おれができるしまつ
「 に、・・にいちゃん? ねえちゃん!どうしたんだよ!」
おろされたマツキチが走って板の間にとびのり、布団ににじりよる。
ヒコイチにもみえた二人の顔には、なんの苦悶も汚れもみえなかった。
「 う そだ・・・ 」
子どもの手がこわごわとヨシスケの顔にふれると、はじかれたように空でいちどとまり、ゆっくりと、また、顔にふれた。
同じように姉の顔にふれ、しずかに泣き出したこどもをみていることができなくて、ヒコイチは外へ出る。
なにも・・・、 できなかったじゃねえか・・・
どうしようもない気持ちで座り込み、聞こえてくる子どもの泣き声に、センネンの泣き顔もかさなってみえてくる。
「 ―― ヒコイチどの、たのみがあるんだが」
いつの間にか後ろにジョウカイが立っていた。
こちらがきく前に、マツキチにはすこし眠ってもらっている、とかなしそうな笑みをうかべる。
「 ・・・あンな、 ・・・・・カラスに言われたから、 ―― あンな早くきれいにできたんですかい?」
じぶんでも思っていなかった、嫌味な言葉がでた。
いいなおそうとしたら、「それもある」と、返される。
「 ―― ただし、あいつらのいう『きよめ』ってのは、まだこれからだがな。 入ってすぐにマツキチがいないのに気付いたから、それならすぐに戻るだろうとおもってな。 とにかく、二人に会えるように《ととのえた》だけよ」
「そうですかい。 それが、あんたのいう、『後の始末』ってやつで?」
またしてもでてしまった嫌味な言いように、相手はわらい、こう言った。
「そりゃア、これからだ。 ―― これから先が『始末』になるのよ 」
怒っているような、歯をむきだしたそのおかしな笑い顔に、ヒコイチの背に寒気がはしり、ジョウカイがゆらいで人ではないものに見えて、息をのむ。
「 おれはこれからセンネンのいるとこにいって、しっかりあとの『始末』をしてこなきゃならねえ。 だから、ここに残る三人のことを、あんたにたのむ」
「・・・ジョウカイさまは、もう、ここに戻るつもりがねえってわけで?」
どうしても、当たるようないいかたになってしまう。
それがわかっているように、ジョウカイはうなずいた。
「もう、・・・戻れねえんだよ。 《先よみ》が起こった後には、もうその人たちとは、かかわれねえ。 だがヒコイチどの、あんたは『人』だから、少しはここにとどまれる。だから少しのあいだ、マツキチのそばにいて、ちゃんとした弔いができるようにいっしょにいてやってくれ」
「 おれに おしつけようってことかい」
にらんでやれば、しっかりと目を合わせてきた。
「ああ、そうだ。 ―― マツキチはな、もう、あんたのことしか覚えちゃいねえよ」
「えっ?そんな・・・、センネンのことは?」
「すべてが終わったら、むかえにくる」
こちらの問いを無視したジョウカイは、やさしくわらうと、ゆらり、とゆれてそのまま消えた。
「 ・・・はっ。 ちくしょう、 ・・・なんだってんだ・・・ 」
泣きすぎた眼がみせたまぼろしのように、あとにはあしあとさえも残っていなかった。
そっと家の中をのぞく。
こどもは、二人の亡骸の間にもぐりこむようにして、体をまるめ、眠っている。
「 ・・・おれができる後の『始末』ってのは・・・、 こんなことしかねえんだな・・・ 」
重い息を吐き、覚悟をきめた。




