だめだ
!!流血、残虐な描写あり!!
ご注意ください。。。
十七、
「 ―― 血の匂いだな」
《テング》がだしたのは、はっきりとしたヒトの言葉だった。
なにしろヒコイチをここまで運んだ《テング》は、顔のつくりもからだつきも人とかわることがなかった。ただ、そのおおきなからだはヒコイチ二人分もありそうで、背中にはえたハネはカラスのように真っ黒で、からだより大きそうだった。
そのテングにここまでかかえあげられ、ついさっき、ようやく足が地についたヒコイチは、空をとんだというよりは、ぶらさげられて運ばれた捕まったネズミのようなこころもちにしかならず、ほうりだされると、あしには力が入らず、腰が抜けたようになり、よろけてすわりこむしかなかった。
「 はあ? 『ち』、だあ? 」
テングがだした言葉の意味はわかっているのに、認めたくはなかった。
だいいち、こんなにはなれているのになにがわかる。
カワキタ屋の大きな建物はまだずいぶんとむこうだ。
だが、それなのに・・・ なにか、が・・・・・
まだたちあがれもしないヒコイチは、こえをはりあげ名をよんだ。
「 ヨシスケさん! おトヨさん! 」
戸が開いたその建物には、先にテングにおろされたジョウカイが入っているはずなのに、なんの音もしない。
「 ―― ヒトはおろかよ」
ヒコイチをはこんできた《テング》が、つまらなさそうに言う。
にらんでやろうとふりかえったそこには、くるしげにゆがむ《テング》の顔があった。
おもいがけないものを目にしてくちがあいたままのヒコイチと目が合うと「おい!ジョウカイ!はよう清めろよ!」と怒鳴り、テングはむこうへ走り、地を蹴ってとび去っていった。
残されたヒコイチは、力がはいらぬ膝に手をおき、ゆっくりと立ち上がる。
ふらり、と一歩をふみだした。
カワキタ屋の建物がどんどんと近づくいていくのが、ほんとはいやなのに、確かめずにはいられない。
また、こえをあげて二人の名をよびたかったが、のどが詰まったように声が出ない。
開け放たれた戸口に手をかけ、そっとうかがった中は、なぜか夜のように、暗く、黒いけむりでもたちこめているかのように、くもっていた。
「 ヒコイチどの、はいらねえほうがいい 」
ジョウカイの声はきこえたが、戸をくぐる。
とたんにくもりがぬぐいさったかのように消え、あたりのものが濃くはっきりと見え、すぐにその匂いが鼻にとどき、喉がつまる。
く、と詰まった喉が音をだした。
囲炉裏のむこうでジョウカイが、板の間に倒れる誰かに布団をかけていた。
目が慣れたせいか、暗いなかにも、板の間が、何かでぬらりと光っているのがわかる。
「 お、・・・ふたりは・・・?」
ききながらも、かけられた布団からのびる、いやに白いほそい腕からめがはなせない。
その手がのびた先に、それをつかもうとするかのような姿勢で、また、誰かが手をのばし、倒れている。
「 う、・・・・・・う そ 、 だ・・・」
今日は墓参りに行くからと、ヨシスケは商売用につくったいい着物で行くんだとはりきっていて、おトヨはおっかさんの形見の着物で行くと、朝、見送ってくれて・・・。
「 う・・・そだよ、うそだ」
いまめにしている倒れた誰かさんは、その《いい着物》を着た男で、その着物からのばされた腕は、布団からのびた手とおなじほど、色をなくして白くって・・・。
「 うそだっ・・ だって、・・」
こんな早い時間に、強盗がおしこみにくるなんて・・・。
ヒコイチとセンネンが、ここを出たすぐあとに・・・?
よろよろと近づけば近づくほど、板の間にひろがる血の量や、人の腕なのに人の肌の色じゃなくなっているのや、《いい着物》の色が、どす黒く変わっているのに気付いて・・・。
「 ―― ヒコイチどの」
低く、怒気をおさえた声音に足がとまる。
「 そこからもう寄るなよ。 ―― おれが、ふたりをきれいにする。そうしたら呼ぶ。それまであんたは外にいてくれ。 ふたりだってよ、こんな姿、これ以上みられたくねえさ」
血だまりに立つ男の手には、おトヨが締めていたはずの帯が握られていた。
「 ・・・うそ だ 」
だめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだ
「 うそ、だ。 そんなの、 そんな、 ・・・・だめだ・・・ 」
こんなのは だめだ




