商人の子
「この辺りの猟師に金をだして、山狩りをするからね。ヨシスケさんたちの仇はきっとうつ」
膝をつきマツキチとむかいあうショウエモンはこぶしをみせるように言い切った。
「 ―― だめだ」
「へ?」
いままで、ぼうっとした顔をしていたマツキチが、いきなりしっかりと言い切り、おとなたちはみんなマツキチをみた。
「 そんなことしたって、ヨシ兄たちはよろこばねえ」
「そ、そうか。うん。そうだな、うん、そうか」
こぶしをといたショウエモンが、何度もうなずく。
「いくよ」
立ち上がったマツキチは『一番目のおっとう』とよんでいた男をみおろし、「ここにのこってる品もすべて引き取ってくれるって言うんなら、カギフジ屋にいく」とうなずいた。
「 そ、 そ、そんなの、そんなの、とうぜんだ。売る物が材木じゃあなくとも、うちで売り切るさ。カワキタ屋さんの最後の商売、この、カギフジ屋ショウエモンがしっかりとやりきろう」あきんどらしく胸をはる。
すると立っていた子どもが今度はさっと膝をあわせて『一番目のおっとう』の前にすわり、手をつくと『カギフジ屋ショウエモン』の顔をみあげた。
「 無作法者でございますが、これからはしっかりと、カギフジの名に恥じないように、精進してまいりたいとおもいます。 商いのてびきのほど、どうぞよろしくお願いもうしあげます 」
手をつき頭をさげる子どもの言葉にあっけにとられたように口をあけたショウエモンは、ゆっくりと番頭をふりかえった。
「イ、 キチ、き、きいたかい?いまの、いまの挨拶を、きいたかい? ほらごらん。カワキタ屋さんのおかげで、この子は、マツキチは、こんなにしっかりとした商人の子どもに育ってるじゃないか!」
歓喜の叫びとともに、父親はようやく子どもを抱きしめた。
タキチじいさんは満足したようにうなずいている。
ヒコイチもその光景にようやく心にあった重いものがひとつとれたような気持ちになったが、すべてはとれない。
「だんなさま。ようございました、ようございました」
抱き合うふたりを見守る番頭は目元をぬぐい喜んでいるようだが、ヒコイチにはなにかがひっかかっている。
どうして、この男は、来てすぐに、二人が死んだわけを、『山賊』や『強盗』だと考えたのだろう。
ジョウカイの《先読み》を知っていたわけでもあるまいに。
『山犬』が原因だとわかったときのつぶやきなどは、安堵の息にしかきこえなかった。
『ほんとうにたちが悪いよ』
『いや、でも、金のことは言ってはおりませんし』
『ほかに理由があるかい?きっといまごろそろばんはじいてまってるさ』
『じゃあ、また行くんですか?』
『はん。わたしらが行っても話しなんてきかない、・・』
あのとき峠ですれちがったときに聞こえた話は、マツキチが考えたように窯焼きの名人タキチのことではなく、手紙を届けたカワキタ屋。つまりは、ヨシスケとおトヨのことだったのかと合点したいま、番頭がぬぐう涙も信用できない。
金をうけとらない二人が、まるで金のつりあげを要求したかのようにはなし、『たちがわるい』などと言っているのだ。
きっと、ヨシスケとトヨが金のことでうなずかないとばかりに主人であるショウエモンに告げ、それをきいたショウエモンもこうなったら直にはなしをつけようと、こちらへ来ていたのだろう。
ふたりがうなずかなければ、すぐに役人もよべるとでも脅すつもりだったのかもしれないが、そんな手をつかわずとも、親代わりだった二人がいなくなり、こうしてマツキチみずからが頭をさげるような場面ができあがってしまった。
・・・そうか・・・
マツキチのことで、カギフジ屋の番頭たちが、カワキタ屋に金を届けることを、賊はどこかできいたのかもしれない。
それを狙われた?
賊はあのときのヒコイチたちのように、道中のどこかで商人ふたりのもらした言葉をきき、あとをつけたのかもしれない。
その『賊』は、もう、ジョウカイとセンネンで、『後始末』をつけたのだろうか・・・。




