。このまま並んで歩くしかなさそうだ。
隣の子どもはそんなヒコイチを安心させるように、笑いかけてからこたえる。
「 うん、おっとさんはいい人だな。根はいい人だ。 おれを手放したことを本当に悔いてて、毎日おれをみてうれしそうな顔するよ」
マツキチの声が、がさついて、おとこの声になる。背丈がまたのび、ヒコイチとおなじほどになる。
「 そうかい、よかったな」
「それにおれ、商売にむいてるってさ」
「ああ、ヨシスケさんもそう言ってた」
横にいるマツキチは、もう十代なかばになっている。顔つきは賢く意志の強いのをあらわすようだった。




