納屋に
!! よろしくない表現、残虐な描写があります !!
ご注意ください
「いやしかし、あの商人も大ばかよのお。おれたちにこんな金を預けるなどと」
「こんなうまいはなし、めったにないわ」
「おい、金はきれいに分けるぞ。しかしあの娘、気が強くて最後まで大暴れだったが、おれの番にはもう声もでんようだったな」
「きいたか?あの男の情けない声。ふまれたムシでもださぬ声だわ」
どっと笑いがおこる。
きたない浪人風の男が四人、納屋のなか車座になり、わらいながら金を数えている。
なぜかヒコイチはそこに立って、その様子を眺めていた。
がたん
納屋の戸がはずされたそこに、黒い影のような若者が立つ。
センネンさん・・・
「 これより、 《始末》 をつける 」
黒い道着に、黒い鞘からすらりと刀をぬいたセンネンの声は、低く響き、とてもしずかなものだった。
振り返った浪人たちは子どもが刀を握っているのをみとめ、けげんな顔をみあわせて立ち上がると、わらいながら腰のものに手をあてた。
「なんだあ?刀なぞ持ちよって、このガキ、どこぞの、」言い終わらないうちに、男の首が宙に舞った。
重いものが落ちる音が納屋に響く。
だが、倒れた男の胴体からも首からも、一滴も血がでていない。
「な、 なにかの妖術だあ!」「いや、タヌキかキツネだろ」「げ、幻術だ、こりゃ幻だ!」
残った三人が一斉に刀をぬき、一人が奇声を発しながら上段にかまえたとたん、納屋の中に嵐のような風が巻きあがり、首の落ちた三人が倒れた。
「 ―― おじうえ、おねがいいたします 」
センネンの声にこたえて納屋の戸口に現れたジョウカイは、藍色の着物に黒い袈裟で、片手に水晶の数珠を幾重にも巻きつけていた。その手をさっとあげ、空になにかの字をかくようなしぐさをすると、最後に「 っ!」と言葉ではないなにかを吐きだし手を打った。
納屋の中に倒れていた男たちの骸は消えた。
ジョウカイがセンネンの方をむく。
「 ―― ノリヤス、おまえ、《念》をこめて相手を切ったな?」
「・・・はい・・・」
鞘に納めた刀をぎゅうとにぎりうつむく子どもを困ったように見下ろしたジョウカイが、その頭を軽くたたく。
「これはいい。 おまえの《念》がつよすぎて、これらは冥途にもたどりつけんだろう」
「こいつらの魂が再びこの世に出るなど、おれには許せない」
「わかっているから、口にするな」
ジョウカイが納屋の奥に身をかがめた。
「あ!その猫」
ヒコイチはおもわずさけぶ。
納屋の奥には血まみれの猫の死骸があった。白い母猫と子猫が二匹。
「いいか、ノリヤス。人の《おもい》というのは、ときに、今のおまえのように《念》をうみだす。それがいいものになるか、わるいものになるかは、《その時》になってみねえとわからねえんだ」
ジョウカイは三匹の猫の亡骸をまとめて抱えあげ、そうっとなでた。
猫の毛から血の汚れはなくなり、子猫が白とぶちだとわかる。
「あれ、・・・黒い子猫が・・・いない」
『ノリヤス』とよばれた『センネン』が、ジョウカイの腕にいる子猫をみて、さびしげにつぶやく。
片手をのばして、こどものあたまに手をおいたジョウカイが、しっかりとヒコイチをみながらくちをひらいた。
「 その、 黒い 子猫はな、 ―― 」




