『おまえを守ってくれる』
「 そんな顔すんなよ。うそだよ。そんなふうに思っちゃいねえ。 だけど、あの人も・・・一番目のおっとうも、いま、淋しいんだよ。だれもいなくなっちまってさ。 そんで、ようやくおれのことを思い出したってのが気に食わねえけど、・・・そんでも、おっとうなんだ、って、さっきおもったんだ・・・。『大きくなった』って、おれをみて言ったときの顔。あんなの・・、おれのこと嫌いだったら、あんな顔、しねえかな、って」
「 あ・・・ったりまえだろ。ショウエモンさんはお前がきらいで養子にだしたんじゃねえだろ。そりゃ、後妻さんになにも言えなかったのはよくねえし、おまえの気持ちをかんがえねえのもよくねえが」
「なんだよ、それ以上おれのおっとうの悪口いうなよ」
「ああ、 まあ・・・、そうか。 ――そうだな。おまえの親父さんだ。だいじにな」
ほんらいならば、あの男とずっと親子として同じ場所にいたはずなのだ。
いままで抱えてきたものはお互いにいろいろあるだろうが、《残された者どうし》として、この先おもいあい、うまくやってゆけるかもしれない。
《西堀の隠居》だって、いろいろあったじゃねえか
囲炉裏の火を消そうとしたとき、「そういえば、ヒコイチさんにききたいことがあるんだ」と、マツキチが懐から小さな守り袋をだした。 西堀の隠居が黒猫につけてやった紐のように着物のはぎれで作ったらしいそれに指をつっこんでさぐると、光る小さな粒をつまんでとりだした。
「 ―― このお守り、・・・あの日に兄ちゃんとねえちゃんからもらったんだ。おまえを守ってくれる大事なお守りだから、なくすんじゃねえぞ、って。 袋はおっかぁの・・カワキタ屋のおかみさんの着物でねえちゃんが作ってくれた。・・だからおれだけ、助かったのかもしれねえや・・。 ほら、みてくれよ。すっげえきれいな玉だろう?水晶とかいう石なんだって姉ちゃんがいってた。ヒコイチさんがくれたって兄ちゃんがいってたけどさ、まさかこれって、拾った数珠玉とかじゃねえよなあ?なんでか、この玉みてると、坊主の顔が浮かんでくるんだよ」
坊主のたたりとかいやだぜ、とおどける子どもにヒコイチはうまい笑い顔がつくれない。
「 ・・・そうかい。 ―― そりゃあ、拾ったんじゃなくって、いただいたのよ。祟りはねえさ。そんで、そりゃ・・ その思い浮かぶ『坊主』ってのは、髭面かい?」
「へ? いやあ。なんか・・、おれも不思議なんだけどさ、子どもみたいにつるっとしたきれいな顔で、全然坊主っぽくねえんだ。ねえちゃんがもってた役者絵の顔が思い浮かぶのかなあ・・・」
「 ―― そうかもな。 そりゃ、きっと、まえに、おトヨさんに頼まれておれが買ってきた役者絵かもしれねえな」
なんだそういうことか、とつまらなさそうな顔でマツキチはまた守り袋をしまった。
その懐を、大事そうにたたく。
「 ―― ありがとう、ヒコイチさん。 もう、このカワキタ屋とも、あんたともこれでわかれるけど、おれ、これ大事にするよ」
「ああ・・・。 ―― さあ、もう布団にいきな。おれはこの火を始末して寝るからよ」
子どもの背をみおくり、炭を火箸でくずす手が震える。
マツキチが奥の部屋へひきとったのを感じてからゆっくりと心の中で数をかぞえ、もれでてきたうめき声をどうにかおさえる。
にぎった火箸で力いっぱい刺した炭が割れ跳び、灰が、もう、とまきあがった。
―― たしかに言った。
『あんたたちを守ってくれるとおもう』と。
ジョウカイの法力がなにかしら働いて、守ってくれるのではないかと願いをこめて。
「 ・・・ヨシスケさん、・・・あんたって人は・・・ 」
おもいつきで渡した水晶は、しらないうちにマツキチにわたっていた。
「 ・・・『法力』なんかじゃねえ。 ・・・あんたたちが、マツキチを守ったんだよ・・・。 あんたと、おトヨさんが、 ・・・マツキチを・・・・・ 」
二人の弟をおもう力で。
火の消えた囲炉裏の前で、ヒコイチは声をころして泣いた。




