↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大滝の石と黒猫のはなし  作者: ぽすしち
十八

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/71

うそだ




 十八、



 腹の中のものがせりあがってきて戸口のそとへはしり、裏にまわってかがみこむ。

 吐いたものに足で土をかけ、風呂場裏の水桶で顔と口を洗ったが、涙はとまらない。

 それでも、建物をみあげて、どこかの戸や窓が壊されていないかとみてまわった。


 どこにもそれらしきあとはない。



 それなら、正面から? いや、戸板は壊されてなどいなかった。

 なら、ヨシスケたちが内から開けたのか。脅されて?

 いや、そうか、ちょうど出かけるところだったのかもしれない。




  だめだ だめだ だめだ



  そんなことはどうでもいい。



 いや、まてよ。賊はどこからかずっと見張っていて、おれとセンネンが出て行くのを待ち構えていたのかもしれない。



 だとすると、やはりおれたちが出たすぐあとで、・・・



      ―― まだ、マツキチがいたはずだ。



 あわてて戸口にかけ戻り、「マツキチ!!」叫ぶと、「 おーう、ヒコイチさん、はやいじゃねえか 」と、のんきな子どもの声が、横手からした。

 安堵とおどろきがまじったままむこうの山へつながる道をみれば、陶器を運ぶための小型の木箱をかついだマツキチが、笑いながらくだってくるところだった。


「 あれ?センネンはどうした?ああ、あいつはまだ寺の、―― 」


 家の中から現れたジョウカイを見て、笑いは去り、不安で困った顔になる。


 ヒコイチが口を開くより先に急に走り出した子どもは、戸口前でジョウカイに抱きとめられ、小さなこぶしを大人にたたきつけてわめいた。


「どけよっ!!はなせって!にいちゃんとねえちゃんはどこだよ!よべよ!」


「マツキチ・・・。 二人は、押しこみに居あわせたようだ」

 ジョウカイの声はひどくやさしかった。


「うそだ!うちにはそんな金ねえよ!」

 こどもはジョウカイの腹をなんどもたたく。


「おまえが思っているより、カワキタ屋の名はこの辺りに響いてるんだ。盗賊の耳に入ればねらわれる」


「いやだ!うそだ!」


 子どもがあばれて、背負った箱の中ががちゃがちゃと音をたてはじめた。

「センネンはどこだよ!?あいつは?もどってくるって、」半分泣きながらマツキチはヒコイチを振り返った。


「もどってきたが、二人の葬儀の支度をするため、おれが寺へかえした」

 かたまっているヒコイチではなく、ジョウカイがこたえる。


「 うそだ!! 葬儀なんてやらねえ!死んでなんかいねえ!」


 顔をまっかにして泣きわめきながら、ジョウカイをたたき、蹴り、どうにかのがれようとする。


「ほんとうだ。マツキチ。ふたりは、もう、死んでいるんだ」


「だったらみせよろ!しんでるにいちゃんたちを!」



 そこでジョウカイが、マツキチをひょいと抱き上げた。



「じょ、ジョウカイさま、 ま、・・・まだ、」

 ヒコイチがいいかけるのにうなずき、坊主はそのまま戸をくぐる。歯をくいしばってヒコイチもあとにつづく。




 覚悟していたさきほどの匂いはどこにもなかった。それどころか、あれだけ板の間にひろがっていた血だまりも、そのあとさえも、みあたらない。




  囲炉裏端には並んで布団が敷かれ、そこに、きれいな顔の二人が横になっていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。