うそだ
十八、
腹の中のものがせりあがってきて戸口のそとへはしり、裏にまわってかがみこむ。
吐いたものに足で土をかけ、風呂場裏の水桶で顔と口を洗ったが、涙はとまらない。
それでも、建物をみあげて、どこかの戸や窓が壊されていないかとみてまわった。
どこにもそれらしきあとはない。
それなら、正面から? いや、戸板は壊されてなどいなかった。
なら、ヨシスケたちが内から開けたのか。脅されて?
いや、そうか、ちょうど出かけるところだったのかもしれない。
だめだ だめだ だめだ
そんなことはどうでもいい。
いや、まてよ。賊はどこからかずっと見張っていて、おれとセンネンが出て行くのを待ち構えていたのかもしれない。
だとすると、やはりおれたちが出たすぐあとで、・・・
―― まだ、マツキチがいたはずだ。
あわてて戸口にかけ戻り、「マツキチ!!」叫ぶと、「 おーう、ヒコイチさん、はやいじゃねえか 」と、のんきな子どもの声が、横手からした。
安堵とおどろきがまじったままむこうの山へつながる道をみれば、陶器を運ぶための小型の木箱をかついだマツキチが、笑いながらくだってくるところだった。
「 あれ?センネンはどうした?ああ、あいつはまだ寺の、―― 」
家の中から現れたジョウカイを見て、笑いは去り、不安で困った顔になる。
ヒコイチが口を開くより先に急に走り出した子どもは、戸口前でジョウカイに抱きとめられ、小さなこぶしを大人にたたきつけてわめいた。
「どけよっ!!はなせって!にいちゃんとねえちゃんはどこだよ!よべよ!」
「マツキチ・・・。 二人は、押しこみに居あわせたようだ」
ジョウカイの声はひどくやさしかった。
「うそだ!うちにはそんな金ねえよ!」
こどもはジョウカイの腹をなんどもたたく。
「おまえが思っているより、カワキタ屋の名はこの辺りに響いてるんだ。盗賊の耳に入ればねらわれる」
「いやだ!うそだ!」
子どもがあばれて、背負った箱の中ががちゃがちゃと音をたてはじめた。
「センネンはどこだよ!?あいつは?もどってくるって、」半分泣きながらマツキチはヒコイチを振り返った。
「もどってきたが、二人の葬儀の支度をするため、おれが寺へかえした」
かたまっているヒコイチではなく、ジョウカイがこたえる。
「 うそだ!! 葬儀なんてやらねえ!死んでなんかいねえ!」
顔をまっかにして泣きわめきながら、ジョウカイをたたき、蹴り、どうにかのがれようとする。
「ほんとうだ。マツキチ。ふたりは、もう、死んでいるんだ」
「だったらみせよろ!しんでるにいちゃんたちを!」
そこでジョウカイが、マツキチをひょいと抱き上げた。
「じょ、ジョウカイさま、 ま、・・・まだ、」
ヒコイチがいいかけるのにうなずき、坊主はそのまま戸をくぐる。歯をくいしばってヒコイチもあとにつづく。
覚悟していたさきほどの匂いはどこにもなかった。それどころか、あれだけ板の間にひろがっていた血だまりも、そのあとさえも、みあたらない。
囲炉裏端には並んで布団が敷かれ、そこに、きれいな顔の二人が横になっていた。




