当たり
荷籠を担いだままのヒコイチは囲炉裏から離れた場所に立ったままだったが、いきなり、首の後ろがいつもの嫌な寒気に襲われる予感がしたかと思うと、ズドン、と骨がしびれるようなそれでいて、痛みではないおかしなものをくらった。からだに力がはいらなくなり、おもわず前にのめって膝をつき、重い荷を負った体がそのまま突っ伏すのを、両手でもって、どうにかこらえる。
「 ―― ほお。これはまた」
ヒコイチの様子を心配するでもない感心したような声をあげた年寄りが「腹から息を抜きなされ」といいながら、鉤から鉄瓶をとりあげる。
ヒコイチが言われた通り腹から息をゆっくりと抜いてみると、しびれがゆっくりとおさまっていった。どうにか身を起こすと、住職が水を満たした白磁の器をさしだした。
「おまえさま、面倒なことに巻き込まれやすいじゃろお?」
水に口をつけようとしたヒコイチは年寄りの楽しげな顔をチラリと見てから、一気にあおった。
「 ―― そうとも言えるし、そうじゃねえ、とも言えますがね。・・・これ、ただの水じゃねえでしょう?ひどく甘い」
「いいや。水じゃ。だた、味は変わる」
「はあ?」
「その荷は?」
そこでようやく背中の籠をおろし、体中のジンジンとしびれた感覚が甘い水によって一気にひいたのを不思議に思いながら、住職に頭をさげて白磁を返した。
「 ・・・ええと、こりゃあ、『ありがたい石』ってやつでして・・」どの寺でも、ここで次にどう言えばいいのかわからなくなる。
ところがそこで、相手が急に身をのり出した。
「おお、そうであったか。では、 ―― ここで、《おさめていただこう》」
「ええっ! そ、そんじゃあ、 ここが・・・」
『当たり』ということか。
驚くヒコイチに笑んだ住職が、ヒコイチの返した器に鉄瓶の水をそそぎ、おのれの喉を潤した。
「うむそうか。もう、そんなになるかの。 それならあと少しばかり、待っていただくかの」
「待つ?」
うむ、とうなずいた年寄りに、いったい何を『待つ』のかときこうとしたところ、今度ははっきりと首の後ろに寒気がはしった。
あのしびれがまた襲うのかと体を硬くしたところに、「 ごめん 」という太い男の声が、耳をしびれさせ、つぎには頭がズドンとしびれ、
―― ヒコイチはそこで、気をうしなった。




