本心
マツキチを連れて帰ることになったショウエモンは、あらためて、カギフジ屋としてカワキタ屋の不幸に悔やみをのべ、葬儀など寺といろいろととのえてくれたタキチじいさんに頭をさげるとそのままタキチの家に泊まることになり、明日、寺にゆき、カワキタ屋の墓参りをしてから、マツキチもつれてお店に戻ることになった。
マツキチもタキチの家に呼ばれたが、カワキタ屋でヒコイチと最後をすごすと言う子どもの言葉に、何もいえなくなる。
ショウエモンはヒコイチにも丁寧に礼を言い、カワキタ屋の代わりになるようどこかの店を紹介しようとまで申し出てくれた。過去におかした過ちはどうあれ、気質がいい男だ。
おれはまた新しいところへゆきます、とこたえると、路銀の足しに、と包みをわたされる。こんなのもらえねェと断ると、マツキチが横から手をだし、「じゃあおれが、道中団子でも食うからさ」とそのままとりあげる。
すっかりもとのマツキチにもどったような様子にタキチは声をあげて笑い、目をまるくした番頭とは別に、《だんなさま》のほうは、「さすがは商人の子だ」と感心したようにうなずいた。
タキチたちがひきあげ、二人きりになると、ヒコイチはまっさきにきいた。
「おい、マツキチよ、 ―― 本心なのか?」
あの、ショウエモンにむかってした挨拶は。
囲炉裏の火に照らされたマツキチの顔は、ひどく疲れた大人のようだった。
声はださず、こくりとうなずく。
「 もう、・・・にいちゃんもねえちゃんもいないんじゃ、カワキタ屋はやっていけねえし、ここに残った品は、にいちゃんが仕入れたもんだ。最後まで売り切らねえとな」
「そうじゃねえ。 いいか、おまえが《カワキタ屋》の心配をするこたねえんだ。それよりも、ほんとうに《カギフジ屋》で、《一番目の親父》さんと、やっていく気があるのかってことだ。嫌ならタキチさんが面倒をみてくれる」
ショウエモンが来る前までは、そういう話しになっていたのだ。
目が合って、こちらの真剣な顔をすこし見てから、こどもはこたえた。
「なんか・・・、《一番目のおっとう》、思ったより、よさそうな人だったよ。おれはまったく覚えてねえのに、むこうは覚えてるって、へんな感じだなあ」
照れたようにわらうのは、すこし本心がはいっているのかもしれない。
「 ・・・なあ、マツキチ・・・。 こういうときだからって、無理するこたあねえんだ」
無理というよりも、この流れにのまれてしまうのが、マツキチにとっていいのかどうか、ヒコイチにはわからない。
「無理はしてねえよ。 ヒコイチさんこそ、ずっと顔色がよくねえ。甘えて、全部任せちまったもんな」
「ばか。そんなこたどうでもいいんだ。大事なのはこれから先のはなしだろう? ―― おまえ、ほんとうにあのおやじさんとこに行って、店をつぐのか?」
都合のいいように子どもをあちこち放り投げるようなまねをした親のもとにもどって。
「ああ。 だって、おれのこと、ようやく『いる』っていってくれたんだ」
「 ・・・ま つ・・・」




