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大滝の石と黒猫のはなし  作者: ぽすしち


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6/11

石をとりにきた男




 三、



 ぼんやりと目をあけたら天井板がみえ、黒ずんだ千社札せんじゃふだのようなものがたくさんはられているのがみえた。



   「ヒコイチどの、おかげんはいかがかな?」


  すぐに年寄りの気遣う声がした。



「はあ・・・」

 のろのろと起き上がると、囲炉裏のそばにすわる老住職が、またあの白磁に水をついで渡してくれた。

「 あのぅ・・・、あっ、石!」

 担いできたかごごとなくなっている。



「おお、無事に《おさめ》られましたぞ」


「は? ―― あ。・・・ 」

 そこでようやく、『ごめん』という男の声と、頭にうけたあのしびれをおもいだす。


「アレの声にやられたのじゃろう。『どうにも嫌われたようだ』と笑っておった」


「いや、嫌いも何も、・・・」

 とりあえず乾いた口をうるおそうとひとくち含んだ水の味に驚き、「酒じゃねえか」と白磁の中身の匂いをかぐ。ところが、酒のにおいなどしない。



「ほお。酒となったか。これまた良縁」

 住職は笑って懐に手をいれると「これを、ヒコイチどのに渡すようにと」折りたたまれた懐紙をわたしてきた。



 はあ、と受け取ってひらいた紙の中に、ころりと丸く、透けた玉が転がる。

 たしか代金はもう、もらってあるのだ。子どもの駄賃とばかりに、洒落しゃれでビードロ玉をおいていったのだろうか。



  いや、それよりも、さっきからずっと気になっていることが・・・。




「ほう、水晶じゃなあ」

 ヒコイチが残した白磁にのこる《酒》となった水をすすりながら、紙の上のきれいな玉をみた住職はわらった。


「『水晶』だって?ビードロじゃねえんですかい? いや、それよりご住職、 ・・・なんで、おれの名をご存じで?」

 名乗った覚えはない。



 またわらったあいては白い器にくちをつけ、「うまい」とうなってから口のまわりを舌でぬぐった。


 その様子をじっとみていたヒコイチは、寒気なんかしていなかったのに気付いてしまった。


 

 ・・・舌が二枚?いや、舌先が割れてるのか・・・?



 べろりとだされた年寄に似合わぬ朱色の舌は、先からきれいに割れていて、ちろちろと震えるように白磁の水をなめだした。

 腰を浮かしかけたヒコイチに、住職が「待ちなされ」と言って器をあおった。


「 いやいや、久しく味わっておらん甘露であった。ヒコイチどのに礼を申すわ。 さて、おまえさまの名をどうして知ったかといえば、あの石をとりにきた男からきいたまで」



 とすると、その『男』は元締めと知り合いということか。


 この仕事をヒコイチに言いわたしたときには、相手のことはまるでわからないなどと言っていたくせに。





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