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大滝の石と黒猫のはなし  作者: ぽすしち
十八

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おれができるしまつ




 「  に、・・にいちゃん? ねえちゃん!どうしたんだよ!」

 

 おろされたマツキチが走って板の間にとびのり、布団ににじりよる。



 ヒコイチにもみえた二人の顔には、なんの苦悶も汚れもみえなかった。



「 う そだ・・・ 」

 子どもの手がこわごわとヨシスケの顔にふれると、はじかれたように空(くう)でいちどとまり、ゆっくりと、また、顔にふれた。


 同じように姉の顔にふれ、しずかに泣き出したこどもをみていることができなくて、ヒコイチは外へ出る。



  なにも・・・、 できなかったじゃねえか・・・



 どうしようもない気持ちで座り込み、聞こえてくる子どもの泣き声に、センネンの泣き顔もかさなってみえてくる。




「 ―― ヒコイチどの、たのみがあるんだが」


 いつの間にか後ろにジョウカイが立っていた。

 こちらがきく前に、マツキチにはすこし眠ってもらっている、とかなしそうな笑みをうかべる。


「 ・・・あンな、 ・・・・・カラスに言われたから、 ―― あンな早くきれいにできたんですかい?」

 じぶんでも思っていなかった、嫌味な言葉がでた。


 いいなおそうとしたら、「それもある」と、返される。

「 ―― ただし、あいつらのいう『きよめ』ってのは、まだこれからだがな。 入ってすぐにマツキチがいないのに気付いたから、それならすぐに戻るだろうとおもってな。 とにかく、二人に会えるように《ととのえた》だけよ」



「そうですかい。 それが、あんたのいう、『後(あと)の始末(しまつ)』ってやつで?」


 またしてもでてしまった嫌味な言いように、相手はわらい、こう言った。



「そりゃア、これからだ。 ――  これから先が『始末』になるのよ 」


 怒っているような、歯をむきだしたそのおかしな笑い顔に、ヒコイチの背に寒気がはしり、ジョウカイがゆらいで人ではないものに見えて、息をのむ。



「 おれはこれからセンネンのいるとこにいって、しっかりあとの『始末』をしてこなきゃならねえ。 だから、ここに残る三人のことを、あんたにたのむ」


「・・・ジョウカイさまは、もう、ここに戻るつもりがねえってわけで?」


 どうしても、当たるようないいかたになってしまう。


 それがわかっているように、ジョウカイはうなずいた。

「もう、・・・戻れねえんだよ。 《先よみ》が起こった後には、もうその人たちとは、かかわれねえ。 だがヒコイチどの、あんたは『人』だから、少しはここにとどまれる。だから少しのあいだ、マツキチのそばにいて、ちゃんとした弔いができるようにいっしょにいてやってくれ」



「 おれに おしつけようってことかい」


 にらんでやれば、しっかりと目を合わせてきた。


「ああ、そうだ。 ―― マツキチはな、もう、あんたのことしか覚えちゃいねえよ」


「えっ?そんな・・・、センネンのことは?」


「すべてが終わったら、むかえにくる」

 こちらの問いを無視したジョウカイは、やさしくわらうと、ゆらり、とゆれてそのまま消えた。




「 ・・・はっ。 ちくしょう、 ・・・なんだってんだ・・・ 」

 泣きすぎた眼がみせたまぼろしのように、あとにはあしあとさえも残っていなかった。




 そっと家の中をのぞく。


 こどもは、二人の亡骸の間にもぐりこむようにして、体をまるめ、眠っている。



「 ・・・おれができる後(あと)の『始末』ってのは・・・、 こんなことしかねえんだな・・・ 」

 重い息を吐き、覚悟をきめた。



 








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