質素な寺
二、
長く急な石段をのぼりきり、二つ目の門もくぐって目にしたのは、古そうな庵で、その奥には意外にも立派な本堂らしきものがある。ただ、そのほかにはなにもない。
こりゃあ、ダメだろなあ
まだ住職にも会っていないのに、背中の籠の位置をととのえ、ヒコイチは思った。こんなうさんくさい石を買おうと思うような坊主が、ここにいるとは思えない。
庵も本堂も古そうで質素だが、手入れがゆきとどいているのがわかる。
本堂はかなり高い基礎の上に建ち、正面に、幅のせまい梯子のような階段だけがついた見たことのない様式だ。
本堂のむこうがわには、竹ではなく杉がうっそりと生えそろっているのがみえた。石段と反対側のむこうの斜面には、墓場があるのかもしれない。
庵の周りはこの季節に伸びるさまざまな草花が競うように生い茂り、にぎやかな気配に満ちている。右手にある竹垣のむこうをのぞくと、そこには見慣れない草花がおなじものごとにわかれて生えていた。
よおく見ようと一歩でると、奥に小さな池があるのに気付く。水は澄み、水面が震えているように見える。水が湧いているのだろう。
すると、なんだか花のようないい匂いがしてきて、ヒコイチはおもいきりそれを吸った。
・・・うまい。
花の匂いはどこかへいってしまったが、吸った空気がからだのすみずみまでしみわたり、それを『うまい』と感じた。まるで、何かの滋養で満たされるようだ。
「おや」
いきなり後ろから声がして、とびあがりそうになった。 あわてて振り返れば、小柄なヒコイチよりもさらにふたまわりほども小柄な年寄がいる。
白いあご髭に墨染めの野良着姿の禿頭で、片腕に何かの草が盛られたザルを抱えている。
「 あ、あの、 ―― こちらのご住職で?」
あわてて身をかがめたヒコイチに、年寄りは、うなずくと空をみあげた。
「 どうやらひとふりきそうですなあ。まあ、とにかく中へ」
庵の開けはなたれた戸をくぐる。
せまい土間からすぐに囲炉裏のある板の間だが、廊下が奥にのびて、障子でしきられた部屋があるようだ。
住職は黒く光るほど手入れのされた板の間に座布団を置いてヒコイチをまねいた。囲炉裏の自在鉤からつるされているのは古そうな鉄瓶で、その囲炉裏のむこうにならぶザルには、かかえていたザルとおなじようになにかの草が干されるように置いてある。
薬草か?
住職は抱えてきたザルをそこへ並べおき、寄ってくる虫をはらうようなしぐさをしてみせた。




